第20話 無くなった保険
≪蒼汰SIDE≫
黒い球体に呑まれた僕らは一瞬の浮遊感の後、気が付けば先ほどまでとは全く違う場所に立っていた。
「[画面の向こう側]が解除されてる……?」
解除した覚えはないのだけど、先ほどの黒い球体がスキルに何らかの影響を及ぼしたんだろう。
そう結論付けて目の前を見ると、巨大な1本の木の下に白い丸テーブルとイスがあり、そこでマリとイザベルがお茶を飲みながらこちらを見てキシシクシシと笑っていた。
『キシシシ。嬉しいわねマリ。こんなにもたくさんのお客様なんて始めてよ』
『クシシシ。そうねイザベル。精一杯おもてなしをしてあげないといけないわね』
嬉しそうに笑う双子で小学生くらいの少女達。
双子なだけあってそっくりの顔つきをしており、どちらも黒を基調にしたゴスロリで可愛いより少し綺麗よりな感じの服装だった。
唯一違うのは髪の色で、ショートヘアーの右側にメッシュを入れているかのように黒っぽい茶髪の中に二筋の金髪があるのがイザベルと呼ばれた方で、左側にそれがあるのがマリと呼ばれた方だった。
「ど、どこなんだここは!?」
「俺達をこんな所に閉じ込めてどうするつもりだ!」
「お前達が【
先ほどまで言葉が分からなかった人達の言葉が不思議と分かるけど、それは今はどうでもいい。
周囲を見渡せば先ほどまで荒れ地にいたはずなのに、緑生い茂る草原であり、花畑に湖まであり、まるで観光地のような場所。
しかし決定的に違うのは太陽が2つ、月が3つ、針が全く進んでいない時計が何故かそこら中に浮いていて、とてもじゃないが現実だとは思えない空間にいることだった。
『必要だったのはそこの子だけなのだけど、ついでに他の人達も招待してあげたわ。ほら、もっと喜びなさいよ』
『せっかくだもの。大勢の人を捕えて遊びたかっただけだわ』
エバノラがワガママだと言っていただけあって、中々いい性格をしているようだ。
妙な空間に囚われてしまったわけだけど、せめて手心を加えてもらえるようエバノラから何か言って欲しいと思ってスキルのスマホを見たら、エバノラからの電話が切れていた。
え、いつも向こうから勝手にかかってくるから、どうやって連絡すればいいのか自分のスキルのなのに分からないんだけど!
行くのが微妙に嫌だったけど、仕方ないから今度会いに行ってこっちからも連絡できるようにしてもらわないと。
もっともそれが出来るかはここから脱出できるかどうかにかかっているのだけど。
「はっ、ビビることはねえ。俺達は死んでも生き返られるんだ。相打ちでもあいつらを殺せれば一生遊んで暮らせるくらい莫大な金が手に入るぜ」
『それは無理ね』
『ええ、無理よ』
否定してきたマリとイザベルのその後に続く言葉は、僕らを驚愕させるものだった。
『だってあなた達。もうその恩恵を受けてないもの』
『ここに閉じ込められたあなた達は外部とのつながりが完全に切れてしまった状態』
『外にいる子の力は及ばない』
『つまり死んだら』
『『それでお終い』』
ニヤリと2人揃って不気味な笑みを浮かべてきた。
エバノラと連絡が取れなくなってしまったのはここが外部とは完全に孤立してしまっている状態だからのようだ。
徐々に手の内が消えて言った事に気付かされて、若干焦りが湧いてきてしまう。
特に死んでしまったら矢沢さんの力で復活させてもらえないのがかなり厳しい。
もしかしたらあの2人がこちらを動揺させ、怯えるさまを見る為だけに言ったブラフの可能性もあるけれど、先ほどまで繋がっていたエバノラと電話が切れ、再度向こうからかかってくる気配もないので、本当だと思っていいだろう。
「【
「ソフィア先輩。そう簡単に言いますけど、【
「そうよ。それに加えておかしな能力を持ってたり、倒すためのギミックがあったりして厄介なんだから」
最初に遭遇した【泉の女神】も、Fランクダンジョンから生まれたくせして無限湧きモンスターハウスみたいな事してきて、攻略方法が地面に広がった水を汚す事だったし、本当に一筋縄じゃいかない相手だよ。
「はっ、死ぬからなんだって言うんだよ。どっちにしろてめえらをぶっ殺さなきゃ、ここから出られねえだろうが!」
そう言うや否や、取り出した鉄球を野球ボールのようにイザベルに投げつける冒険者が現れた。
『あらあら、無骨なプレゼントだわ』
投げられた鉄球は宙に浮かんでいた針の進んでいない時計に遮られて止められた。
『私達と直接戦いたいのかしら?』
『構わないんじゃないかしら。ここの時計がある限り私達には傷1つつかないけど、それでもいいのなら』
「なんだと!?」
【ミノタウロス】相手だった時は攻略アイテムである短剣がなくても威力のある攻撃なら通ったのに、あの2人には力押しでは一切通じないとか理不尽だな。
『一方的な戦いは面白くないわ』
『どうせやるなら楽しく面白く』
『『さあ、試練の時間よ』』
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