第11話 3層のゴブリン

 

 注意深く行動すると誓ってから数日経って、僕は1人で3層へと進んでいた。


 ん? 注意深く進むという話はどうなったかって?


 もちろん気を付けてるよ。

 ただレベルが5に上がったため、2層での狩りがかなりヌルイものになってしまったんだ。

 2層ではただのゴブリンが2体ずつしか現れないので、モンスターハウスで多対一を経験した僕はかなり余裕で狩れるようになったのだ。


 力も強くなり、シャベルで2体まとめて薙ぎ払うように攻撃すると少なくとも1体は確実に倒せて、2体目もかなり弱らせれているので下の階層でも十分通用するだろうと判断した。


 それにしても主武器がシャベルに代わって〔毒蛇の短剣〕を使わなくても狩れるようになった今、僕の見た目はかなり異質になってしまったような気はする。


「ダンジョンでシャベル持って戦う人ほとんど見ないな、ってそりゃそうか。たまに見かけるのは、僕と同じで明らかに冒険者になったばかりのまともな武器を買うことができない初心者の人か、何故か熟練の人が使ってるくらいで」


 熟練の人は、このまま彼もシャベルで戦う一人前の戦士になってほしい、的な目で見てくるんだけど、別にこれを使い続ける気はないよ。

 ただゴブリン相手には十分有用で、わざわざ買い直す必要がないから使い続けているんだ。


「[フレンドガチャ]で〔毒蛇の短剣〕のような効果付きでリーチの長い武器が出てきてくれたらそれに切り替えるんだけどなー」


 さすがにそんな都合のいい物は今のところ出ていない。

 あれかな? やっぱり物欲センサーが働いてしまっているんだろうか?


「まあ武器は最悪買うとして、問題はパーティーを組んでくれる人がいない事だよね……」


 仲間探しは残念ながら上手くいっていない。

 やはりデメリットスキルが足枷となっているのか、声をかけてもスキル名を言うだけで離れていってしまう。


「デメリットスキルで[ソシャゲ・無課金]って言ったら名前だけでそりゃ拒否られるよね」


 ある程度想像つくし。

 一応何人かにはスキルの効果を具体的には言わないまでも、どういうことができるか説明したけど、戦闘系ではないせいか結局断られてしまう。


 スキルがこんなんでもレベル次第なら、って言ってくれる人もいたけど、レベルが5だと告げると顔をしかめられて断られてしまった。


 パーティーメンバー全員がレベル5以上なら適正レベルが足りてるので、この〔ゴブリンのダンジョン〕の5階層まで行けるのだから、僕のレベルはパーティーを組む上で十分足りてるはずなんだけど、何故か嫌そうな顔をされた。

 その理由は分からないけど、そのせいでソロでダンジョンに潜るしかないのだ。


「ただでさえソロなんだし、3層からはゴブリンの種類が増えるから注意しないと」


 初めて3層へと来た時は、2層との違いをできる限り実感しようとダンジョン内を警戒しながら歩き、ゴブリンを見つけても最初はある程度観察し続け、その能力を把握し続けることに注力した。

 そのため1度だけしか戦闘してないけど、2層と3層の違いを肌で感じられたし、何より次の日からそれらのゴブリンに対しては、仮に前みたいに大量に囲まれたとしてもどう対処すれば生き残れるかを綿密に想定できたので、無駄ではなかったと思う。


「ソロじゃなかったら組合が売ってる情報を事前に把握するだけでいいんだろうけど、僕はこのくらい慎重な方がいいよね?」


 ボッチで話しかける相手もいないのに、ダンジョンにいる時、無駄に独り言が増えてしまったような気がする。

 いや気にしては駄目だ。

 今はとにかくゴブリンを狩らねば。


 虚しくなりそうな考えを振り払ってゴブリンを探す。


「3層からはゴブリンソルジャーが出て来るから、できれば向こうがこちらに気づいていない集団を狙いたい」


 2層まではせいぜい木の棒を持つのが関の山だったゴブリン達だけど、この階層からは剣や弓、楯など少しボロイけどちゃんとした武器を持った個体が現れる。

 それらはまとめてゴブリンソルジャーと呼ばれている。


「前は運悪く3体ともソルジャーだったから、今度は1体だけの集団がいるといいんだけどな」


 ゴブリン達は2層では2人1組だったのが3層では3人組で行動していて、その中の何体かソルジャーが混ざっている。

 しかし3体とも全てがソルジャーだった時があり、[フレンドガチャ]のアイテムを工夫して使えば勝てなくはないのだけど、慎重に行くと決めたので無理せず別の獲物を探すことにしたことがある。


「遭遇率は2層よりも若干増えて、しかも3体ずつ狩れるから悪くないかな? でもソルジャーを気にせず2層で遭遇したのをただ狩るだけの方が楽な気はする」


 でもソルジャーの経験値は普通のゴブリンよりは高いらしいから、面倒だけど3層で頑張るか。


 そう思いながらゴブリンを探していると、何かを頭上に持ち上げて運ぶ3体のゴブリンを見つけた。

 曲がり角を曲がる直前で見かけてすぐに隠れたので、向こうは気づいていないはず。


 僕はそっと曲がり角から顔を出して様子をうかがうと、3体ともソルジャーで全員剣を腰に携えていた。しかし問題はそこじゃない。

 そのゴブリン達は上機嫌に、人を神輿を運ぶかのように持ち上げてどこかに連れ去ろうとしていたのだ。


 意味が分からない。


 運ばれている人は遠くからでは判別しづらく、おそらく女性だけど性別なんて関係ない。

 何故ならゴブリン達は男女問わずこちらを殺しにくるだけで、繁殖目的で女性を連れ去ったなどと言った話は聞いたことがないからだ。


 しかしいくら考えたところでその理由は見当もつかないし、今はそんな事を考えている場合じゃない。


「あの人を助けないと」


 僕は[フレンドガチャ]を起動させ、すぐさまスマホを出現させた。


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