第26話 これ僕が悪いの?

 

 誠に遺憾ながら試練がヌルゲー化してしまったのは、僕の生き様のせいらしい。

 納得いかない。


『なんでこんな事態になっているのか分かったのです。ならご主人さま。あの影を倒してしまえば試練はクリアなのですよ』

「そうだね。なんだか凄い釈然としないけど」

『ガチャーーーー!! 石、ガチャ石が溶けてもうにゃいのーー!! 石欲しい石欲しい石欲しい石イイイイィ!!!』


 今から殺すと目の前で言っているにもかかわらず、こちらを全く気にすることなくスマホ片手にガチャを回したい、石が欲しいと叫び続けるそれに怒りを覚えずにはいられなかった。だって――


「僕のコピーってことならスマホまでコピーされたってことだよね。

 つまり回したガチャは僕のデータってことじゃないか!

 ちょっとしか石がなかったとはいえ、人の石を全部回したんだな……!」


 許せないぶち殺してやると心に沸々と殺意が湧いてきて片手に持つ剣に力が入るよ……。


「この空間でも電波がつながってるとは思わなかったよ……。人のデータを勝手に使うだなんてあんまりだ!」

『何言ってるの。電波なんて繋がるわけないじゃない。それにあくまでドッペルゲンガーの能力でコピーされて生み出されたものは架空のものよ』

『もっとも完全なコピーだからネットを経由するゲームは出来ないはずなんだけど、“強欲”の力でゲーム自体を疑似的に再現してしまったようね。なんて力の無駄遣いなのかしら』


 それを聞いて安心した。

 “強欲”の力とはなんなのかよく分からないけど、とりあえず僕のデータは無事なようだ。


 心が落ち着いたので、改めて床でグルグル回っているそれを見ると、落ち着いたとはいえ顔をしかめずにはいられなかった。

 デフォルメされているとはいえ、自分と同じ顔でここまでの醜態を見せられるのはさすがに微妙な気分だ。

 これが同族嫌悪というやつなのだろうか。


「もうとっとと倒そう」


 そう言って近づこうとしたら、マリとイザベルが僕とドッペルゲンガーの間に入ってきて近づけないようにしてきた。


『あらあらダメよ』

『さすがにそれを認めてしまったら試練としての体裁をなさないわ』

『『だからあなた達はしばらくあっちのコロッセオの中で待っていなさい』』


 有無を言わせず2人がパチンッと指を鳴らしたら、僕らは再びコロッセオの端に立っていた。

 どうやら強制的に転移させられたようだ。


『惜しかったのです。見つけた瞬間に斬りかかっていたらワンチャン倒せたかもしれなかったのです』

「あれを見ていきなり斬るのは難しいと言わざるを得ないインパクトの強い光景だったから、そんな事無理だったけど」


 試練のこととか全部吹っ飛んで、目の前の何かが何なのかを考えだしてしまうような存在だったからね。


『それじゃあこの後で本格的に戦う事になるのですね』

「元からそういう予定だったから別に問題ないよ。まあでも苦労しなくて済みそうだったと思うと、ちょっと惜しかったかな」


 律儀に待たずに扉の先に行って、床でグルグル回ってたアレに剣を突き立てれば良かったんだし。


 アヤメとせっかくのチャンスだったのになーって話していたら、ようやく僕らとは反対側にある扉が開いて、そこから僕とほぼそっくりの人物が現れた。

 先ほどまで三頭身だったけど今は同じ姿形をしていて、唯一違うのは肌の色が色黒になっている点だろうか。


「現れたね2Pカラー」

『ぶほっ! ちょっ、こんな時に笑わせないで欲しいのです』


 別に笑わせるつもりで言った訳じゃないんだけど。


 思わず吹いてしまったアヤメはともかくとして、ドッペルゲンガーの僕がマリとイザベルとともにコロッセオの中央にある石畳の舞台へと歩いていたので、僕らも同じようにそちらへと向かう。


 近づいて分かったのは、ドッペルゲンガーの僕は覇気のない顔をしていてボソボソと何かを呟いているようだった。何を呟いているんだろうか?


『ガチャ……回したい』

「影響が抜ききれてないじゃないですか」


 大きくなって見た目が変わっただけで、さっきとさして変わってないように思うんだけど、これと戦うの?

 そう思ってマリとイザベルへと視線を向けると、逆にこっちを呆れたような表情で見返してきた。


『仕方ないじゃない。これでも他の人間の三分の一まで“強欲”の力を減らしてようやく立って歩けるくらいにまで落ち着いたのよ』

『あまりの耐性のなさに“強欲”の付与を止める事すら検討したくらいなんだから、この程度なら許容範囲じゃない』


 マリとイザベルが責める様に僕を睨んでくるんだけど、これ僕が悪いの?


『全くもう。……ふふっ。まあでも文句は言っちゃったけどあなたの強欲は面白いと思うわ』

『そうね。普通の人間なら酒、金、異性を求めるのにあなたは遊戯を求めるだなんて。こんな純粋な人初めてよ』

『強欲に耐性の無い人間ほど酷い人間性だから嫌いなのだけど、あなたの事はとっても好きよ』

『『だからこんな試練で死なないでね。もっと私達と遊びましょ』』


 マリとイザベルはそれだけ言うと、この場から消え去ってしまった。

 なんだか地雷臭のする女性に告白されたような怖いセリフを吐いていったなぁ。


 マリとイザベルが消えた後、少し離れた位置にいるドッペルゲンガーが僕と同じ剣をこちらへと向けてきた。


『お前を倒して、ボクはガチャを思う存分回すんだ』

「いや、お前の石もう無いから」

『死ねええええええ!!』

『うわ、さすがご主人さまのドッペルゲンガー。すごい本人らしいのです』


 え、僕こんなに酷いの?

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