第45話 シビアなタイミング
サラが走らせる戦車を正面から見据えるのはこれが初めてだけど、[画面の向こう側]越しでも威圧感が半端ない。
「でもやるしかないんだよね」
僕は遠くから向かってくる戦車を前に心臓をバクバクさせながらタイミングを計る。
「真髄を見せろ、〔
毛のない筆だったものが刀の柄に変化し、僕の右手に収まる。
それに加え、左手に持っていたとある【典正装備】を近づけると、光の粒子となって右手の刀の柄へと集束。
柄からみるみるうちに刃が出来上がっていき、1本の日本刀が完成した。
20メートル圏内に入った瞬間、この刀を振り下ろせばに刀の元になった【典正装備】の疑似的な〔典外回状〕が確実に中る。
正直、〔典外回状〕なんて〔
たとえ相手が【
――が、“嫉妬”の魔女サラ。てめぇはダメだ。
さっきの試練で人におかしな嫉妬心を植え付けてきた恨み、ここで晴らしてやる!
オリヴィアさん目掛けて突進してくるサラのスピードは凄まじく、効果範囲の20メートルに入ったらあっという間に距離を詰められることになる。
だけど[画面の向こう側]を解除するのが早すぎると飛んでくる木や岩の破片に当たって動けなくなってしまうだろうから、早すぎず遅すぎないシビアなタイミングを狙わないといけない。
[画面の向こう側]の中から当てられればいいのだろうけど、感覚的に届かないと分かるんだよね。
[画面の向こう側]は異空間だから距離が20メートル以上離れてしまっているという事なのだろうか?
テレビに近くても実際にそこに映っている人は遠くにいるのと同じなんだろうけど、その辺はもっと融通が利いてほしかったな。
『今度こそ当てるわよ!!』
かなり距離が近づいて来た。
確実に攻撃を当てるために僕は決断する。
「[画面の向こう側]解除」
『はあっ?!』
馬が通り過ぎた直後――ではなく、ほぼ目の前に来たタイミングで僕は[画面の向こう側]を解除し、それと同時に刀を振った。
目の前でサラが驚愕の表情を浮かべて僕を見ているけど、その顔はすぐに見れなくなる。
「ぐはっ! がっ!!?」
そんな事をすれば当然サラの操る馬達との正面衝突するのは必然だった。
僕は走ってくるトラックにぶつかったかのように吹き飛ばされ木に衝突する。
「鹿島先輩!?」
『ご主人さま!?』
『主様!?』
僕はものの見事に吹き飛ばされてしまったけれど、狙われていたオリヴィアさんはどうやら避けられたようで良かった。
吹き飛ばされた僕とぶつかって致命傷を負った、なんて事になったら笑い話にもならないしね。
「おい、生きているか鹿島先輩!」
『何しているのですかご主人さま!?』
『死んでおらんじゃろうな?』
「大丈夫だよ」
心配そうにやってくる3人だけど安心して欲しい。
僕が受けたダメージは馬に吹き飛ばされた後の木にぶつかった時
「〔
〔
痛みはないけど強烈なGがかかっただけで済んだんだよ。
木にぶつかった時のダメージに関しては、闘技場のような場所でソシャゲのフレンドの男と戦った時に交換していた〔替玉の数珠〕が残っており、メダル約1200枚分でダメージを軽減している。
〔替玉の数珠〕全て壊れてもなお相応のダメージがあった事を考えると、〔替玉の数珠〕なしだったら〔
割と危ない事をしていたんだと思うと今になって冷や汗がどっと出てきたけど、今はその場合じゃない。
「僕の事よりもサラはどうなったの?!」
僕はすぐに起き上がると、戦車に乗っているであろうサラを探す。
今回〔
どんな効果になるかは刀にする前から効果が頭に流れ込んできたから、分かっててあの【典正装備】にしたのだけど、果たして思った通りの結果になっているかどうか。
馬にぶつかる直前に刀を振ったし、手には刀身が粉々に砕けて柄しか残っていないので効果が発動しているのは間違いないんだけど……。
『あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ!!?』
探していたサラはあっさりと見つかった。
戦車で頭を抱えながらうずくまっており、何かに耐えるように叫び続けている。
なるほど、こうなったか。
「なんだ、あれは? 一体何が……」
「今回使った【典正装備】の疑似的な〔典外回状〕の効果だね」
こちらに対して攻撃する気が起きなくなるだろうとは思っていたけど、まさか動けなくなるほどとは思わなかったな。
『あ゛あ゛あ゛あ゛ガチャしたいーーー!!?』
「いや本当に一体何が起きてるんだ!?」
狂ったように叫ぶサラに思わずと言った様子でオリヴィアさんが驚き声をあげていた。
まああんなサラの様子を見たら誰だってそう思うよね。
僕はそう思いながら右手に握っていた日本刀の刀身があった箇所を見る。
今回使った【典正装備】、それは〔
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