幕間 鹿島蒼汰
《蒼汰SIDE》
スマホアプリのソシャゲにハマったのは1人でいる時間が長かったせいだと思う。
その結果、ガチャがしたくて堪らなくなるのはごく自然なことだった。
うちの両親は僕が小学3年生の時に離婚していて、僕は父さんに引き取られた。
父さんは稼ぎは多いが仕事が忙しい人で家にいることが少なく、いても家でゴロゴロしているだけで家事は一切やろうとしない人だ。
そんな家庭をないがしろにする父さんに嫌気がさしたのか、父さんが家にいる時は大概口喧嘩するか無視しているかのどちらかであったため、別れるのは当然だと言える。
そんな両親を見て育ったせいか僕の結婚願望は皆無となった。
好き合って結婚したはずなのに結局離婚して別れることになるくらいなら、いっそのこと結婚しない方がマシだと思えるから。
子供が出来れば養育費がいり、家を買えばローンの返済など無駄にお金がかかることを考えると、その分のお金を全て自分のことに使った方が幸せなんじゃないかと思うようになった。
うちの両親は浮気をして外に子供を作ったとかそういうことはなかったのでまだマシなのかもしれないけど、世の中にはそういう事例が山ほどあることを聞くと、より結婚への意欲は失われてしまった。
まあそれはともかく父さんに引き取られた僕は、今まで母さんがやってくれていた家事のほとんどをやらなければいけなくなって大変だった。
家事は母さんの手伝いをよくしていたのでそれほど苦ではなかったけれど、唯一の問題が料理だった。
火や包丁を使うのはまだ早かったためピーラーで野菜の皮をむくくらいしかやった事がなく、料理を作っている姿を遠巻きに見ているくらいだったので料理の仕方がサッパリ分からないのだ。
朝はトーストだけなので問題ないし昼は給食が出るので良かったけど、晩御飯がいつもスーパーかコンビニの弁当なのはきつかった。
父さんは休日でも家事をしないのでご飯は外食か弁当のどちらか。
正直言ってこれが続くのは飽きた。
最初は全然気にならなかったけれど、日が経つにつれて食べるのが億劫だと思うほどに。
母さんの料理は別に飽きないのに外食や弁当だと飽きてしまうのは何でなんだろか?
そう思いながらもその母さんはもう家にいないので自分でなんとかするしかないと考えた。
「……しゃーない、作るか」
火や包丁が危ないとか言ってる場合じゃないので、父さんからおこづかいと1月分の食費をもらっているのでそれで食材を買って、スマホで調理法を調べながら頑張って作った。
しばらくすれば食える物を作れるようになるくらいには慣れた。
そうして自分でご飯を作れるようになると、父さんは恥知らずにも休日とか自分の分も頼んできたので多めに食費を取ったけど、自炊すると弁当を買っていた時よりも安く済むようになる。
父さんから余分に食費を貰うので余計にだ。
そのお金でゲームとかも買って遊んだりしていた訳だけど、そこでちょっと魔が差したんだ。
そう、冒頭でも述べた通りソシャゲのガチャだ。
基本無料である訳だが、ガチャの中にはお金を払って購入したガチャをするための石、通称有償石でしか出来ないガチャも存在するんだ。
始めはただのデータにお金を使うのなんてって思っていたけれど、食費が浮くようになってからちょっとくらいならと思う様になってしまった。
もちろん葛藤しつつも課金に手を出すことはしなかったけど、ある日――
「えっ、有償石限定で星5キャラが必ず手に入るの!?」
正月にとあるソシャゲでそれを見た瞬間、今までの葛藤と我慢が崩れた。
そのガチャが、1回限定なのもあり必要な金額が1500円ほど。
小学生にとってはそこそこの金額だけど食費をちょろまかして貯めこんでるし、なにより普通のガチャなら星5キャラの排出率が1%である事を考えると、ここで確実に欲しいと思ってしまった。
結果としてそこからずぶずぶと使いこむようになり、何かソシャゲでイベントがある度にガチャ石が無くなったら課金をすることに躊躇いがなくなってしまった。
食費を切り詰め、父さんにバレない様に節約をして浮いたお金をガチャに回した。
もちろん月につぎ込んだ金額なんて3万もいってない、というかそれ以上使うとさすがにバレるだろうと考えてやらなかっただけだけど。
なんとか自制心を利かせて中学までは辛うじて3万以内、……いや、貯めておいて一気に10万くらい使った時もあった気がするけど、うん、だいたい3万。
いやだって夏になったら水着ガチャが……。うん、あれはしょうがないしょうがない。
しかし高校生になりバイトも出来るようになれば、使える金額は一気に増える。
さらに父さんが転勤で遠くに行き、僕がここに1人で残ればますます自由にお金が使える。
中学最後の僕の誕生日、3月6日に父さんの転勤の話を聞き、瞬時にそれが頭をよぎったのは当然の帰結だと思う。
僕は生まれ育った場所から離れたくないと説得に成功したことで、1年後の今日、絶望することを知らぬまま、内心ガチャが沢山出来ることを夢想し歓喜していたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます