第39話 起きた
≪蒼汰SIDE≫
冬乃が今まで使えないと言っていたであろうスキル、[天気雨]を使う事で、乃亜と咲夜の頭上に浮かぶ黒と白の球体にヒビが入っていった。
[天気雨]の効果は曖昧だったけど、上手くいけばこのまま黒と白の球体は完全に壊れて2人は目を覚ますはず。
しかし今まで使えないと言っていたのに、何で[天気雨]が使える様になったんだろうか?
今度聞いてみよ。
それはさておき、乃亜と咲夜の頭上に浮かぶ2つの球はドンドンひび割れていっていた。
――バキャン
一際大きな破砕音と共に、完全に砕け散った2つの球は空間に溶けて無くなったけど、これで2人は目を覚ますんだろうか?
そう心配して2人の顔を覗き込んでいると、乃亜のまぶたがピクリと動いた。
「んん~」
乃亜は寝惚け眼で甘い声を出しながら、伸びをして起き上がってくる。
「……ああ、夢でしたか。……あの夢を見続けても、最終的に今と変わらない結果になった気がしますね」
乃亜は眠そうな目で僕をチラリと見て呟いているけど、一体乃亜はどんな夢を見ていたんだろうか?
少し残念だけどまあいいか、ぐらいの軽い感じに見えるけど、まあ夢が良すぎてそれに執着していないなら良かったよ。
「んっ……」
おっ、咲夜も目が覚めたみたいだ。
猫みたいに目をこすりながらゆっくりと上半身を起こすと、キョロキョロと周囲を見渡し始めた。
どうしたんだろうか?
そう思っていたら、僕と視線のあった咲夜が突然手を伸ばして僕を捕まえて来た。
「あう?」
「んっ」
寝起きで少しぼんやりとしているのか、ぎゅっと僕を抱きしめて離そうとしなかった。
「だぶだ(どうしたの)?」
「んっ」
僕の頭に顔をこすりつける様にして甘えてきた。
「……寂しい」
咲夜は聞かせるつもりで呟いたんじゃないだろうけど、いくら小声だったからってこの距離だとさすがに聞こえた。
1人でいる時間が長かった咲夜だから、きっと良い夢は人に囲まれる夢で、悪夢は1人でいた時の記憶だろう。
「あうあ(よしよし)」
どっちの夢であっても、起きた直後は寂しく感じてしまったのは仕方がない。
なんせ過去の悪夢は1人でいる夢で、良い夢なら現実とのギャップに落胆して物寂しく感じてしまうだろうから。
今の僕は赤ちゃんだから短い手では頭を撫でてあげられないけど、届く範囲で撫でて傍にいることを示して上げよう。
「ん、ありがとう」
少し調子が戻ってきたのか、抱きしめられる力が少し弱まった。
「乃亜さん、咲夜さん。起きたのならこっちに来て欲しいわ」
「あ、はい、分かりました」
「分かった」
冬乃の呼びかけに、乃亜と咲夜は気持ちを切り替えてすぐに移動し始めた。
咲夜が運んでくれるから、ホント助かる。
僕だけが起きてた時は、近くにいた冬乃に近づくだけでも一苦労だったからね。
「この人の力でわたし達は眠らされていたんですね。1人では絶対に起きられませんでした」
「ん、あまり、いい気分じゃない……」
冬乃は片瀬さんを警戒しつつ感心するような感じだけど、咲夜は少し機嫌が悪そうな感じだった。
まあそりゃそうだよね。
「2人ともまだ寝ぼけてるの? この人を起こしてここから出られたら、次は外に残ってる2人と相対しないといけないかもしれないのよ」
「そうでしたね冬乃先輩。夢の中だと何日も経過していたので、すっかり忘れていました」
「ごめん」
2人の声に少し張りが出てきて、緩んでいた気が引き締まったようだ。
それにしても2人はとっくに起きたのに、片瀬さんはいつまで寝ているんだろうか?
「この人全然起きないけど、乃亜さんと咲夜さんは球が完全に砕けた後に目を覚ましたし、そろそろかしら?」
冬乃も同じことを思ったようだ。
確かに浮かんでいる2つの球は全体にヒビが入っていて今にも崩れそうだし、もうそろそろかな?
そう思った時、僕らを取り囲む白い空間にも亀裂が入りだした。
「もしかしてここから出られるのかしら?」
「夢から全員が覚めるのが、ここの脱出方法なのかもしれませんね」
「その人はもう動けなくしてあるし、後は外の人達だけ」
「さっきの調子なら全員でかかればいけるはずだけど、おそらく私達を迎え撃つ準備をしているわよね」
「どのくらい時間が経ったのか分かりませんが、もしかしたら増援が来てるかもしれませんね」
乃亜の言った通りの事が起きてるとしたら厄介だ。
正直寝ていたからか体の疲れは特にないんだけど、敵が増えているとなるとさっきの戦闘よりも厳しい状況になるかもしれない。
「それじゃあ敵が2人だけなら殲滅、増えてたら全力で逃げましょ」
「なら咲夜が頑張る。[鬼神]で前にいる敵を吹き飛ばす」
えっ、体力回復したから[鬼神]の〝神撃〟でやっちゃうんですか?
人間なんて跡形も残らないだろうあのレーザーみたいな技、やっちゃうんですか?
「蒼汰君の支援と全力の[鬼神]なら、3人担いでも問題なく動ける。前にいる敵は蹴り飛ばす」
さすがにビームは撃たないようだ。
まあ撃ったら動けなくなるから、そんな賭けをそうそうやらないよね。
「この空間の亀裂がドンドン増えてきましたね。先輩、早く準備を」
「ばぶ(分かった)」
あ、それと、みんなの服もボロボロだし着替えた方がいいだろうから[ガチャ]で新品の服を出して、みんなが着替えている間に[チーム編成]でみんなを登録しておこう。
僕は崩れていく空間の中で、急いでスキルのスマホを取り出して操作を始めた。
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