第38話 和風

 

「交代の冒険者の方には連絡しましたが、2日目の段階でリッチが出てきた以上、この度の迷宮氾濫デスパレードは危険なものになりますので十分気を付けてください」


 僕らが5度目の休憩をしに戻ってきたら隊員の方からそんな事を言われた。


「リッチとは?」

「先ほどあなた方が倒されました陰陽師の格好をした骸骨です」

「和風すぎません?」


 普通魔術師みたいな恰好じゃないの?

 この国の風土に合わせて恰好を変えてこなくてもいいんだよ?


「そんな冗談を言っている場合ではありません。

 本来であればリッチが出るのは最終日の3日目、それも午後から出てくるはずなのですが、2日目の14時の段階で既に出てきてしまいました。

 敵がドンドン強くなっていくことを考えると、3日目はかなり厳しいものになるはずです」


 確かにそれは冗談言ってる場合じゃなさそうだ。

 僕らは相性差で余裕で倒すことが出来たけれど、それは【典正てんせい装備】があったからだ。


 普通の冒険者であれば咲夜くらいに強くないと、あれを倒してかつ周囲のスケルトンも間引くのは、かなりキツイんじゃないだろうか?

 大樹や乃亜の親達は大丈夫だろうか?


「本来ならまだ早いですが、ここからは自衛隊がずっと援護することになります。ですが敵が強くなっていけば自衛隊だけではここを守り切れない可能性がありますので、申し訳ありませんがご協力をお願いします」

「えっと、具体的にはどのような?」

「昨日であれば20時まで戦っていただきましたが、22時までお願いすることになります。

 これは自衛隊が早めに参加して冒険者の皆様の援護をするので、隊員達に増える負担を少しでも軽減するためなのと、冒険者がいなくなる間に急速に消耗することになる物資の節約を兼ねています」

「物資?」

「あのスケルトン達に効くもの、まあ爆弾ですね。特殊な手榴弾を投げて一掃しますが数に限りがあるので援護をする際にあまり使用すると、冒険者のいなくなった夜の時間帯が耐えられなくなりますから」


 耐えられない可能性があるとか聞くと安心して休めないよ。


「ただ、いざとなればバリケードの向こう側に地雷が大量に敷き詰められていますので、冒険者の皆さんが休養をとれる時間は稼げます。

 本来であれば最終日の終盤に強い敵を一掃するためのものなのですが、そうは言ってられませんから」


 ……いや、それ冬乃の〔籠の中に囚われし焔ブレイズバスケット〕で吹き飛んでんじゃ。


「ああ、大丈夫ですよ。バリケードの向こうと言ってもそんな近くには敷き詰めていませんから」


 僕らの考えを読んで、隊員は笑いながらそう言ってくれた。

 いや、そりゃそうだよね。

 足元に爆弾があると思ったら戦えないし、もし誤爆したらこっちに巻き添えがくるもの。


「そういう訳で冒険者の皆様にも負担をかけることになりますが、迷宮氾濫デスパレードを食い止めることが出来なければ周囲に被害が行くことになるので申し訳ありませんがよろしくお願いします」

「はい、分かりました」


 大変なことになってきたようだ。


 僕らは休憩場所へと向かって、各々椅子に座って休憩し始めたけど、こうしてのんびり休憩できるのも今だけかもしれない。


「思ったよりこの迷宮氾濫デスパレードキツイかもしれないわね」

「冬乃先輩の言う通りです。まだ何とかなっていますが、3日目に1時間も耐えられるでしょうか?」


 徐々に強くなっていく敵が増えるとなると、3日目はさっきの戦斧持ちや陰陽師がワラワラ出てくるのだろうか?

 それを相手に1時間もしのがないといけないとなると、魔石なんて拾っている暇なんかないし、それより強いのが出てくることも考えると、1時間はかなり長く感じられる。


「いえ1時間どころじゃないかもしれないわ」

「え、それはどういう事ですか?」

「だって最終日ってことはその日をしのげば迷宮氾濫デスパレードは終わりなんだから、休憩は極端に短くなって1時間の内の10分だけでずっと戦い続けるとかさせられる可能性だってあるわ」

「それは……ないとは言い切れないね」

「……大変そう」


 咲夜が両手でジュースの缶を持ちながらポツリと呟くけど、咲夜の大変そうは僕らにとっての重い荷物を運ぶかのような感情しか込められていないように思う。

 僕らはそれ以上にキツイと思うよ。


「だから今の内に出来る限り休めるだけ休んだ方が良さそうね。今日もまともに寝れるか怪しいから今の内に仮眠をとりましょう」

「じゃあ1人起きてて、時間になるかいざとなったら起こすようにしよう。今回の休憩時間は僕が起きてるから3人は寝てるといいよ」


 ほとんど直接戦ってないから、僕が一番消耗してないだろうしね。

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