エピローグ2

 

≪蒼汰SIDE≫


「ガチャ……」

「なんだか新種の生物の鳴き声みてえだな」

「ヒト亜科ヒト族ヒト亜族ホモ・サピエンス・ガチャって感じかな?」

「最後の一言がなけりゃただの人間のままなんだがなー」


 教室の机に突っ伏してひたすらに悲しみの海に溺れている僕の傍で大樹と彰人の2人が好き勝手言ってるけど、反応する気力もないガチャ……。


「まあソシャゲのイベントで新しいガチャ出たのにまともに回せなくて嘆いてるだけだろうけど」


 当たりだよちくしょう。


「先月も入学式ガチャに、ロクにガチャ石貯めてねえのに回して自爆してたのに懲りねえやつだな」

「くっ、課金が、課金が出来さえすれば……!!」

「蒼汰のスキルが変質しない限りは課金出来ないけどね」


 あの【魔女が紡ぐ物語クレイジーテラー】と対峙したお陰でレベルが凄く上がり、派生スキルが1つ増えた。

 だけど彰人の言う通りスキルは相変わらず[ソシャゲ・無課金]のままであり、ダンジョンに潜る前と何一つ変わっていない。このことから導かれる結論は1つだけだった。


「課金が、できない……」


 あれだけの強敵を相手にしたのだから[ソシャゲ・無課金]がせめて[ソシャゲ・微課金]に変わっててくれてもいいじゃないか……!


「せめて1万円……」

「1万がせめてっておかしいからな?」

「普通はせめて2000円くらいじゃないかな?」

「小学生のお小遣いじゃないんだよ!」

「小学生で2000円は結構リッチじゃないか?」

「その辺は家庭によるから一概には言えないかな~」


 まあ僕が小学生のころは学年×100円がお小遣いだったけど、それはそれだ。


「い、息苦しい」

「[無課金]ついてからガチャ呼吸が満足に出来なくなってるからな」

「もう生き苦しいって感じだね」


 分かってるじゃないか2人とも。


 ――ムニッ


「それならまだまだ一緒にダンジョンに行かなければなりませんね、先輩」

「乃亜、ちょっとボディタッチが激しくない?」

「前もってエッチなことしておくと[ゲームシステム・エロゲ]が悪さしないので、自分でコントロールするためには仕方がないことなんです」


 その割には嬉々として抱き着いてるよね。

 今だって僕の頭を抱えてるせいで胸が押し付けられてるし。


「蒼汰、なんで人ってやつはこうも不公平なんだろうな……」

「そんな天を仰ぎ見て無駄にカッコよく言わないでくれない?」


 大樹はエロい目に遭いたいだけでしょ。


「先輩は嬉しくないんですか、こうして抱き着かれるのは?」

「嬉しいけど人目がツライ」


 付き合ってもいないのに教室でこんな事してるせいで、クラスメイトの目がバカップルを見る目になってるんだけど。


「嬉しいですか、ふふふ」


 ニヤニヤと笑う乃亜が僕の耳元へと顔を近づけてきた。


「じゃあキスされたあの時は嬉しかったですか?」

「っ!」


 誰にも聞こえないよう小声で話してくれたから良かったけど、乃亜の顔が赤くなってるので大樹が天を向いてなかったらまた追い掛け回されるところだった。


「そんな顔赤くするくらい恥ずかしいなら言わないでよ」

「だって先輩、あの後何もなかったかのようにスルーしてるじゃないですか。ファーストキスだったのに……」

「いや、あれは緊急事態だったからでしょ。乃亜だって[強性増幅]使うの葛藤してたくらいだし」

「先輩、女の子はいくら緊急事態でも――好きな人以外とはキスしませんよ?」

「!?」

「[強性増幅]は性を感じればいいので抱き着くだけでも効果は発揮します。まあキスとかの方が効果は強いですが、好きでもない相手ならあの状況ではまだ抱き着く程度で済ませましたね」

「あ、あーなるほど……」


 いきなり告白されたようなものなので唐突すぎて言葉が浮かばない。

 なんて言おうか迷っていると、乃亜が僕をより強く抱きしめてきた。


「先輩、答えは急がなくていいですよ。でもこれだけは言っておきますね」


 乃亜は一呼吸置いて、まるで積年の思いを伝えるかのような表情で囁くようにこう言った。


「好きです先輩。だから一緒にハーレムを作りましょう」

「………………はい?」


 あれ? 今告白されたのになんか凄いおかしなこと言われた気がする。


「今、なんて?」

「もう先輩。そんな何度も告白させようとするなんて意地悪です」

「いやそっちじゃなくて、ハーレムの方」

「ああ。わたしは家庭を持つなら絶対ハーレムがいいと思ってるので、先輩には是非とも複数の女性を囲って欲しいと思っています」

「本人の意思は!?」

「大丈夫です先輩。為せば成る、です!」

「いやいや何も大丈夫じゃないし、為す気はこれっぽっちもないよ!」


 僕が困惑していると、教室の外から僕らを呼ぶ声が聞こえてきた。


「何やってんのよあんた達。今日はダンジョンに行くんでしょ? 早く行きましょ」


 尻尾を揺らしている白波さんだった。

 それを見た僕と乃亜は互いに頷き、とりあえず教室の外に出ようとしたところで後ろから肩を掴まれる。


「おいどう言うことだ蒼汰。あの白波さんがお前を誘うだと……!」


 当然大樹だった。ちっ、逃げられなかった。


「どう言う意味だよ」

「だってどれだけ他の冒険者から誘われても首を縦に振らず1人でダンジョンに潜り続けた白波さんが、何でお前をダンジョンに誘うんだよ」

「ちょっと前に色々あった」

「何があればそんな――はっ、まさかお前白波さんにもエロいことしてるんじゃ……」

「は、はぁ!? な、何言ってるのよ。そんなことされてないわよ!!」


 顔を赤くして狼狽えながら言ったら逆に捉えられるよ。

 トイレで一瞬全裸にしただけじゃん。背中向けてたしセーフでしょ。

 ……いや、エロいのか? 女の子裸にしたんだし。


「蒼汰、お前と言うやつは……」

「そんな今にも血の涙を流しそうな表情で睨まないでよ」


 普通に怖い。


「ずるい、ずるいぞ! 言え、言うんだ! 一体ナニをした? 白波さんにどんなエロいことをしたんだ!」

「ちょっ、だからエロいことなんてされてないって言ってるでしょ!」

「そうです。それはむしろわたし担当です!」

「ぬああああ! 蒼汰、後輩にエロいことしてどんな気分? なあどんな気分!? 羨ましすぎて血反吐吐きそうなんだが!」

「やれやれ落ち着きなよ大樹。そんなに蒼汰を揺さぶっても何も話せないよ」

「うるせえ! さっきからニコニコと見てただけの彰人は黙っててくれ!」

「森先輩! これ以上先輩をいじめないでください!」

「ああもう、こんなのほっといてとっととダンジョンに行きたいんだけど!」


 周囲がうるさい。

 なんかもう全てを忘れて何も考えずにただひたすらガチャを回し続けたい。

 ……だけど僕には回すための石も無ければ課金も出来ない。


「ああ、課金してぇーー!!!」



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・あとがき


当初この作品を書く時、本当は「課金ものでも書こうかな」と思っていました。


蒼汰)「え!? な、なんでそのままそれを書かなかったんですか!?」

作者)『二番煎じ感が強かったから』

蒼汰)「へ?」

作者)『ほら、昨今金の力で主人公無双って結構あるから』

蒼汰)「ぐっ……だ、だったら別のもっとカッコいいスキルで良かったでしょ!」

作者)『つまんない』

蒼汰)「……は?」

作者)『お前にただそんなスキル渡したところで金儲けに走ってガチャ回すだけの話とか書いてて面白くないし。

 それに課金ものって結構あるけどそう言えば無課金ってあまり、と言うか全然聞いたことないなーって思って』

蒼汰)「ま、まさか……!」

作者)『スキルにしてつけちゃった』

蒼汰)「てめえええええええええええ!!!!」


はい、こんな感じで実はこの作品は生まれました。


面白いと思っていただければ幸いです。

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