第27話 今まで気づかなかった使い方

 

『来い、アヤメ!』

『ハイナノデス』

『うわっ、ワタシのドッペルゲンガーまで現れましたよ!?』

「そんなところまでコピーしてるのか」


 これは思った以上に厄介な相手なのかもしれない。


『はっ!』


 ドッペルゲンガーの僕――長いからドッペルの僕が地面に何かを叩きつけたと思ったら煙幕が張られた。

 [フレンドガチャ]か[カジノ]から煙玉か何かを取り出したんだろう。

 煙の広がる範囲が広く、僕らまで煙に包まれてしまった。


『ご主人さま!』


 アヤメが相手の意図を瞬時に察知したのか、僕の脳内に直接敵の位置を教えてくれた。

 あ、正面にいたのに横から襲撃しようとしてる。


「やぁっ!」


 来ると分かっているなら視界が悪くても十分対応できる。

 剣をドッペルの僕が来るであろうタイミングで振るうと、向こうは慌てて手に持ってる剣でそれを受け止めて、一旦下がった。


 広がった煙は解放感のある場所のお陰かすぐに霧散して消えたので、2体のドッペルゲンガーの姿がよく見える。

 アヤメのドッペルも僕と同じで色黒だな。


『くっ、そう簡単にはいかないか』

『ゴ主人サマ、小サイ方カラ倒スノデス』


 アヤメのドッペルはアヤメを早急に倒したいのか、アヤメを親指で指した後、それを下に向けてこれ見よがしに地獄に落ちろとでも言いたげなポーズを取っていた。


『先にワタシのドッペルゲンガーから倒しません? 何だか見ていて不快なのです』

『偽者ハ消エルノデス』

『どの面下げて言いやがるですか!』


 不思議なイントネーションで喋ってて明らかに偽者は向こうなのに、よくもまあ堂々とこちらを偽者だと言えたな。


『ゴ主人サマ』

『分かってる。[チーム編成]』

「え、それアヤメにも使えるの?!」

『驚いてる場合じゃないのですよご主人さま!』

「あ、そうだった」


 僕も相手に遅れないよう、すぐにアヤメに[チーム編成]の機能を使い、〈衣装〉の項目を操作してアヤメを強化する。


 アヤメは直接戦う訳じゃないから〈武具〉や〈育成〉の意味はないだろうし、初級学生服(メガネ付)を装備させて知能を100%上昇させよう。


 向こうもどうやら同じ考えの様で、向こうの操作が終わった数瞬遅れてこちらもアヤメにコスプレさせることが出来た。


『チッ、魔法モ使エネエトカ、シケタ頭ナノデス』

『ぶっ殺なのです! 誰が役立たずの浮いてる市松人形ですか!』

「誰もそんな事言ってないと思うんだ」


 憤慨しているアヤメはともかく、アヤメが初級学生服(メガネ付)で強化されたことで情報処理の能力が格段に上がったのか、向こうのドッペルの僕がスキルのスマホを操作しようとした段階で何をしてくるかの予測まで伝わってきた。


 [フレンドガチャ]で手当たり次第に物を投擲してくる気か。

 だったらこっちはスリングショットで――


『はっ』

「うわっ!?」


 投擲するのを即座に止めて斬りかかって来た!?


『くっ、こっちの予測を逆手に取ってきましたか』

『フンッ。所詮偽者ノ猿真似ナノデス』

『だからこっちが本物なのですよ!!』


 相変わらず向こうはアヤメをおちょくってくるけど、僕はそれに反応している余裕がない。


「くっ、なんで?!」

『同じスペックでもお前は自分や周りを使いこなせていないんだよ』


 向こうが振るってくる剣をアヤメの予測から受け止めてはいるけれど、防戦一方で反撃がまるで出来なかった。

 ドッペルの僕が言う様に、確かに僕は自分でほぼ戦わないからまともに剣を振るう事なんて出来ないのはその通りだ。だけど――


「なんでドッペルゲンガーなのに僕が知らなかった事まで出来るんだ?!」


 アヤメに[チーム編成]が適用できることもそうだし、剣の使い方だって僕よりも上手い気がする。


『さっきいた魔女達が言ってたじゃないか。“強欲”の力さ。

 理性が少し飛ぶけど、ボクが望む事の最適解を得る事ができるんだよ。

 もっとも死ぬ気で頭を振り絞ればお前だって同じことが出来る程度のものだけどね』


 完コピ+αってズルくない?

 それってつまり自分の持てる力を100%以上発揮しないとこれを倒せないってことじゃん!?


「ヤバい。ただでさえ[助っ人召喚]がインターバルがあるせいで今は使えないのに」

『ああ、それならボクも使えないよ。コピーされるのはこの空間に来た瞬間だからね。その時点でスキルの制限なんかも全部コピーされてしまうんだよ』


 それを聞いて少し安心した。

 咲夜に一方的にボコられる運命だけは回避できたようだ。


『だけどコピーできるのはスキルだけじゃないんだよ……』

「えっ?」


 そう言ってドッペルの僕はあるモノを取り出してきた。


「〔忌まわしき穢れはブラック逃れられぬ定めイロウシェン〕!?」

『お前の持ってる【典正装備】もコピー出来るんだよ! 反転しろ。〔忌まわしき穢れはブラック逃れられぬ定めイロウシェン黒水偽鏡インバージョン〕』

「〔典外回状〕まで使えるの?!」

『ご主人さま!?』


 アヤメが焦ったような声で僕を呼びかけてきたけど、脳内に伝わって来た予測ですぐに何が言いたいかが分かった。

 これはマズイ!


 だけどすでに〔忌まわしき穢れはブラック逃れられぬ定めイロウシェン〕の〔典外回状〕が使用されていて止めようがなかった。


 ドッペルの僕の頭上に大きな雲が現れ、そこから黒い雨が降り注いできて、降る雨の量以上の黒い水が地面を侵食してコロッセオ全体を埋め尽くした。


『ここから先はお互い予測無しでやろうよ』


 僕のスキルの力が反転したせいで、[チーム編成]でアヤメに初級学生服(メガネ付)を装備させると逆にデバフになるようになってしまった。



ーーーーーーーーーーーーー

・あとがき

今週お仕事くっそ忙しいせいで来週ほぼ更新できないかも・・・

毎日5時間近く残業しても終わりゃないの( ; ; )


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