第25話 巻き添え上等


≪蒼汰SIDE≫


 カティンカを倒した後急いでソフィアさん達の元へと駆けつけたら、そこではソフィアさん達が苦戦を強いられていた。


「くはははははっ!」

「ぐっ、これ以上[ファイナルギア]を維持できない……!」

「……厄介」


 黒い人型が6体とサイラスがソフィアさん達を襲っていて、完全に防戦一方だった。


 しかもソフィアさんはすでに[ファイナルギア]を使用しているのがその背中の機械の羽を纏う紅い光で分かるけど、その光は以前見た時よりも弱弱しく今にもそのスキルが切れそうだ。


「すでに劣勢なのに[ファイナルギア]の効果が無くなるならかなりヤバいよ。冬乃、お願い」

「私でいいの? アヤメちゃんはともかく、2人を巻き添えにしちゃうわよ?」

「今はサイラスと謎の黒いのをソフィアさん達から引き離すのが優先で。

 ソフィアさんは今は僕のパーティーに入ってるから、直撃させないよう牽制程度の攻撃なら乃亜の[損傷衣転]でダメージは受けない。

 そしてオルガならもうこっちに気付いているから、冬乃が何かする前に逃げてくれるよ」


 たぶん。……大丈夫だよね?

 オルガが僕らの中で一番レベルが高く素早いから、最悪冬乃が攻撃を放った後でも避けられるはず。


 少し不安に思いながらオルガを見ると、オルガも僕を見ておりコクリと頷いた。


 え、この距離で心を読んだの?

 [マインドリーディング]って距離が離れてると心の声が読みづらくなるとか言ってなかったっけ?

 もしくは単純に僕の意図を読んだだけかもしれないけど、オルガが問題ないのであればそんな事はどっちでもいいか。


「よろしく冬乃」

「分かったわ。〈解放パージ〉」


 冬乃は〔籠の中に囚われし焔ブレイズ バスケット〕だけを使い、サイラスとソフィアさんの間に炎を放つ。


「ぐあっ!?」

「きゃあ!?」


 黒い人型が何体かバラバラに千切れて吹き飛び、サイラスとソフィアさんも炎の爆発で吹き飛ばされていた。


「……危なかった」

「ごめんオルガ。大丈夫だった?」

「……問題ない」


 オルガはやはりこちらの意図を察していたようで、冬乃が〔籠の中に囚われし焔ブレイズ バスケット〕を使った瞬間にはその場から離脱しだしていた。

 見る限り目立った外傷はなさそうだし、オルガの言う通り冬乃の攻撃の影響はなさそうだ。


「いきなり酷くない?!」


 オルガは大丈夫だったけど、ソフィアさんは直撃ではないけど吹き飛ばされていたから、なにしてくれるんだと言わんばかりに詰め寄られてしまった。


「ソフィアさん大丈夫?」

「これが大丈夫に見える?」

「ごめん、すぐに直すから」


 ソフィアさんの着ているチャイナ服はボロボロになっていて、その下のメカニックな肌が露わになっている。

 思ったより近くで爆発を受けたせいか[損傷衣転]による自身へのダメージの肩代わりに加え、服自体が爆発の影響を受けたんだろう。

 そのせいかかろうじて大切な部分は隠せてはいるもののもはや服として意味をなしていなかった。


 左側がほぼ壊滅状態で胸を腕で隠して下着などが見えないようにしているのが色っぽ――とか言ってる場合じゃないね。

 ここまでくると[損傷衣転]でダメージの肩代わりはもちろん、モラル的な意味でもすぐに服を直さないと。


 スキルのスマホを素早くタップしてソフィアさんにチャイナ服を再装備させると、一瞬で服は元通りに戻った。


「やってくれたなあああ!!」


 服を直した直後、サイラスが吼えながらこちらに向かってきた。

 ソフィアさんと同じように吹き飛ばされたはずなのに、多少服が破れているだけでダメージがなさそうなのはなんで?!


「気を付けて。[フィーバータイム]や[オートヒール]でダメージを回復してくるよ。

 それに今分かってるだけでも肉体強化系のスキルはもちろん、[パイロキネシス][二段ジャンプ][リパルション][瞬動]なんかも使ってくるから」


 すぐさまソフィアさんがサイラスを迎え撃ち、振り下ろされた剣をレーザーブレードで受け止めた。


「[シャドウフィギュア]!」


 さっきの黒い人型はこれか。


 サイラスの周囲に影の人形が現れ、ソフィアさん以外に攻撃をけしかけていた。


「何らかの【典正装備】かと思ったらスキルだったのか」

「【典正装備】なんざ持ってる訳ねえだろうがあああああ!!!」

「なんで冬乃に不意打ちで攻撃されたよりもキレてるの!?」


 幸いにも僕は[画面の向こう側]で干渉されないけど、もしもこのスキルがなかったら僕に真っ先に攻撃してきそうなくらい、サイラスは忌々し気に僕を睨んでいるよ。


「人数が増えようが関係ない! 全員まとめてぶっ倒してやる!」

「くっ、マズイ……!」

『援護するのです。〈解放パージ〉2倍速』


 サイラスは変わらずソフィアさんと接近戦を繰り広げており、アヤメが時折〔迫る刻限、逸る血潮アクセラレーション〕をソフィアさんに使用することでフォローして何とかしのいでいるけど、あれは1分のインターバルがあるからいずれその1分の間にやられかねない。


『少しでも邪魔してやるのです!』

「ちょろちょろとうっとおしい!」


 アヤメは〔曖昧な羽織ホロー コート〕で干渉できないのをいいことに、サイラスの顔の前をウロチョロすることで視界を塞ごうとしている。

 けれど高速で動く2人のスピードに追い付けていないからすぐに振り切られているし、誰か他に援護しないとマズそうだ。


「こんな影を相手にする必要はありません。振り切って本体を倒せばそれでお終いです!」

「そうね。多少被弾するのを覚悟して行くわよ」

「了解。この影自体は大した攻撃力を持たないし賛成」

「……分かった」


 みんなも僕と同じ考えのようだ。

 僕が何かを言うまでもなく、4人は影を無視してサイラスへと向かって行く。


「……しまっ!? ダメ、そいつから離れて!!」

「「「「『えっ?』」」」」


 オルガがサイラスにある程度近づいた段階で何かに気が付いたのか、慌てて全員にサイラスから離れるように指示した。だけど遅かった。


「かかったな。[自爆][ガッツ]!」


 サイラスがそう叫ぶと同時に、サイラスを中心に凄い爆発が起こった。

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