第12話 安全地帯設置

 

≪蒼汰SIDE≫


 亮さんと斎藤道三が戦っている場から大分離れた所まで移動したので、僕らは先ほどと同じペースでダンジョンの移動を開始した。


「風間さん大丈夫なんでしょうか?」

「心配しなくても大丈夫よ。うちの旦那が負けるはずないし、いざとなれば切り札があるもの。むしろ心配しなきゃいけないのは私達の方ね」


 乃亜が背後の方を見て言うと、沙彩さんはその肩に手を乗せ、気にするなと言わんばかりに首を横に振っていた。


「わたし達の方が心配なんですか?」

「ええそうよ。出てくる武将の中で斎藤道三は3番目か4番目程度の強さ。

 上杉謙信と武田信玄が1、2番目に強いのだけど、この2体が同時に出てきたら逃げなきゃいけないわね」


 いくら死んでも生き返れるとはいえ、死んでしまっては作戦失敗でありそんな事になれば元も子もないから当然だね。


 それにしても今の話を聞いて出てくる武将を想像し思ったのは、やはり知名度の差が戦力の差なんだろうか?

 そうなってくると織田信長はどれだけ強いというのか。

 日本人なら誰もが知っている人物であり、知名度は断トツと言っていいのだから、かなりヤバい相手なんだろう。

 戦わない僕らが考えても仕方のない事なんだろうけどさ。


 それはともかく亮さんがいなくなったけれど、僕らの進むペースはスケルトン達が出てきても変わらず順調に進めている。

 先ほど斎藤道三が現れたけれど、この広いダンジョンで早々武将達が現れる事はないようだ。


 Bランクのダンジョンで確か300階くらいあるらしいことを考えると、Sランクのこのダンジョンは少なくともその倍はあってもおかしくない。

 こんな広いダンジョンから武将達を見つけ出す事なんてできるんだろうか?


 ――カタカタカタ


「またスケルトン達が現れたか」


 そんな広いダンジョンであるにも関わらず、スケルトン達の出現頻度は異常なまでに多い。


 Fランクの〔ゴブリンのダンジョン〕でレベル上げをしていた時なんか、そこまで広くないダンジョンだけどゴブリンと遭遇する頻度は多くなかった。

 やはり人が入らないダンジョンは魔物もドンドン増えていってしまうんだろう。


 3カ月前に迷宮氾濫デスパレードがあったばかりなのに、まだまだこんなにもダンジョン内にはいたんだなぁ。


 順調にダンジョンを進めているとはいえ、さすがに戦闘を何度もすれば疲れも溜まる。

 僕らも戦闘に参加すればその疲労も分散できるんだろうけど、僕らがここにいる意味を考えると下手に動く訳にもいかない。


 時間的にも夕食を食べたりするにはいい時間だったので、ついに僕らの出番がやってきた。

 安全地帯の設置だ。


「それじゃあみんな、手を出して」

「「「了解」」」


 特別な儀式は必要なく、いつものようにスキルを使う感覚で使えばいいだけなんだけどね。

 唯一の違いは僕ら4人で手を繋いでいる必要があるくらいか。

 なんせスキル名が[ダンジョン操作権限(1/4)]で、本来1つのスキルを4人で分割して所持しているのだから、離れていたら使えない。

 まあ魔物のいない場所にしか創ることができないから戦闘中に使うことはないので、全然問題ないけれど。


 手を繋いだ僕らは早速安全地帯を設置するよう念じると、僕らを中心に薄い緑色の光の壁がドーム状に広がっていく。

 現在53人いるのでその全員が就寝するには狭い程度の広さだったけれど、半分は起きて周囲の警戒をすることになっているので問題はなさそうだ。


「これが安全地帯か。結界として考えるとなんだか頼りなさそうじゃが、これで魔物はここには近寄ってこなくなるんじゃろ?」


 ドワーフさんがもじゃもじゃの髭を撫でながら、物珍しそうにキョロキョロと安全地帯を見回していた。


「そうですね。1度使っただけですが、その時はこの空間の近くに魔物が来て僕らの方に視線を向けても、中に入ってこようとはしませんでした」

「ふむ。魔道具の魔物避けとは大分違うのう。あれは効果範囲は狭いし、魔物が近づきたくなくなるだけで、こちらの存在を感知されたら関係なく向かってくるからの」


 まあ魔道具とかで済むのであれば僕らは呼ばれないでしょうね。


「それじゃあ各々休憩ね。取り決め通り一応パーティーの中で1人は安全地帯の外を警戒しましょ」


 沙彩さんが全員にそう告げると、各々拠点を設置し始めた。


 ふぅ。ずっと歩き続けていたからさすがに疲れたかな。

 他の冒険者と違ってレベルは低いし、[体力自然回復強化]みたいなスキルも持ってないからスタミナなんてレベル相応だし。

 ベテラン冒険者達はさすがと言うべきか、あまり疲れている様子は見えないのでレベルや体力を向上させるタイプのスキルとか持ってるんだろうな。


 そんな事を思いながら、僕はいつものごとく[フレンドガチャ]で手に入れたアイテムをポンポンと取り出して夕食の準備を始めていた時だった。


「おい、来たぞ!」


 誰かの声に咄嗟に立ち上がってそちらに視線を向けると、そこにはスケルトンの群れがウロチョロと動いているのが見えた。

 しかしそのスケルトン達は今僕らがいる広場には何故か入って来ようとせず、行ったり来たりするだけで一向にこちらに向かって来ようとしなかった。


「明らかに見えてるはずなのに向かって来ねえし、こんだけガチャガチャ騒がしいのに全く気付いていないみてえだな。

 マジでここが安全地帯になってるじゃねえか」


 感心したように野生ボウズさんはスケルトン達の方に視線を向けながらそう呟いていた。


 正直僕らが来る意味あったのかとダンジョンに入る前まで思っていたりもしていたのだけど、30分前くらいにここにいたスケルトン達を殲滅したばかりなのに、もう次のがやって来るのならそりゃ必要だよね。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る