第10話 白い狐の獣人

 

 白い狐耳と尻尾の生えた少女が助太刀を申し出てくれたので、僕はその提案にすがりつくように頷いた。


「おっ、お願いします!」

「オッケー。 2層でモンスターハウスなんてラッキーって思ってたら先客がいた時はどうしようかと思ったけど、無理に開けて正解だったわね。さーて稼ぎ時よ、[狐火]!」


 少女はそう言いながら、自身の周囲にソフトボール大の火球をいくつも浮かべてニヤリと笑う。


「そこのあなた。巻き添え食らいたくなかったら顔を伏せてなさい!」

「うわっ!」


 僕の返事を待たず、周囲に浮かべた火球を放ち次々とゴブリンへと当てていくので、僕は慌てて姿勢を低くして時が過ぎ去るのを待った。

 待った時間はほんの数十秒だっただろうか。


 先ほどまで響いていた爆発音やゴブリン達の悲鳴が聞こえなくなったのでそろりと頭を上げると、僕を取り囲んでいたゴブリン達の姿はどこにもなく、地面には小さい魔石がいくつも転がっているだけだった。


「僕が数体倒すのでもそれなりに時間がかかったのに、40体近くを一瞬で……」


 あまりにもあっけなさ過ぎて茫然としていたら、少女がこちらに駆け寄ってきた。


「大丈夫だったかしら? ところでこの魔石の分配なんだけど……って、あんた確か校門前でいつも挨拶してる人じゃない。確か鹿島だっけ?」


 僕が誰か分かると何故か途中から顔をしかめて嫌そうな顔をした。ホント何故?

 白波さんとは特に接点がないから、そんな嫌そうな顔されるほどかかわったことないはずなんだけどな。


 彼女の名前は白波冬乃しらなみふゆの

 うちの学校で有名な人の1人で、どの学年にも知られていると言っても過言ではない人だ。


 スキルのせいで狐の獣人になり、白い狐耳と尻尾が生え、さらには黒かったショートボブの髪も白くなってしまったけれど、狐耳と尻尾の先端だけが黒いその姿が可愛いと一躍話題となった。

 公言していないけど、おそらく持っているユニークスキルは[獣人化(狐)]だろう。

 獣人になった人は結構いて、どういったスキルでそうなったか公開されているので間違いないはず。


 僕と同じ高校2年生だけど同じクラスではないし、1年の時も違うので面識なんてないのに、なんで嫌ってる反応をしているのだろうか。

 よく分からないけど助けてくれたことには変わりはないのでお礼を言わなければ。


「助かったよ、ありがとう」

「別に。1層と2層のモンスターハウスはただのゴブリンしか出ないから稼げると思って介入しただけよ。この程度の罠にも対処できないくらい弱いんだから、ハーレムなんて汚らわしいことは諦めることね」


 えっ、僕はハーレムなんて望んでないし、そもそも結婚する気なんて皆無なんだけど。


「ここに落ちてる魔石、助太刀したんだから半分貰ってくわよ」

「あ、いいよ。と言うか命を助けてくれたんだから全部持ってっていいよ」

「本当に!?」

「わっ!」


 白波さんは目を見開き尻尾を逆立たせて、座り込んでいた僕に急接近してその整った顔をいきなり近づけてきたので驚いてしまった。


「本当にこれ全部持って行っていいのね?」

「う、うん。と言うかほとんど倒したの白波さんだし」

「そっ、そう、ありがと……。またこんな目に合ってたら助けてあげるわ。もちろんそれ相応の謝礼は貰うけど」


 先ほどよりも少し態度が優しくなった白波さんはホクホク顔で魔石を拾い集めると、すぐにこの場を立ち去っていった。


 あ、僕は別にハーレムなんて求めてないって言う前に行っちゃった。


「まあいいか。……あ~死ぬかと思った」


 僕はこの日、改めてダンジョンが危険なものなんだと認識し、今後はもっと気を付けようと思った。


 ◆


「おはよう……」

「おう。どうした蒼汰? 元気がない、と言うか随分ボロボロだな。無茶でもしたのか?」

「……死にかけた」

「はあ!? 一体何があったんだよ?」

「おはようございます。今日の挨拶が終わったら教室で説明するよ」

「死にかけても挨拶運動は止めねえんだな」

「おはようございます。ガチャのためだよ」


 ガチャのためなら例え失血死寸前の大怪我を負った翌日でもここで挨拶をするよ。


 精神的にも肉体的にも疲れている己に鞭を打って、なんとか平日の朝の日課をこなして教室へと向かう。

 自分の席につき、机に身体を投げ出してグターっとしていると、早速大樹と彰人がやってきた。


「本当に大丈夫か、蒼汰?」

「そんなにしんどいなら今日くらい休んだらいいのに」

「それだとガチャのポイントが貯まらない」

「ここまでくると最早執念を通り越して妄執だな」

「ふへへ、僕はガチャの奴隷なんだ……」

「自分で言ってたら世話ないよ。それで一体昨日は何があったんだい?」


 僕は昨日遭った事を2人に簡潔に説明した。


「うわっ、マジで死にかけてたんじゃねえか」

「ソロでダンジョンに潜るのは大変だと思い知ったよ」


 もしも仲間がいたら、僕が扉にある罠だと示すマークを見逃したとしても、他の仲間が気づいて僕のミスをカバーしてくれただろうし。


「やっぱり仲間がいないとキツイかな。でも仲間になってくれる人は見つからないし……」

「それじゃあ諦めるの?」

「そんな訳ないじゃん! それに昨日のおかげでまた1レベル上がったし、これでさらに魔物が狩りやすくなったんだからまだまだこれからだよ」

「こいつ懲りてねえな」


 大樹が失礼なことを言ってくるけど、今回のことは十分反省してるよ。


「やれやれ。蒼汰はガチャに関しては譲らないね。死なない程度に頑張りなよ?」

「それはもちろん。死んだらガチャも出来ないからね」

「そればっかだな。あんまし無茶すんじゃねえぞ。命あっての物種だからな」

「うん、分かってるよ」


 僕のことを本気で心配してくれるのが分かるので、僕もそれに応えたいと思う。

 次からは注意深く行動することを心に刻み、今日のダンジョンではどう行動していくか頭の中でシミュレーションしながら授業を聞くことにした。


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