第13話 第一の試練〝花の道〟(3)

 

 なんかあっさりと1人だけ試練を突破してしまったけど、花は人数分必要なので実質試練にクリアしたとは言えない。

 あまりの事態に驚いてしまったけれど、まだあと3人分の花が必要なのだから急いで探さないと。


 制限時間が1時間しかないのに話し合っていたせいで5分程度はロスしている。

 今僕が手にしている花をどのくらいの時間で探し出せるか分からないけど、あと9つ必要なのだから、1つに掛けられる時間はせいぜい6分程度。


「見本が手元にあるから探しやすいけど、なんかどれも似たような見た目のせいで判別がつきにくいね」

「この試練難しすぎませんか? こんなの時間制限がなくてもクリアできる気がしませんよ」


 一面に広がる花畑の中から、目当ての花だけを摘まなければいけないのは確かに難しすぎる。

 罰を恐れずに摘みまくる方法はあるけど、そんな事をすれば媚薬効果のある花粉をくらう事になるので、その選択肢は選べない。


「1回くらいなら花粉を受けても耐えられそうではあるけど……」


 冬乃がチラリと先ほど花粉を受けた大柄な女性に視線を向ける。

 確かにあの人は息を荒げてはいるけれど、パートナーの男の人に襲い掛かったりはしていない。


「咲夜の[全体治癒]のスキルなら媚薬の効果を打ち消せる可能性はあると思う」


 [全体治癒]の効果はパーティー全員を健康体にするというもの。

 少し曖昧な説明だけど、説明文通りに受け取るなら媚薬による発情は異常状態だと考えられるから、それを治すことはできそうな気はする。


 それにしても見本が手元にあるのに全く区別がつかないなんて、試練として破綻してないだろうか?

 って、あ、そうだ。


「こんな時こそ、こいつらの出番だな」


 僕はスキルのスマホを呼び出すと、すぐさま[放置農業]を起動させた。


『我らの出番か主殿?』

『妾達にできる事なら何なりと言うがよい』

「それじゃあ早速だけど、この花の在りかを探して欲しいんだ」


 僕は先ほど手に入れた花を黒い球体のクロと白い球体のシロに見せる。


『『うむ、任せよ』』


 ポンッと音を立ててクロとシロが目の前に現れ、空中に浮かんでいた。


 初めて出てきた時は驚いたんだよね。

 てっきりスマホの中から出れないと思ってたら、普通に出てくるんだもん。

 もっとも石の欠片の数がまだ必要最低限のせいでスマホから出てきても喋る事はできないから、能力を使う時以外は基本的に僕のスマホの中に入ったままだけど。


 クロとシロは僕の手に持つ花に仄かな光を照射して花を解析すると、すぐさま周囲に向けて光の波紋を放つ。

 しばらくすると目的の物を見つけたのか、僕に着いて来るように身振りで表現してきた。


 誘導に従い少し歩くと、とある赤い花が咲いている上でクロとシロがこの花だと言わんばかりにクルクルと回りだす。


「すぐに1つ見つけてくれたね。クロとシロを集めてホントよかったよ」


 100万は使ってないけど、それなりの金額を費やしたこの2体がここぞという場面で役に立つのだから、お金を払ってでも回収した甲斐がある。

 僕は早速その花を摘んだ。


 ――ブファッ


「うわっ?!」

「先輩!?」

「ちょっ、蒼汰!?」

「蒼汰君大丈夫!?」


 うあっ、か、体が熱い……。

 体が火照ってしまい、ムラムラしてきてしまう。


「うぅ、クロ、シロどうし……何、してる?」


 クロとシロが共に地面に落ちていてプルプルと震えていた。

 しばらくするとクロとシロは勝手にスマホに吸い込まれていき、[放置農業]の画面に2体が映る。


『す、すまない主……。完全に同じ形の物だったはずなのだ。ぐっ……』

『はぁはぁ。主の力になりたいが、わ、妾こんな気分になったの初めてじゃ。耐えられぬ!』

「お前らにも効くのかよ!」


 無機物だろお前ら!


『この衝動が収まるまで主の力になれそうにない……』

『すまぬ……』


 フッと[放置農業]の画面から2体が消えてしまった。

 嘘でしょ……?

 うぅ、体が思ったよりキツイ……。


 体の内側からの衝動に必死に耐えていると、男性Cのグループの大柄な女性がエバノラへと近づいて行ってるのが見えた。


「なあ、あたいにもう1回見本の花を見せちゃくれないかい?」

『見せるだけよ? さっきの方法で花を手に入れられるのは1度きりなんだから』

「構いやしないよ、はぁはぁ。ただ気になる事があるのさ」

『あら? その様子だと気付いたのかしら?』


 エバノラがどこからともなく再び3つの花を出現させて大柄な女の人に見せる。


「やっぱり……」


 すると女の人はちょっと見ただけで納得したのか、すぐに男性C達の所へと戻っていってしまった。

 大柄な女の人は他の2人の所へ戻るとその2人を近くに呼び寄せ、周囲には聞こえない程度の声でボソボソと話しだす。

 そうしてしばらく話し合った後、何故か大柄な女の人が再び近くにある花を適当に引っこ抜いて花粉をくらっていた。


 何故また花粉をくらう様な事をしたんだろうか?


 そんな風に疑問に思っていたら大柄な女の人がフラフラになりながらも、1つの花を摘み取ろうとしていた。

 手あたり次第に花を摘む作戦でも実行しているのかな?


 ――ブファッ


「くっ、ああああっ……」


 花粉を再び受けたためか、先ほどよりもかなり苦しそうな声を上げている。

 あの様子だとあと1回でも間違えたら理性が持たないんじゃないだろうか?

 いや、今の時点でも理性が飛びそうで、男性Cを見つめる目が捕食前の肉食獣のようだ。


「しっかりしなさい! 自分で言い出したことでしょう」

「あ……わ、分かってるさ、はぁはぁ。くぅ、あった……」


 あんなにもフラフラでまともに思考ができていないであろうにも関わらず、何故か摘んだ花からは花粉が噴き出る事はなかった。

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