第24話 ハーレムを悪く言うな!

 


 僕らにとっては4階層ではなく5階層でゴブリンを狩る方が経験値的に美味しいことが判明した翌日の放課後、再びダンジョンで狩りをしていた。

 もちろん探索する階層は5階層だ。


「先輩と一緒だと凄い狩りの効率がいいですね」

「ほとんど高宮さんが狩ってるけどね。はあ、寄生って言われないように頑張らないとな。……あれ? 誰か来た」


 前方から誰かがこちらに向かって歩いて来ている。

 どうやらゴブリンではなく僕らと同じ探索者のようだ。


 ん? よく見たらケモ耳と尻尾がユラユラと動いているのが遠目からでも分かる。もしかして白波さんだろうか?

 ある程度互いが認識できる距離まで近づいた段階で顔もハッキリと分かるようになったけど、やっぱり白波さんだった。

 まあケモ耳と尻尾がある人ってそこまで多くないからほぼ確信してたけど。


 白波さんも僕らが誰かを認識し、まず僕の顔を見た後高宮さんを見て、もう一度僕の顔を見てあからさまに嫌そうな顔をした。なんで?

 前にモンスターハウスで助けてもらった時も確かに嫌悪感のある表情はしていたけど今ほどではなかったのに。


「やっぱりあのハーレム野郎と同じであんたもハーレム好きなのね。こんな女の子にまで毒牙にかけるだなんて」


 開口一番濡れ衣を着せられた。


「いや違うから」

「何が違うって言うのよ。やっぱり男ってみんなそうなのね。1人の女だけじゃ飽き足らず結婚してても平気で浮気をするんだわ。本当に最低よ」


 ひでぇ……。こっちの言い分を全く聞いてくれない。


「なにがハーレムよ。あなたもこんなハーレムを目指すような男と一緒にいたら、ろくな事はないわよ」

「……ハーレムの何が悪いんですか?」


 高宮さんがいつもよりもだいぶトーンの低い声で問いかけていた。

 なんかいつもと様子が違うような?


「決まってるじゃない。ハーレムなんて男が複数の女を侍らせたいがためのものよ。女性1人で満足できない男の身勝手な欲望を形にした悪しき文化と言っても過言ではないわ」

「………」

「昔は必要悪だったかもしれないけれど、今では男女比のバランスはとっくの昔に戻っているのだから、政府も重婚許可法なんてとっとと廃止にすべきだわ」


 高宮さんは頭を俯かせていて、表情はよく見えないけど微かに震えているのが分かったが白波さんはそれに気づかずに喋り続けていた。


「恋愛はちゃんと男女一対一でするべきよ。動物じゃあるまいしとっかえひっかえだなんてさいて――」

「……でください」


 高宮さんが小声で何かを呟いたけどよく聞こえなかったためか、白波さんは喋るのを止めて高宮さんを見る。


「なによ?」

「ハーレムを知らない人が、ハーレムを悪く言わないでください!」


 明らかに怒っているのが分かるほど険しい表情をしていて、いつもニコニコとしていた高宮さんと同一人物だと思えないほどだった。


「なっ、急に何よ。あなたのためを思って言ったのよ」

「ありがた迷惑です。わたしは見ず知らずの人に恋愛についてどうこう言われたくありません」

「うっ、で、でもハーレムなんて女性をないがしろに――」

「しているかどうかなんて分からないじゃないですか。白波先輩はハーレムを築いている人達を実際に見たことがあるんですか?」

「それは……ないけど」

「だったら憶測でそんなことを言うのは止めてください。ハーレムをろくに知らない白波先輩にハーレムを語られるのは不愉快です。先輩、行きましょう」

「えっ、あ、うん」


 何も言い返せずに黙る白波さんの顔をこれ以上見たくないとでも言うように、高宮さんは僕の手を強引に引いてその場を立ち去ることになった。

 しばらく歩き続け白波さんが見えなくなったところで、突然高宮さんがピタリと止まった。


「……先輩。先日うちの家族を見てどう思いましたか?」


 振り返って僕にそう問いかけてきた高宮さんは少しためらっているような表情をしていた。

 そんな高宮さんの質問に対して、僕は先日会った高宮さんの家族が瞬時に頭に浮かび、真っ先に思う事は1つだった。


「すごい若作りな家庭」

「そっちですか?! もっとこうハーレムについて何も思わないんですか?」

「う~んそうだね。仲が良くていいなとは思ったかな」

「え?」

「うちの家は両親の仲が良かったとは言えない家庭だったから、ああ言う家庭は何というか温かみがあっていいよね」

「先輩……。あ……とう…ざいます」


 小さな声でところどころにしか聞こえなかったけど、確かにありがとうと聞こえた。

 何故お礼を言われたのかよく分からないけど、先ほどまでの鬱屈した空気が払拭されたのであれば問題ないね。


「先輩」

「なに高宮さん」

「乃亜」

「はい?」

「わたしの名前です。先輩にはいつまでも他人行儀のような呼ばれ方をされたくないので、これからは乃亜って呼んでください」

「2日前に知り合ったばかりなのに?」

「良いじゃないですか、同じパーティーの仲間なんですから。それとも先輩はわたしのことを名前で呼ぶのは嫌ですか?」


 その言い方はずるいと思う。


「分かったよ乃亜さん」

「呼び捨てでいいですよ」

「いきなり呼び捨てはちょっと……」

「わたしは気にしませんし、むしろそう呼んで欲しいです」

「そう? それじゃあ乃亜。これからもよろしくね」

「はい、先輩! よろしくお願いします!」

「ところで乃亜は先輩呼びのままなんだ」

「わたしが先輩と呼ぶのは先輩だけですから」


 それはどういう理屈なんだろうかと思いもしたけれど、乃亜が満足そうにしているならそれでいいか。

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