第21話 保護欲
昨日いた持ち場へと赴くと、そこはまさしく戦場だった。
バリケードの向こう側では無数のカタカタ音と、鈍器を打ち付けたり武器同士がぶつかる音が幾度も響き、昨日まで静穏だった場所は打って変わって騒々しい場所になっていた。
「あれがSランクの〔スケルトンのダンジョン〕から出てくる魔物ですか……」
乃亜が圧倒されたかのように呟くのも無理はない。
なにせ昨日まで一面見渡す限り土と雑草しかなかった丘を埋め尽くすほどの骸骨の群団が、バリケードの向こう側にいるのだから。
僕だってこの光景に圧倒されて立ち止まってしまっていた。
僕らは【
「これが“
名前通り、死の行進とはよく言ったものであんなものに巻き込まれたら、確実に死んでしまうだろう。
スケルトンが出てきていることも含めて、二重の意味でデスパレードと名付けられたのかもしれない。
「それではこちらで合図を送りますので、そのタイミングで交代をお願いします。1時間後に再び合図を送りますのでそれを見たら戻ってきてください。ただ、どうしても戦線を維持できないと思ったら戻って来ても大丈夫ですのでよろしくお願いします」
この持ち場を任されているであろう隊員から早速と言わんばかりに、あそこで戦えと促される。
まあその為に来たんだけど、これで50万は安かったんじゃないかと思ってしまう。
倒した魔物から得た戦利品は各自の物になるって話だけど、この状況で魔石とかを拾う余裕なんてないんじゃないかな?
報酬に釣られたけどちょっと“
「あちらで戦っている方達はすでに1時間近く戦っていますので、もうそろそろ交代する必要があります。合図を今から送りますが準備はよろしいですか?」
隊員が暗に早く行動するように言ってきた。
今更ここまで来て逃げ出したりはしないよ。
咲夜も[チーム編成]に組み込み済みで、全員の衣装の登録もしているので準備は万全だ。
3人に視線を向けると、何時でも行けると全員が頷いた。
「準備OKです」
「分かりました。それでは皆様、気を付けて行って来てください」
隊員が大きなロケット花火のような物を取り出しそれに火を点けると、ピィーっと音を鳴らしながら、煙幕にはならない程度の青色の薄い煙が空へと放たれた。
「よし、行こう!」
僕らはそれを合図に戦っている人達の元へと向かうと、合図があったにも関わらずまだ冒険者達が戦っていた。
「撤退だ。全員戻るぞ!」
リーダーらしき人が僕らが来たのを確認してから全員に退くよう声を張り上げた。
どうやら僕らが来たのを確認してから退こうと思っていたようだ。
リーダーらしき人が手に持った大きなハンマーを勢いよく振り回して、スケルトン達を後ろに弾き飛ばすと、瞬時に足元に落ちてる魔石を片手で拾えるだけ拾ってこちらに戻ってきた。
なるほど。ああやって撤退しながら少しだけ拾うのか。
まあ普通は戦いながら拾う余裕なんてないだろうから、それしかないかな。
「ふ~ようやく交代だぜ」
「毎年の事だけどしんどいな」
僕らより一回り年上の男の人たちがすれ違いざまにそんな事を言って戻っていった。
もう何回もこの“
僕らは初めてだからいざという時のフォローも兼ねて、初めてとベテランの組み合わせになるようにしているのかもしれない。
ベテランなだけあって、まだまだ沢山落ちている魔石に執着せずに素早く撤退しているのはさすがだと思う。
さて、そんな事より目の前の事に集中しないと。
バリケードは高さが5メートルはある鉄の格子を鶴が翼を広げたような三日月形、鶴翼の陣のような形状で配置しており、中央は防火扉のような物体が置いてあり現在は当然開いていた。
いざとなったらあれからシャッターが降り、ほんの少しでも時間を稼ぐのだろう。
バリケードは3つ等間隔で並んでおり、その内の一番先頭に僕らはたどり着くと、ハンマーで吹き飛ばされたスケルトン達が体勢を立て直して再び群がり始めたところだった。
『乃亜と咲夜は予定通り前に出て! 冬乃は今は【
『『了解!』』
『私も了解よ。確かにこれだけ近いと〔
乃亜の[損傷衣転]と僕の[チーム編成]で3人はほぼ無傷で被害は僕の服だけかもしれないけど、いきなり自爆覚悟でいかなくてもいいはずだ。
それにしても初めてこの魔道具を使ったけど、頭の中で声が響くのは不思議な感じだ。
戦闘音で騒々しいから、声を張り上げなくても意思が伝わるのは便利だけど。
魔道具〔絆の指輪〕
1万円ガチャで手に入れた2万円の魔道具だ。お得だった。
ポーションとスリングショット? 知らない子ですね。
あの瞬間、僕は確かに1万円得したんだ。
それはともかくこの〔絆の指輪〕。
効果は単純明快でパーティー間の意思伝達機能だ。
この指輪をはめた者同士がテレパシーのように連絡出来るのだけど、残念ながら100メートルほど離れると機能しなくなる上に、4人が指にはめていないと機能しない。
だから咲夜が僕らのパーティーに入るまで使う事のなかった代物で、かるく忘れかけていた。
ちょうどいいから使おうかとみんなに渡したところ、咲夜は大喜びだった。
「友達と、お揃い。嬉しい……!」
最近咲夜が無垢な子供のように可愛らしく見えてきた。
年上なのに見てると凄い保護欲の湧いてくる人だよ……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます