第31話 最後の一押し
『ブモオ!!?』
「くそ、ダメだったか!?」
あの攻撃を食らったことがあるから分かるけど、本来であれば悲鳴も上げれずに殺されるはず。
その証拠に“取り込まれた生贄”の悲鳴は聞こえず、ミノタウロスの悲鳴だけが聞こえてくるのだから。
ミノタウロスは咄嗟に自身の腕を盾にして光線を防いだのか、光が収まった後、そこにいたのは着ていたTシャツは吹き飛び、左腕も失い息も絶え絶えな様子で地面に膝を着いているミノタウロスだった。
『ブモオオオオオオ!!!』
「これで6度目の召喚……、なっ?!」
ミノタウロスは自身の周囲に3つの魔法陣が浮かび上がらせ、3体の“取り込まれた生贄”を一気に召喚してきたことに驚いてしまう。
なんとか回復するために召喚を出来るだけしてきたのか、それとも妨害し続ける事でまとめて召喚してくるギミックだったのか。
けど、これはチャンスだ。
『咲夜、〝神撃〟だ! 最悪ミノタウロスを倒せなくても構わない。これで“取り込まれた生贄”は倒したのも含めて28体。こいつらを倒しきれれば、ミノタウロスはもう回復出来ないはずだよ』
『分かった! 〝神撃〟』
咲夜は瞬時に[鬼神]を全力で使用する時の姿へと変わり、第三の目に小さな光球を発生させる。
冬乃を助けるために放った〝神撃〟と違い、[瞬間回帰]で体力を全快にしたばかりの状態で放たれる〝神撃〟は先ほどよりも威力が強くなっているのか、その光はこれまでで一番強烈な光に見えた。
――ドゴォン!!
着弾と共に響く轟音が矢沢さんの歌をかき消すほどであり、耳が少しおかしくなったのかと思うほどであった。
そして再び光が収まった先にいたミノタウロスの姿は無残、その一言につきた。
『ブッ、ブモオオオ……』
頭は半分欠け、両足と左腕は欠損、体中血まみれになっており、生きているのがおかしな有様だった。
「あれでまだ生きているのか……」
僕が半分呆れながらミノタウロスの方を見ていると、フッと体に圧し掛かっていた圧が消え体が楽になった。
「どうやら向こうの品切れのようだな。予想通り“取り込まれた生贄”は28体、そいつら全部いなくなれば、回復も出来なければ、妙な圧も無くなるって訳だ」
穂玖斗さんは立ち上がりながら手に持つ大剣を動きを確かめる様に軽く振ると、両刃斧すら無くなった死にかけのミノタウロスへと向かっていく。
「これでいい加減くたばれや!」
『ブモォ……!』
満身創痍でありながらも、その頑丈な皮膚は健在で穂玖斗さんの大剣を残った右腕で受け止め払ってしまう。
「くそっ、相変わらず硬てえな……。だけどよ、こいつが弱点なんだろ?」
穂玖斗さんはミノタウロスから離れながら、足元に転がっている5本の短剣をいつの間にか回収していた。
「おい、お前ら!」
穂玖斗さんはそう言いながら、僕らの方に向けて短剣を投げ渡してくる。
「俺と乃亜、それに他の連中でミノタウロスを引き付けるから、隙を見て短剣を刺してくれ。背中でもどこでも構わないが、頭や首に当てるのが理想的だ」
「勝手に決めないでください穂玖斗兄さん、と言いたいところですが、それが一番良さそうですね」
乃亜はそう言って大楯を構えてミノタウロスへと穂玖斗さんや動揺から立ち直った他の生徒達と共に向かう。
「それじゃあ冬乃、乃亜達を援護しながら短剣を投げて欲しい」
「分かったわ。咲夜さんは蒼汰が見てて」
「ごめん、もう動けない……」
咲夜の様子を見る限り、初めて〝神撃〟を使った時と比べれば喋れるだけマシなんだろうけど、体を動かす事も出来なさそうだ。
ミノタウロスはもう移動出来なさそうだけど、念のためいつでも移動できるように僕は咲夜を腕に抱える。
「ボクにも短剣を渡してくれ。HPは減ってるが、[身体強化]を使ってミノタウロスに投擲するくらいなら問題ない」
「よろしくお願いします智弘さん」
冬乃と
本来なら短剣は全部で残り16本あるはずなんだけど、[投擲]持ちや投げる余裕のある近接戦闘が出来る人物が分散して持っていたため、今手元にあるのは先ほど穂玖斗さんに渡された5本と合わせて10本しかない。
他に持っている人は、先ほどミノタウロスが出現させた“食われし残骸”に翻弄されているせいで短剣を持っている人が近くにいないせいだ。
だけどあれだけボロボロなミノタウロス相手なら10本もあれば十分なはず。
冬乃と
それを何とかミノタウロスが防御しようとした結果、残った腕に集中して6本刺さり、胴体に3本、頭に1本突き刺さった。
「よし、なら腕から潰してくぞ!」
穂玖斗さんの掛け声と共に乃亜達は腕を集中して攻撃し、そしてあっさりと腕は断ち切れた。
『ブモォ……』
もはや死に体であるミノタウロスに止めを刺すのみ。
「これでトドメだ!」
ミノタウロスの脳天へと振り下ろされた大剣が、先ほどまで苦労していたのが嘘のように何事もなく模様の浮かんだ箇所へと突き刺さるのを想像した。
誰もがみな、これでこの場所から生きて帰れるという安堵と興奮が湧きその瞬間を目の当たりにする、はずだった。
『キャハッ』
誰もが忘れていた、2体目の【
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