幕間 高宮乃亜(1)
≪乃亜SIDE≫
昔からわたしはお父さん達のような家庭を作りたいと思っています。
わたしの家は父がいて、兄が3人いて、姉が5人、そして母が
昔はそれが普通だと思っていたけれど、小学校にあがってようやくそれが違うことを知りました。
一般的な家庭は父と母は1人だけ。
一夫多妻の家庭は大抵富裕層であるため、学校も上流階級の人達が通うような私立の学校に子供を通わせるけれど、両親たちがわたし達には普通の学校に通い普通の生活をして欲しいと望まれたので、公立の学校に通うことになりました。
だけどそれが原因で一時的にうちを、ううん、お父さんを嫌いに思っていたことがありました。
「お前の父ちゃん、ハーレムの主なんだろ?」
「うわっ、ゆうじゅうふだんのエロ親父だ!」
「男のかざかみにもおけないさいてーな父だ!」
富裕層であれば珍しくない事でも、一般家庭では普通でない事はからかわれる要因としては十分だったのでしょう。
その集団内では異端であったわたしの家庭について、男の子たちから心無い言葉をかけられ続けられるせいで、どうしてわたしの家はお母さんが1人じゃないんだろうかと悩むようにすらなってしまいました。
どうしてわたしの家はお母さんが3人もいるの?
お父さんがゆうじゅうふだんだから?
……お父さんはさいてーなの?
お父さんは平日でもわたしが寝るよりも前には必ず帰ってきて、疲れていても遊んだり勉強を見てくれる自慢の優しいお父さんだけど、人にマイナスイメージを1年もの間言われ続けたせいで、お父さんに対して徐々に嫌な気持ちが増していっていたと、今になって思います。
洗濯物を一緒に洗って欲しくないと言ったり、お父さんの後のお風呂は嫌って言っていました。
お父さんは「小学2年生にして早くも反抗期が来てしまった……」って言って膝をついて嘆いていたけど、その時のわたしは落ち込む父を見て、少しだけ胸がスッとしていました。
そんな生活が数か月経ったある日、ついにわたしは「お父さんがハーレムなんて作らなきゃ良かったのに!」って言ってしまいました。
悲しそうな目で見るお父さんでしたけど、わたしはそれすら気にせず胸に溜まった思いを家族へと吐き出した後、お父さんを擁護しようと声をかけてくるお母さん達の言葉を聞かないように、出来る限り会話をしない生活をするようになりました。
そんなわたしの気持ちを変えてくれたのが当時高校生だった、長女である
「まったく、いつまで不貞腐れてるのよ」
「だって……」
「ま、あんたの気持ちも分かるけどね。私もあんたくらいの年に周囲に散々言われてたもの」
「じゃあお姉ちゃんだって嫌じゃないの? お母さんがいっぱいいるっておかしい事なんでしょ?」
「馬鹿ね。他の家庭の父親は甲斐性がないから1人しか女を侍らすことが出来ないのよ」
「かいしょう?」
「簡単に言えばお金を沢山持ってて大勢を養える人のことよ。ハッキリ言ってお金が無いやつと結婚してもロクな事にならないし、しかもそう言うやつに限ってこっちに隠れてコソコソと浮気しやがるのよ」
今思うとまだ姉は高校生のはずなんですけど、なんで既婚者みたいな実感のこもったセリフが言えていたんでしょうか?
