第34話 勝ちへの道筋

 

「もしかしてこれ、ゴブリン達を1匹残らず倒さないと何度でも繰り返しなんですか……?」

「ふざけないで! もうあんなのと戦う体力残ってないわよ……」

「一応ポーションならあるけど……油は使い切ったからさっきみたいには無理だね」


 ゴブリンキングが何故積極的に参加してこなかったのか。

 おそらくそれは確実に1匹は残るように動いていたからなんだろう。


 それなら今度はキングから確実に仕留めに行く?

 いや、どの道キングもジェネラルも王であり将軍なのだから、騎士ナイトを指揮してこちらに攻めてくる可能性が高い。


「2人とも、今はとりあえずこのポーションを飲んで体力を回復して」


 スマホで取り出すのは[フレンドガチャ]で出た、数少ないRレアのスタミナを回復させるポーション。

 ステータス上のHPは乃亜の[損傷衣転]のお陰で減っていないけど、あれだけ動いたりスキルを乱発すれば普通に疲れる。

 その疲労を瞬時に回復してくれるのがこの黄色いポーションだ。


「あ、ありがとう」

「ありがとうございま、あっ!」


 乃亜に渡そうとした時うっかり手を滑らせて、蓋のないビンに入っていたポーションが中身をぶちまけて水の中に落ちてしまった。


「す、すいません先輩」

「いや、いいんだ。それよりも向こうがまだ動かないうちに早く飲んで」


 僕はすぐにスマホから新たにポーションを取り出して乃亜に渡しつつ、ふと思った。


 問いかけがない?


 さっき乃亜の大楯が水の中に落ちたときは、紙と布の大楯を出してきたのに何故?

 さきほど油をまいた時も何も問いかけてこなかったし、液体は対象外ってことなのか?


「「ガアァーー!!」」


 半透明の女をよく見ると何故か服の一部が、赤色とわずかな黄色がまだらに混ざって染まっていた。

 なんでだろ?


 最初に見たときは確かに真っ白な服を着ていたはずなのに……。


「ちょっと何ぼんやりしてるのよ! またジェネラルの方が襲って来てるわよ」


 よくよく考えたら明らかにおかしい。


「……死体」

「えっ?」

「2人は倒したゴブリン達の死体ってどうなったか見た?」

「こんな時に何を言ってるのよ。死体なんて気にしてる場合じゃないでしょ!」


 乃亜が大楯でジェネラルの攻撃を防ぎ白波さんが[狐火]で再び半死半生にした時、キングが動き出したけど今はそれどころじゃない。


「ゴブリンの死体はいつもなら光の粒となって消えてくはずなのに全部水の中に消えていった。もしかしてゴブリン達は全部あの【魔女が紡ぐ物語クレイジーテラー】が生み出したものであって召喚したものじゃないんじゃ……。だったらあいつを倒せばこの戦いは終わりなんじゃないかな?」

「なるほど。そう言えばキングとジェネラルとかにばかり目がいってて一度も攻撃してないわね」

「でしたらいき、ますっ!」


 乃亜さんが大楯を【魔女が紡ぐ物語クレイジーテラー】に放ち――そのまま素通りしていった。


「何よあれ? [狐火]」


 白波さんが[狐火]を放つも同様に素通りしてまるで攻撃が当たらなかった。


「あれを倒すって、まるで幽霊みたいになってて[狐火]を放ってもなんの効果もないんだけど……」

「いや違う」

「何がですか先輩?」

「あれに攻撃するんじゃないんじゃ……?」

「何を言っているの?」

「あれが出てきたときの言葉を思い出したんだけど、『泉たる私の役目』って言ってたの覚えてない?」

「はっ、まさか!?」


 乃亜が足元の床一面に広がってる水を見下ろしたので僕は頷いた。


「この水がおそらく敵の正体だよ。ほらその証拠にあいつをよく見て欲しい」

「白かった服に色がついてますね」

「でもどうするの? こんな床一面に広がってる水を蒸発させるなんて私の[狐火]では無理よ」

「……もしかして、本来であればあのゴブリン達がこいつを倒す鍵なんじゃ?」


 僕はそう言いながらいつの間にか召喚が完了したゴブリンナイト達の群れを見る。


「なるほどね。【魔女が紡ぐ物語クレイジーテラー】は出現したダンジョンより2ランク上の強さを持つ代わりに、必ず倒せる道筋があるって聞いたことがあるわ。

 鹿島の言う通りこいつらの死体で泉を汚す。それがこの狂った語り部を倒す方法なのかもしれないわね」

「なるほど。でしたらまだ希望が見えてきましたね。こうなったら力尽きるまでゴブリンを倒してやりますよ!」

「待った!」

「え、何よ?」

「泉を汚すだけならもっといいのがあるよ」


 そう言って僕は2人にスマホを見せつけるように掲げ、[フレンドガチャ]からお茶を取り出し床へと流す。


「「あ」」


 2人の目線の先には【魔女が紡ぐ物語クレイジーテラー】がおり、着ている服のまだ白かった部分がうすい緑色に染まっていく。


「反応はなし、か。もっと流そ」

『………』

「ちなみに飲み物の数は446個あるけどとりあえずそれ全部流すから」

『や……止めろーーーー!!』

「その反応。当たりかな?」

『止めろ、止めろ! 私が物をに捨てるな!!』

「そう言わないでよ。お代わりならいくらでもあるんだからさ!」


 お茶だけじゃない、まだまだあるぞ!


「ほら今度は牛乳だ! その白かった服をまた白に染め直してあげるからさ!」

『イヤーーーーー!!!!』

「酷いわね」

「さっきまでのわたし達の苦労ってなんだったんでしょうか?」


 2人が迫りくるゴブリン達を塞き止めながらあきれた目でこちらを見ていた。


 いいじゃん、勝ちは勝ちだよ。

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