第34話 使えるものは何でも使おう

 

「2日目でこれだと明日はどんなのが出てくるのかしら?」


 僕らは本日2度目の休憩、11時のため早いお昼を取りながら椅子に座って休んでいた。


「冬乃先輩。3日目よりも今日何が出るかの方が問題じゃないですか?」

「えっ、あの剣や槍を持ったのじゃないの?」

「いえ、聞いた話によりますと、1日目はほぼ変わらないそうですけど、2日目には午後辺りから剣や槍以外も持って現れるそうですよ」

「へー、どんなのが現れるのか知ってるの?」

「弓とか使ってきたり鎧を着てきたりするらしいです」


 どうやらスケルトン達に新たに装備が増えただけのようなので、2日目もなんとかなるかもしれない。

 だけど鎧を着てくるとなると、先ほどのように殴れば簡単に砕けたりはしないかな。


「鎧を着てくるのは面倒そうだね」

「そう?」


 なんでもないのでは? と、言わんばかりに咲夜は首を傾げていた。

 さすが僕らが苦戦したバリアーを張るゴーレムを、少し固いだけだったと言い切っただけあるよ。


「咲夜先輩は平気かもしれませんが、わたしはそう簡単にはいきそうにないです。鎧を着てなければ大楯を振るうだけで骨を砕けましたが、鎧を着た状態ではそう易々と倒せる気がしないです……」


 確かにそうだ。

 スケルトンが鎧を着ると、どれだけ防御力が上がるか分からないけど、今までのように容易くは砕かせてはくれないだろう。


「こうなったら先輩にキスしてもらってから挑むべきですかね?」

「そんな気軽にキスを求めないで! いくら[強性増幅]で強化できるからって、それはどうかと思うよ。キスはもっとこう、ちゃんとした雰囲気でするものっていうか……」

「乙女ですか。いいじゃないですかキスぐらい。開き直って、いつでもどこでもやっちゃいましょうよ」

「[強性増幅]を得てしばらくの間あった羞恥心はどこにいったの?!」


 スキルの効果を言い渋ってたし、【魔女が紡ぐ物語クレイジーテラー】の時ピンチになって初めて使ってたのに!


「さすがに初めてキスする時は緊張もしましたが、今は役得だと思って使うべき時は躊躇せずに使おうと思ってます」

「思い切りのよさ!」


 戦闘直前にキスするとか、どこのバカップルか新婚夫婦だよ!


「咲夜さんは何とかなるし、乃亜さんはその手があるからいいとして――」


 えっ、拒否権なし?


「私は厳しいわね。骨だから[狐火]で燃えないし、だからって近距離で[狐火]を爆発させると、こっちに被害がくるのよね……」


 乃亜の提案をそのまま受け入れるかは別として、スケルトン達が鎧を着た状態でも倒せるくらい、冬乃の攻撃力を強化しないといけないのか……。


「じゃあメイド服着る?」

「あ゛っ?」

「すいません」


 そんな憎悪のこもった目で見なくていいじゃん。

 メイド服着るのそこまで嫌なの?


「実際に対峙してみないことには何とも言えませんが、最悪鎧を避けて首とか顔面を狙えば倒せなくはない、かもしれません」

「そうね。戦わないことには分からないものね」

「でも、どうにもならなければ戦法を変える必要があるかもしれませんね」


 今までの戦法はある程度周囲のスケルトン達を間引いて、適度に距離がとれたところで冬乃の〔籠の中に囚われし焔ブレイズバスケット〕で大量殲滅し、生き残ったスケルトンを乃亜達が始末するものだった。

 それがもっとも楽に戦線を維持できる方法だったのだけど、前提条件が達成できないのであれば変えざるを得ないね。


「まあ冬乃先輩が諦めてメイド服を着てくだされば済む話なんですけどね~」

「嫌に決まってるでしょ! ここの人達にはもう見られているからしょうがないにしても、カメラでメイド服姿を撮られて全国放送されるのだけはごめんよ!!」


 それはそうだろう。

 いくら戦闘力が増加するからって、恥じらいは捨てたくないもんね。


「それじゃあ冬乃先輩はカメラで撮られなければ、メイド服を着て戦ってもいいんですか?」

「…………………まあ最悪それなら」


 ちょっと葛藤したな。


「ならですね」

「えっ?」

「だって撮影は1日目だけで、2日目からは危険ということで撮影されませんから」

「あれ、えっ、そうなの?」


 冬乃が驚きこちらに確認を求めるように視線を向けてくるけど、僕は首を横に振って知らないことをアピールした。

 そんなの初耳だよ。


「“迷宮氾濫デスパレード”は調べようとしなければ、テレビで知るくらいの情報しか知りえませんからね。毎回1日目の映像だけ流して、冒険者達がちゃんと撃退してますよ、って見せて、国民の不安を煽らないようにしてますから」

「そうだったの!?」

「お父さん達も言ってましたし間違いないです。そんな訳で冬乃先輩」

「なっ、なに……?」


 乃亜はいい笑顔を冬乃に向け、向けられた冬乃は引きつった顔をしていた。


「着ましょ♪」

「嫌ーーーーー!!!」


 冬乃は頭を抱えて思わず絶叫していた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る