第36話 お前が明智になるんだよ!
「反転しろ。〔
手に持った固形の墨がドロリと溶けた瞬間、一気にその体積を増やし足元に墨汁の水たまりを作り上げ、いつの間にか現れた小さな雲から黒い雨が降り注いで水たまりの面積をどんどんと広くしていった。
『まさかボクの【
ポタポタと降る雨が僕を濡らす。
濡らされるたびに己を蝕んでいる“怠惰”の力が反転――しきれなかった。
「な、なんで……」
『出力の問題かな。確かに〔典外回状〕は強力だけど、ボクの“怠惰”を覆せるだけの力は君のそれにはなかったってことだ。
まあでも――』
「はあはあ……」
『立ち上がれる程度には気力が回復したみたいだね』
突き刺さってる刀を杖の様にして、僕は今にもくじけそうな足を叱咤して立ち上がった。
『本当に凄いよ。他の人間は呻く程度にしか〔典外回状〕の力でも回復していないのに、君は立ち上がるほどにまで動けるのだから』
「はあはあ」
正直、限界だった。
身体はともかく心が辛い。
気を抜けば膝から崩れて二度と立ち上がれなくなってしまうような気分だ。
それに加え〔
だからといってこれを外せば一気に“怠惰”に侵食されて動けなくなるのは明白だから外すわけにもいかない。
い、急いで決着をつけないと……。
「……くっ」
引き抜いた刀を引きずるようにして、ゆっくりと震える足に力を込めて
『分かっていた事だよ。
もしもボクを斬れるとしたら君くらいだろうって。
なんせ君はボクを運んでいる間、スマホを
“怠惰”に屈していたらスマホなんて見ることもできず、抗えても一瞬だけだっただろう。
君は自分のしたいことを優先できていた。乗り越えられていたんだ』
「はあはあ……逃げないんだね」
『ここで走って逃げるほど無粋じゃないよ。
それにボクの“怠惰”にここまで動ける君には敬意を表したいんだ。だから――』
『ボクを斬るといい。君が明智光秀だ』
「……ああ」
刀を持ち上げるのは億劫で、重すぎて今にも手放したくてしょうがない衝動にかられそうになりながらも、なんとか刀を頭上まで持ち上げる。
「これで……終わり、だ!」
『ぐふっ!』
袈裟斬りされた
それと同時に僕も振り下ろした刀の勢いに負け、倒れ込むように床に転がってしまう。
『くっ……、ふふ。恰好がつかないね』
「刀を振り下ろすので精一杯だったんだよ」
床に転がった後、これ以上性欲が高ぶらない様にすぐに〔
『試練は終わりだよ。これでボクは解放される』
「……火、収まってないんだけど」
試練が終わりと言うわりにまだ本能寺は燃えているし、心を蝕む“怠惰”が残ったままだ。
『よく見なよ』
顔を動かすのも億劫だけど、言われるがまま
『君らに移したボクの“怠惰”もどんどん戻ってきてるよ。君が何にも頼らずまともに喋れているのがその証拠だ。
ああでもそうだね。ボクに勝ったご褒美だ。
“怠惰”が抜けても怠さはしばらく残るからここから帰るのは大変だろうし、特別に地上近くまで戻してあげる』
「それはありがたいね」
正直もう寝たい。
そう思ってしまうくらい疲れを感じているのだから。
そう思いながらふと
『君の背中におぶられているの、結構悪くなかったよ。じゃあね』
――パチン
指を鳴らす音が耳に届いたと思ったら、次の瞬間には僕らは地面で横になっていた。
「赤ちゃん!?」
『あー……戻って、来た。もう……いいよね? もう寝てもいいよね?』
「矢沢君、もう少しだけ起きててくれないか!? 誰を復活させる必要があるか確認しないといけない」
転移させられた場所は矢沢さん達が待機していた場所で、
――ポンッ
気怠いけど大分ましになった身体を起こして伸びをしていると、何度か聞いた事のある音が目の前から聞こえてきた。
「……これで4つ目なんだけど、マジ?」
やった事なんてほとんど着いて行っただけで、
僕以外にもなんか死にそうなくらい衰弱している亮さん、
亮さんと
乃亜は謙信との戦いで毘沙門天を再起不能にできた立役者だし、他に武将を倒した人がいないからだろうか?
何はともあれ目の前に宝箱が現れた以上、僕らは初のSランクダンジョンでの【
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