第12話 第一の試練〝花の道〟(2)

 

『で、あれ見てまだやる気? 童貞と処女の子達にはかなりキツイ試練かな~って思うんだけど、まだ参加するの?』


 ……帰りたい。


 真っ先にそう思うのは当然の事だと思う。


「はぁ、帰――」

「ここの花粉って持ち帰りできますか?」


 何言ってるの乃亜?


『ごめんなさい、それは無理ね。あくまでこの特殊な場所という条件下で成立している現象だから、仮に外に持ち出せたとしても媚薬効果はないわね』


 ハッキリ媚薬と言い切ったか。


「そうなんですか。それじゃあ冬乃先輩、咲夜先輩、どうしましょう?」


 何故僕には聞かないの?


「わ、私は……」

「咲夜は参加してもいい」


 え、あの光景を見て即拒否じゃないの?


「あ、でも1つだけエバノラさんに聞きたい」

『何かしら?』

「試練の中に蒼汰君以外の男の人に抱かれる可能性はある?」

『まず無いわよ。暴力行為の中には当然強姦も含まれているから、無理やりエッチな事を迫ったら強制的に退場させられるわ』

「なら参加する」

「嘘でしょ!? え、本気? だって下手したらこんな場所でエッチする事になるんだよ」

「蒼汰君相手なら問題ない。でも出来れば他の人には見られないとありがたい」

『う~ん、その程度の配慮ならOKよ! 私もひっさびさに初体験を直で見られそうだしね、うへへ』

「これに見られることになるのにいいの!?」

「一応女性だし、他の男の人に見られる訳じゃないから」


 何故こんなふざけた試練で乗り気なのか。


「咲夜先輩が参加するなら当然わたしも参加します」

「乃亜まで参加希望なの?」

「割といい条件だと思いますけどね。命の危険がなく【典正装備】を手に入れられる可能性をそんな事で不意にするのはもったいないと思いませんか?」

「本音は?」

「他の人に見られず、奥手な先輩がケダモノのようになってくれるなら参加する価値が――なんでもありません」

「そこまで言っておいてよく何でもないって言えたね」


 本音はともかく建前の方が割と重要ではある。

 僕が今まで手に入れてきた【典正装備】は何故か習字道具だけど、そんな物でも能力は破格だし、その能力のお陰で冒険者学校の遠征では命を救われたと言っても過言ではないのだから、手に入れられるなら今後の為にも試練に参加したい。


 問題はその試練が無駄にエロ方面に突出しているのが問題だ。

 第一の試練でこれなら、第二、第三はどんな試練が待ち受けているというんだ。


 そんな風に僕が葛藤していたら、冬乃が意を決した表情で僕を見てきた。


「わ、私も参加するわ!」

「え、ホントに?」

「何よ。私相手じゃ嫌なの……」


 冬乃の尻尾がシュンッと垂れ下がって、耳先も力なくフニャっとしてしまったのを見て僕は慌てて弁明する。


「いや、そうじゃなくて、冬乃はこういったエッチな事苦手そうにしていたのに、この試練に参加すると決めたのが驚いただけだよ」

「た、確かにこの試練は色々厳しいわ。でも……蒼汰だけって言うなら……」


 顔を赤くして見つめられると破壊力が違う。


『あ~ん、なにこの青春! とっても甘酸っぱくって、あなた達とってもいいわ! 試練の都合上肩入したりは出来ないけど、応援はしているわよ』


 あんたが応援すんなよ。

 いや敵に回られたりしないからまだいいんだけどさ。


「それで先輩はどうするんですか? というか先輩が参加しないとわたし達も参加できませんよね?」

『そうね。最低でも男女のペアがいるから、その子が参加しないなら全員帰ってもらう事になるわね』


 つまり僕の決断でどうするのかが決まってしまうという訳か……。


「先輩」

「何?」


 責任もとれないのにこんななし崩し的に3人を抱くことになる試練に参加するのは問題だし、どうしたものかと悩んでいたら乃亜が僕を呼んだのでそちらに顔を向ける。


「この試練は確かに色々な面で問題があるかもしれませんが、あの方達を見る限り即座に今先輩が危惧しているような事は起こらないはずです」


 乃亜が視線を向けた先には男性Cのグループ。

 花粉を浴びた大柄な女性は荒い息を吐いているけれど、乃亜の言う通り男の人を襲ったりしておらず、今は慎重に花を探していた。


「先ほども言いましたけど命の危険はなく、すぐさま先輩の思っている事態にならないなら参加してみてもいいんじゃないですか?」

「それは……確かに」


 さっきは本音が見え隠れしていたからふざけて聞き返してしまったけど、真面目に考えると乃亜の言う通りこれはチャンスだ。

 間違いが起こってしまう危険はあるけど、すぐにその事態に陥る訳じゃないなら問題ないのか?

 第二第三の試練で問題があるなら、そこでギブアップすればいい話なのかな?


「それに新たな【典正装備】が手に入ればレベル上げが容易になって、デメリットスキルのデメリットを打ち消せる日が早まる――」

「よし、やろう」


 何を迷っていたんだ僕は。

 これだけ行動する条件が揃っていたのに動かないなんてありえないね。


 乃亜が少し悪い笑顔を浮かべているのが横目で見えるけど気にしない。

 問題を起こさずにクリアすればいいだけだからね!


『うふふ。それじゃああなた達も参加するのね』

「はい。そういう訳で花をよく見せてもらってもいいですか?」

『いいわよ~』

「ありがとうございます」

『あっ』


 僕はそう言いながらエバノラが手に持っている花を受け取った。


『はい、1人試練突破~』

「「「はぁ!!?」」」


 僕ら以外にも他のグループから驚き叫ぶ声が響く。


「え、いや、これありなんですか?」

『だって私、花を3つ集めてもらうって言ったんだから当然これもその対象でしょ?

 私から無理やり奪ったら禁則事項の略奪行為が該当しちゃうけど、私はあなたに許可しちゃったからそれに当てはまらないし~』


 見せて欲しいと言ったけど、まさかこんな方法で試練を突破してしまうとは思いもよらなかったよ。

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