と言うか小学2年生に言うセリフじゃない気がするんですが、陽柊お姉ちゃんはちょっと粗雑なところがあるのでしょうがないです。
「確かにうちは普通じゃないかもしれないけど、もしも父さんがお母さん達と一緒にならなかったら私とあんたのどちらかは生まれてこなかったのよ」
「えっ……?」
「私の生みの親は
そう言うと陽柊お姉ちゃんは近づいて、ベットに座るわたしの目線に合わせるようにかがんで見つめてきました。
「私はあんたが生まれてきた時凄く嬉しかったわ。母さんは違うけど間違いなくあんたは私の妹だもの。あんただけじゃない。他の妹、弟が生まれてきた時、私は家族が増えたと思ってとても嬉しかったわ。あんたは違うの? 私達のこと嫌いなの?」
「違う! お姉ちゃん達のことを嫌ったことなんて一度もない!」
「じゃあいいじゃない。家は家、よそはよそってね。所詮何も知らない赤の他人が好き勝手言ってるんだから変に気にするもんじゃないわ」
「……うん……………うん、そうだよね!」
「ははっ、ようやく笑ったか。ここ数日ムスッとしてて家族みんな心配してたんだぞ」
「わっ! お姉ちゃん、髪がクシャクシャになるよ~」
わたしの頭を乱暴に撫でるお姉ちゃんを見ながらここ数日、いえ1年もの間胸の内に鬱屈していた黒い感情が晴れているのを感じ、やっぱり家族っていいなって思いました。
「あのね、お姉ちゃん。わたしお父さんにごめんなさいってしてくる!」
「ん? まあ向こうとしては早すぎる反抗期が来たと思ってるだけだろうし、あんた以外にも父さんのハーレム問題についてぶつかり合ったのは何人かいるから気にしなくてもいいと思うけど」
「ううん。悪いことしたら謝らないといけないって穂香お母さんが言ってたからちゃんとする!」
「……そっか。よし、じゃあ行って来い」
「うん!」
わたしはすぐさま自分の部屋を出て、お父さんのいるであろうリビングへと向かいました。
するとそこには思った通りソファーで寛ぐお父さんと机で刺繍をしている亜美お母さんがいたので、お父さんの目の前に立つよう移動しました。
「お父さん!」
「ん? ああ、乃亜か。えっとだな……」
お父さんがわたしを見て何やら言い淀んでいましたけど、わたしはそれを気にせず頭を下げました。
「お父さん、ハーレムなんて作らなきゃ良かったのにとか色々言ってごめんなさい」
「えっ、乃亜?」
「お姉ちゃんに言われて気づいたの。わたし、家族のみんながやっぱり好きなんだって!」
「おっ、おお! そうかそうか!」
「良かったじゃないあなた」
嬉しそうな表情で笑うお父さんはわたしの後ろから来た陽柊お姉ちゃんを見て何かを悟ったのか、よくやったと言わんばかりの表情になったけど、続くわたしの言葉で何故かその表情が固まっていました。
「だからわたし、将来お父さん達みたいなハーレムを作るの!」
「「「えっ?」」」
3人はまるで目が点にでもなっているような表情をしていたけど、わたしは気にせず自分の胸の内を語りました。
「家族は多い方が嬉しいってことを陽柊お姉ちゃんが気づかせてくれたの! だからわたしも将来沢山の家族に囲まれて生きていきたいの!」
「ちょ!? 陽柊おまえ乃亜に何を吹き込んだんだ!?」
「あちゃ~、まさかそう言う考えになるとは思わなかったわ」
「どうしたのお父さん?」
「あ、いや、えっとだな乃亜。ハーレムを作るって男を侍らすってことか?」
「ううん。かいしょう? のある男の人をつかまえて沢山の奥さんと一緒に暮らすの!」
「うっ、そうか。いや乃亜。そう言うことはもう少しよく考えてだな……」
「諦めたら父さん。ぶっちゃけ父さんが何言っても説得力ないわよ」
「そうね~。それに乃亜がそれを望むならお母さんは応援するしかないわ」
「だ、だが娘をどこともしれん男の妻の1人にすると思うと許せないものが……」
「それ、まさに父さんのことじゃない」
「あ~私の父もまさに今のあなたみたいな気分だったのかしらね~」
「うおおぉ~! 乃亜が俺を嫌わなくなったのは嬉しいがどこぞの男のハーレムの一員になりたいと言い出すなんて……。俺は一体どうしたらいいんだー!」
お父さんがその後何やら悶絶していましたけど、わたしは将来の自分を想像してワクワクしていました。
将来わたしはハーレムを作るぞ!
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