第19話 2人の鬼

 

「まあ相手が仮に予想通りだったとしても、何もやることは変わらないけどね」

「そうですね。どの道倒す事に変わりありませんし」

「だよね。せいぜいもし【百鬼夜行】なら、倒した数が多い人が【典正装備】もらえるんだろうなってくらいかな」


 僕がそう言ったら、オリヴィアさんが勢いよく振り向いてスクリーン越しに僕に強い眼差しを向けてきた。


「本当なのか鹿島先輩!?」

「いやあくまで予想だし……。というか、1つ持ってるのにまだ欲しいの?」


 あまりの勢いに少したじろぎながらそう尋ねると、オリヴィアさんは首を縦に振った。


「当たり前だろ? 強くなればそれだけ人を守れるだけの強さが手に入るのだからな」


 なんというか、自分のためでなく他人のために強くなろうって言えるのが凄いよ。

 僕はどうだって? 課金だよ!


「……どんな理由であれ強くなるのなら問題ないと思う」

「出来れば心の中のボケは拾わないで欲しいかなぁ」

「ソウタが心の中で何を思ってるかはどうでもいいさ。

 それよりもまた妖怪が来るよ。それも厄介なのが。[デウス・エクス・マキナ]起動。派生スキル[フルボディオーダー]」


 厄介?


 僕が疑問に思っているとソフィアさんが先ほどまで腕と足だけサイボーグ化していたのを、[フルボディオーダー]ですぐさま顔以外もサイボーグ化にしていた。


 ソフィアさんがそこまで警戒する相手って……。


 ――ドンッ!


「よおてめえら。また会ったじゃねえか」


 地面を大きく鳴らすほど高い位置から降ってきた人物――


「カティンカ!?」

「おうよ。俺の事をキチンと覚えていたようで何よりだぜ」


 中国ロシアの迷宮氾濫デスパレードにて、僕らを襲ってきたオルガの姉だった。


「カティンカだけではないぞ」

「サイラス・ベネット……!」


 そして見覚えのない金髪の男性も一緒に現れた。

 ソフィアさんはその人物の事を知っているのか、敵意を顕わにして睨みつけている。


「どうしてオレの名前を……。ん? まさかお前、アリアナか?」

「その名前はもう捨てた! ワタシの名前はソフィアだ。兄のお前とのつながりを一切断つために全て捨てたんだ。

 あとはお前を倒せば全て清算されるんだ!」


 あの人が文化祭の時に聞いていたソフィアさんの兄なのか。


「くははっ。妹の分際でよく吼える。ああ、それにしても悲しいことだなぁ。まさかお前がユニークスキル持ちになっただなんて」


 サイラスはソフィアさんの全身サイボーグ化しているその姿を見て、悲しくもなさそうな表情、むしろ愉快気な表情を見せていた。


「おやじもおふくろもユニークスキル持ちに殺されたというのにそんなモノを手に入れるなんてなぁ~」

「はっ、よく言うよ。お前はもうとっくにその復讐を果たしただろう。

 なのにまだユニークスキル持ちを殺し続けるのは、自分がユニークスキルを持ってないことへの嫉妬か?」

「バカを言うなよ愚妹。オレがユニークスキル持ちを殺すのは、自分が選ばれたと思っているあいつらを蹂躙するのが最高に楽しいんだよ!」

「自分は選ばれなかったから余計にか?」


 煽るようにソフィアさんがそう言うと、明らかにサイラスの額に青筋が浮かんでいた。


「ははっ。これはもう……殺すしかないな!」

「やれるものならやって見ろ! [エクスターナルデバイス]展開!」


 ソフィアさんとサイラスは互いに持つ剣とレーザーブレードで激しく打ち合い始めた。

 サイラスの剣がレーザーブレードで斬れないのはカティンカと同じで[ハードコーティング]のスキルを持っているためか。


 どちらも高レベルなせいか、今まで見た中では【織田信長】討伐の時に上杉謙信と亮さんが戦っていた時並みに激しい気がする。


 ただそんな事よりも疑問に思う事があった。


「どうしてこの2人は普通に会話が出来るんだ……?」


 僕がそう呟くと、耳ざとくそれを聞いたカティンカが眉をひそめて小指で耳をほじくりだした。


「あん? んなもん知るかよ。だが今の姿は何っつーかしっくりくるぜ。まあ相性が良かったんじゃねえか。この姿が俺達の本質だったということだろうな」


 カティンカとサイラスの2人の額にはそれぞれ角が生えており、妖怪であることを考えると間違いなくあの存在だった。


「鬼、ってことでいいのかな?」

「おうその通りだ。俺は【後鬼】っていうやつらしい。で、あっちは【前鬼】だな」


 あっさりと教えてくれたが、それは聞いたところで特に対策出来る訳ではないからだろう。


「鬼なら咲夜さんが威圧できないかしら? ほら、[鬼神]だし」

「分かった。やってみる、ね」


 対策がないと思っていたら、冬乃が僕が考えもしなかった提案をして咲夜がそれに頷いた。


「[鬼神]」


 上半身を前に倒して体を脱力させた咲夜の体が徐々に変化していく。

 茶髪だった髪は赤く染まり、肌も徐々にに褐色へと変わっていった。

 そしてさらに額からは特徴的な大きな2本の角が生え、完全に鬼の姿へと変化する。


「へぇー、いきなり全力か? いいぜそういうの。じゃあ俺も全力でいくぜ!」

「全く効いてない」


 鬼の上位互換であり神と名がつくスキル[鬼神]だから、鬼は畏怖され戦い辛くなるかと思ったらそうでもなかった。

 むしろ喜んでおり、嬉々として左腕だけで持っている戦斧で咲夜に攻撃し始めた。


「片腕だけなのにこの威力……! 両腕で攻撃してきた前よりも力が強い!?」


 以前遭遇した際にカティンカはソフィアさんに右腕を斬りとばされた。

 そのため今は右腕を無くして戦闘力が落ちているはずなのに、その戦闘力は落ちているどころかむしろ上がっているように見えた。


「くそっ!」

「くははっ! 愚妹の分際でこの兄に逆らおうなど10年早いわ!」


 ソフィアさんの方も1人でサイラス相手にするのは難しそうだし、みんなで咲夜とソフィアさんの援護をしないといけないな。

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