第22話 戦闘開始

 

「オレ達のこの怒り、全てこの中にいる牛野郎にぶつけてやんぞ!!」

「「「Yeaaaaaah!!!」」」


 異常なまでのモチベーションを見せる大樹と他の男子達。

 数十人ほどの女子達は冷ややかな目で見ている事に気付いていないけど、それはいいのだろうか?


「やる気が漲ってるみたいだし、このままミノタウロスに挑もうか。みんな、開けるよ!」


 矢沢さんが先頭に立ち、豪華な扉を開ける。


 部屋の中にあるもので真っ先に目に入る巨木。

 そこに最初に遭遇した時と同じように腰かけているミノタウロスがおり、前と変わらず何かを食べていた。


 ――ゴリゴリ


 いや、かじっていたと言うべきか。

 どうやらそれは骨のようで、肉を全て食い尽くし骨まで食べたのか、わずかな白骨死体しか地面に転がっていなかった。

 どこか食い足りなさそうな寂しげな表情をしているせいで、口寂しさを紛らわすために骨をかじっているように見える。


「死ね!」


 予想出来ていたとはいえ、若干怯んでいた僕らの中でいち早く動いたのはこのみさんだった。


 ミノタウロスの骨をかじっている行動に抑えていた怒りが噴出したのか、即座に魔法を放っていた。

 自分の家族が殺された上に、もはや死体が誰かも判別がつかない有様にされたために、目の前のミノタウロスに対して恨み辛みしかないのだろう。


『ブモッ』


 放たれた火球に気が付いたミノタウロスが、すぐさま立てかけていた両刃の斧を手に取ると、それで弾いて防いでしまった。


『ブモーーーー!!』


 歓喜の雄たけびなのか、嬉しそうに叫ぶミノタウロスが立ち上がると、よだれを垂らしながらゆっくりとこちらに向かってくる。

 完全に僕らを見る目が食材を見る目ですね。


「このみ、打ち合わせ通りに動いて! 派生スキル[ライブステージ][マイクセット]」


 すでにこの空間に入る前から[コスチュームチェンジ]でアイドル衣装を着ている矢沢さんがこのみさんを注意した後、すぐさま何かしらのスキルを使用した。

 [マイクセット]は見た事があるけど、それと同じなら[ライブステージ]ってまさか……。


 頭に瞬間的によぎった通りの物が矢沢さんの後ろに顕現した。


 今から野外ライブが始まるのだと言わんばかりの立派な設備がいきなり現れるとか、とんでもない派生スキルだな。


『打ち合わせの時も言った通りこのステージの上には誰も入れず攻撃も効かないから、自分の事は気にせず敵に注力してね!』


 マイク越しに聞こえる声、しかしそのマイクやスピーカーも[ライブステージ]に合わせたものが出現している。

 敵から完全に身を守るスキルがあるとは言っていたけど、これほど規模の大きい物だとは思わなかったな。

 しかもただ身を守るだけでなく、バフの効果も上がり、[ライブステージ]を発動しているかぎり1度付与されたバフはライブが続く限り効果が持続するのだから凄まじい。


『早速1曲目いくよ。[戦え! 私の戦士たち]!』

「わたくしも支援しますわ。[女王の号令]〝A隊は目前の敵と戦いなさい!〟」


 矢沢さんと不川さんの2人以外にも、スキルで人にバフをかけられる者はスキルを使用して全員の強化を行う。


「よっしゃ行くぜ!!」

「力がいつも以上に漲るわねん」

「仲間達の仇だ!」


 穂玖斗さん、和泉さんと智弘デッキさんを含めた全体の四分の一がミノタウロスへと攻撃を仕掛けに行く。


 全員で一斉に突撃しない理由としては、相手が1体だけだから。

 騎士道精神とかそういったものは一切なく、ただ単純に前衛が出来る人間が一斉に攻撃を仕掛けに行けば100人を超える人間が群がる事になる。


 そんな事をすれば後方支援はフレンドリーファイアを恐れて攻撃が出来ないし、いくら東京ドームくらいの広さはある空間でもそんなの関係なく、1体に200人以上の人間が攻撃するのは無理だ。


 そんな訳で支援に特化している人間を除いた、前衛部隊2組、前衛が少し混ざった後衛中心の部隊2組のチームを作り、前衛部隊と後衛部隊が1組ずつ交代で戦う事になった。

 ただしある人物だけは例外だった。


「[城壁生成]」


 ミノタウロスが正面から来る人達と戦っている間に、ミノタウロスの後方に回り込んで10メートルの高さの城壁を大きな三日月形に展開した人物、省吾城壁さんだ。


 矢沢さんや僕らのいる場所とは真逆の位置に城壁があると、そちらからも後衛が身を守りながら安全に攻撃が出来るようになる。

 逆に僕らの前に城壁があると僕らはある程度安全になるけど、前衛が撤退しづらい上に城壁で戦況が把握できないデメリットがあるからね。


 守りが上手い前衛が何人かそちらに行っているので、遠距離攻撃を被弾覚悟で城壁の上に飛び乗ってきたり腕を伸ばして捕まえようとしても、その人達が後衛を守るために動くのである程度時間が稼げるはず。


「それにしてもあのミノタウロス、改めて見るとかなり大きいな」


 僕らが倒してきた“取り込まれた生贄”が4メートルほどだとしたら、あのミノタウロスは5、6メートルくらい身長がありそうだ。

 そんな巨体を相手に近距離で戦うなんて、前衛の人達は本当に凄いよ。


「[スラッシュ]!」


 穂玖斗さんは大樹と同じで大剣を使っているけど、レベルが300越えだそうで動きがまるで違う。

 [大剣術]のスキルも持っているらしく、ミノタウロスが乱雑に振るってくる両刃斧を正面から受け流している。


 このチームの作戦は穂玖斗さんが敵を引き付け、他の人が攻撃を仕掛けていくのだけど……。


『ブモー!』

「オレの攻撃がまるで効かねえぞ!? こいつ硬すぎるだろ!」

「[ダメージ貫通]スキルを使ってるのに、痛がりもしないのはどういう事なんだ!?」


 大樹や智弘デッキさん、それに他の人達も攻撃を仕掛けているけれど、残念ながらダメージは与えられていないようで苦戦してるみたいだ。

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