幕間 赤ちゃん編(4)


 ……………ん? ちょっと息苦しい?


 眠気から頭がぼんやりとしているけど、妙な圧迫感を感じるせいで目が覚めてきた。

 一体何が……、って!?


「むにゃっ……」

「ばぶっ!?」


 目を開けると人の肌がダイレクトに目に入ってきた。


 女の子の肌をこんなにも間近で見るのなんてまずないから、ビックリしてしまったよ。

 冬乃がパジャマとして着ていたのは、首元が伸びてしまっている緩めのシャツだったせいか、寝ている間に肩が露出するくらいずれてしまったようだ。


 ただそれよりも、冬乃がその状態で僕をまるでぬいぐるみの様に抱いて寝ていることが問題だ。


 下着を着けていないのか、僕のお腹辺りにほのかに柔らかい感触を感じる。

 うん。さすがにこのままだと、冬乃が目を覚ました時に


 僕は少し苦しいので身をよじらせて、この拘束状態から脱出を試みる。


「ん……、ダメ……」

「!!?」


 冬乃が身じろぎした事によって首元がよりはだけてしまったのに加え、僕が冬乃の顎下あたりで頭を抑えられてしまった結果、服の隙間から微かな膨らみの上についている突起部分がバッチリと見えるようになってしまった。


 ちょっ、これはマズイって!?


 僕は慌てて動こうとしたけれど、片手で頭を拘束されるようにされてしまったため、顔を背けることすら出来なかった。


 こ、こうなったら寝たふりで乗り切らないと……。


 冬乃が起きるまでの間、目を開けたい願望に駆られながらも必死に目を閉じ続けた。


 ◆


「ホントに蒼汰も学校に行くの?」


 朝の乱れていた姿が嘘のようにキッチリと制服を着こなしている冬乃に、学校に行く直前になってそんな事を言われてしまった。


『どの道1人で部屋にいるのは無理だからね。昨日誰の世話になるか話してる時に今日の事も想定していたら、色々な危険も覚悟の上で乃亜の家でお世話になってたんだけど』


 赤ん坊になっているせいで、トイレも1人で行けないのに誰もいない部屋で留守番をしているのは無理がある。

 それにようやく気が付いたのは今朝になってからなんだから、思ったより赤ん坊になってしまったショックが大きかったのかもしれない。


『それに学校の先生には説明しないといけないから、直接話した方が早いよ』

「そうなんだけどね。ただ赤ん坊の蒼汰を連れて行くと、周囲の目が痛そうな気がするのよね」

『それはゴメン』


 道行く人は下手すれば、高校生にして一児の母になったのかと思われる事を考えるとホントに申し訳ない。


「まあいいわ。それじゃあいきましょ。秋斗、夏希も準備出来てるわよね?」

「うん、大丈夫」

「おっけーだよー」

「じゃあ私が戸締りしておくから2人は先に学校にいきなさい。あ、指輪は返してね」

「え~」

「え~、じゃないわよ夏希。あんたがそれ持ってってもただの指輪なんだから、早く返しなさい」

「はい、お姉ちゃん。ほら夏希も」

「ぶー。しょうがないなー。……はい」

「よし。じゃあ2人とも気を付けて行ってきなさい」

「「行ってきまーす」」


 秋斗君と夏希ちゃんが仲良く学校へと向かうのを見届けると、僕と冬乃も学校へと向かった。

 僕は抱っこ紐で冬乃に抱えられてだけど。


 早く元の姿に戻りたいと思いながら学校へと連れられた僕は、早速職員室に連れて行ってもらった。


「すいません、失礼します」


 扉をガラガラと開けて入っていく冬乃に、職員室にいる先生の内の数人がチラリと視線を向けて、再び何かしらの作業に戻りかけて2度見してきた。


 ギョッとした目でこちらを、というか僕を見ている。

 なんで赤ん坊なんか連れて来ているんだという目だね。


「すいません、水越先生。少々よろしいでしょうか?」

「ん、白波か? 何の用……」


 じっと僕を見ている30代前半の出来るOL風な女性、水越茜先生。

 冬乃の担任教師で竹を割ったような性格の人だ。


「……なんで赤ちゃんなんか連れて来てるんだ?」


 もっともな疑問。


「実はですね――」


 何故赤ん坊を連れて来ているのかの経緯を冬乃が説明してくれた。


「まじか」

「マジです」

「ホントか?」

「ばぶ(はい)」

「うわっ。赤ちゃんに聞いて頷かれる日が来るなんて思いもしなかった」


 そんな微妙そうな顔しないで。


「しかしそういう話なら私1人で収まる問題じゃないな。ちょっと待ってろ」


 水越先生は席を立つと少し離れたところに座っている、どこかくたびれているおじさんへと声をかけに行った。

 二三、言葉を交わすと、2人がこちらへと向かってくる。


「は~、また随分と面妖な事になってるじゃないの」

「大林先生。そんな呑気な事を言ってないでください。あなたのところの生徒ですよ」

「そんな事言われてもね。おじさん、赤ん坊になった生徒を受け持った事なんてないから、どう対応したもんかと悩んでるのさ」

「まあ私も話を聞いた時には驚きましたが」


 ボサボサの頭をかきながら、僕を見て困った表情をしているおじさんが僕の担任の大林尊先生だ。


「それで、この赤ん坊が鹿島ってことでいいのかい?」

「ばぶば(その通りです)」

「赤ん坊に頷かれるのは違和感があるね~。まあそれはいいとして、もうずっと赤ん坊のままなのかい?」

「あ、大林先生、水越先生。話の前にこれを」

「ん? 指輪かい?」

「〔絆の指輪〕という魔道具で、これを着ければ蒼汰と会話が出来ます」

「へ~、そりゃ便利だ」


 大林先生と水越先生が早速指輪を装着してくれたので、僕の口……いや、喋ってないか。とにかく思考を伝える事が出来ようになった。


『聞こえますか先生方。今、あなた方の頭に直接語り掛けています』

「あー、そのネタはもう元ネタがなんなのか、おじさんにも分からないね~」

「ふざけないでください大林先生……。鹿島もふざけてる場合か」

『あ、はい』


 水越先生に呆れた口調で注意されてしまった。


 とりあえず、今後どうするかなどを相談し、1週間もあれば元に戻れるはずなのと、その間でも学校に連れて来てもらって授業を受けるということで話はついた。


 よし。これで[フレンドガチャ]を回す為のポイントが貯められないと言う事はなさそうで良かった。

 [カジノ]のメダルが全然ないから、[フレンドガチャ]が何回も回せないと困るんだよね。

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