第25話 派生スキルとアップデート


「本日は誠にありがとうございました。今日はこれで最後ですのでよろしくお願いします」


 現在午後7時で、3日間1時間ごとに休んで戦い続けるんじゃないかという勢いだったけど、どうやらあと1回こなせば終わるらしい。


「それじゃあ最後の1回頑張ろうか!」

「そうですね。正直汗でベトベトなので早くお風呂に入りたいです」

「ま、急いだところですぐに終わるわけじゃないから、さっきと同じようにこなすだけだけどね」

「うん、頑張る」


 全員が気合を入れて本日最後の戦いを始めた。

 と、言っても気合を入れたところで何か変わるわけでもなく、交代した直後の動きさえ気を付ければ、後はただの作業なのだけど。


『今日だけで魔石がかなり集まったわよね?』

『そうだね。多分1200個くらい? 高い〔マジックポーチ〕買っといて良かったよ』

『それに関してはナイス判断よ。普通のリュックじゃ300個程度が限界だったわ』


 300万もするものだから結構入る。

 確か容量限界がリュック50個分くらいだから、今日入れた分の10倍は入るかな?


『凄い集まりましたよね。それに加えてレベルもそれなりに上がりましたし、特に咲夜先輩はかなり上がったんですよね?』

『うん。さっき戦ってたら派生スキルが増えたって2回も出て、休憩中に見たらレベルも凄い増えてた』


 咲夜のレベルは前に見せてもらった時はまだ1桁だったから、いくらFランク程度の魔物とはいえ1200体+冬乃がまとめて吹き飛ばした数を4人で割ったとしても、かなり経験値が入ってレベルが一気に上がるよね。

 スキルについては聞いてたけど、ステータスとかは後でお互い確認することにしよう。


 屈んでこっちに吹き飛んできた魔石を拾い集め、スキルのスマホで冬乃の装備を逐一消しては出しての繰り返しをしながらそう思っていた時だった。


 ――ピロン 『レベルが上がりました』


 あ、またレベルがあがっ――


 ――ピロン 『派生スキルを獲得しました』

 ――ピロン 『スキルよりプレゼントが届きました』

 ――ピロン 『スキルよりメッセージが届きました』

 ――ピロン 『条件を達成したため派生スキルの一部がアップデートされました』

 ――ピロン 『派生スキルのアップデートに伴いプレゼントが届きました』


「いや、ちょっ、まっ!?」


 いきなり頭にピロンピロンと音が連呼され、なんかスキルに色々何かがあったようだけど、唐突すぎて頭に全く入ってこないよ!


 突然のことに驚いてしまったせいで、いくら僕が他の事をしながらスマホを操作するのに慣れているとはいえ、タップミスをするのは当然のことだったのかもしれない。


 [チーム編成]の画面には下のタブ部分に常に〈武具〉〈衣装〉〈スキル〉〈育成〉が表示されており、誤って〈衣装〉の項目をタップしてしまった。


 ――ピロン 『チュートリアルを開始します』


 今までチュートリアルなんかなかったくせに、なんで今回に限ってそれが起きるんだよ!


『どうしたの蒼汰? もう撃ったから次のやつを早く渡してよ』

『ごめん! 今、手が離せなくなったからしばらく耐えて!』

『ええっ!? ちょ、急ぎなさいよ! 乃亜さん、咲夜さん、しばらく〔籠の中に囚われし焔ブレイズバスケット〕が使えなくなったから、他の冒険者と交代する時のようにバリケード入口近くで集まって迎撃するわよ』

『わ、分かりました!』

『了解』


 この3人なら他の冒険者のように入口近くで撃退し続けられるだろうけど、出来るだけ急がないと。

 僕は入口近くに移動しながら、チュートリアルを進めるためにスマホをタップすると画面にメッセージが浮かび上がる。


 ――『送られたプレゼントをタップしてください』


 矢印が画面上に現れ、ラッピングされた箱を指し示していた。

 さきほどプレゼントが2度届いたから、それのどちらかなんだろう。

 すぐさま僕はそれをタップする。


 ラッピングされた箱からリボンがほどかれ、ポンッと音を立てて中からメイド服のデフォルメされた絵が現れた。


 ――『メイド服一式を入手した』


 今、いらないんだけど!?


 ――『入手したアイテムをコスチュームチェンジの項目にセットしてください』


 冬乃の〈衣装〉の画面の右下に今までなかった空欄が現れていた。

 ……嫌な予感がする。

 せめて乃亜に変えたいんだけど出来ないだろうか。

 くっ、この画面から切り替わらないから無理だ……!


 諦めて僕はその空欄にメイド服の絵を当てはめた。

 すると空欄だった箇所の上に丸いボタンでコスチュームチェンジと書かれたものが現れた。


 ――『タップしてください』


 無情にも矢印の先にはコスチュームチェンジのボタンが。

 ……ふぅ。


『冬乃』

『なに、蒼汰?』

『ごめん』

『へ?』


 僕はそのボタンをタップした。

 すると冬乃の全身がキラキラと輝きだす。


「えっ、ちょっ、何よこれ!?」


 その様はまるで魔法少女の変身シーンのごとく全身を輝かせ、明らかに今絵で見たもののシルエットがその光の中で浮かび上がってきた。

 パッと光が散ると、まごうことなく狐っ娘メイドがそこにいた。


 ――『チュートリアルは終了しました』


 画面にはチュートリアルが終了したと出ており、軽く操作してみるといつものように操作できた。

 だけど僕はすぐに冬乃に〔籠の中に囚われし焔ブレイズバスケット〕の再召喚をするのを本能的に止めていた。


 だってその背中が滅茶苦茶プルプル震えてるんだもの。


「蒼汰ーーーーーーー!!!!」


 メイド服姿で今までで一番の威力の脚撃をスケルトン達に浴びせて吹き飛ばしていた。

 いや、ホントごめん。

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