第19話 第二の試練〝雪の道〟(4)
アンに一度遭遇した後は、特に何事もなく僕らは迷路を進み続けた。
進んでいるだけでゴールに近づいているのか遠ざかっているのかはサッパリ分からないけどね。
「それにしてもこれだけ広大な迷路なら、もう少しヒントか何かなかったんですかね?」
「乃亜さんの言う通りね。迷路に入る前は正面から見たら校舎くらいのサイズかと思ったのだけど、奥行きはもっと広そうだし、クイズとかで行先の方向とか教えてくれてもいいのに」
「……みんな」
「どうしましたか咲夜先輩?」
「第一の試練、最初はヒント無かったよ、ね」
あっ……。
「無かったと言うか、条件を満たしていない場合はヒントに気付けられなかった、はず」
「そ、それってつまり……」
「発情してないとヒントなしでこの巨大迷路をクリアしないといけない可能性って、ない?」
その言葉を聞いて血の気が引く様な気分になった。
「……いや、でもそうとは限らないんじゃないかな? うん」
「そ、そうよね。それにこの広い迷路でどうやって遭遇すればいいのよ」
「ヒントの可能性は高そうですが、冬乃先輩の言う通り会おうと思って会えるほど簡単じゃなさそうなのは確かです」
できれば会わずにゴールに辿り着きたいけど無理だろうか?
もっとも、仮に会うと決めたとしても、意図的に遭遇を狙うのは難しいと思う。
スタートの時点で男性BとCのグループとは1回も遭遇していないので、先ほどアンと出くわしたのも運が悪かったと言えるほど偶然だし。
「とりあえずゴールに進んでいって、アンと出くわしたら……また僕が受けてくるよ」
こうなれば1回も2回も同じ。
すでに1度は経験しているので、心構えが出来ている分僕が受けた方がいいだろうし。
「1人だけであの花粉を受ける事ってできるんですかね? それなりに離れていないと花粉の影響はあるでしょうし、アンは花粉をかけた人物には10分間の猶予をくれますが、そうでない人物には花粉をかけようと追いかけてくるらしいですから、どの道1人だけ花粉の影響を受けるのは難しい気がします」
「それに蒼汰君と離れている間お互い凄く寒いから、その手段をとるなら蒼汰君じゃない方がいいと思う」
花粉を受けた後、咲夜に高速で回収してもらう手段を考えていたから、乃亜が言うほど難しくないんじゃないかと思っていたけど、寒さについては失念していたな。
僕はみんなと違って誰かしら密着しているので寒さが完全に遮断されていたし。
「でも全員が受けるよりは誰か1人だけの方がいいと思うんだ。分かれ道のある所で誰かが花粉を受けた後で咲夜がその人を高速で回収し、緑の花の効果で囮を出して僕らのいる場所とは別の方にアンを誘導できればいけると思うんだけど」
「確かにその方法ならいけそうですが、問題はどちらが花粉の影響を受けるかですよね」
「い、嫌よ!!」
僕が駄目で咲夜が回収係なら、必然的に乃亜か冬乃のどちらかが花粉を受けなければいけないんだけど、冬乃は怖がるように拒絶していた。
まあそうだよね。
「ということなので、わたしが行きますか。いざとなれば先輩を押し倒せばいいだけですもんね」
「咲夜さんに治してもらいなさいよ!」
解決方法で直接的に性欲を解消する方法を取らないで欲しい。
「ですが現状の試練や次の試練でいかに発情しているかが重要な可能性がある以上、できる限り咲夜先輩に治してもらわない方がいいと思うんですよね」
「それなら我慢できずに押し倒したら治すって事でどうかな?」
それなら[全体治癒]を極力温存できるだろうし。
「え~」
「発情しているんだから仕方がないという言い訳をわざわざ作ろうとしないで」
冒険者学校で1人で迷宮に放り出された時とは別の意味で身の危険を感じるよ。
「「アンッ」」
おっと、都合よくアンがやって来……今、変な音の聞こえ方をしたような?
雪の壁に反響するせいで2重に聞こえたんだろうか?
「「アアンッ」」
気のせいではない。
どう考えても2つ鳴き声が聞こえてきた。
ま、まさか今度こそ性欲に身をゆだねながら闊歩している人達がいるのか……!?
僕らは恐る恐る鳴き声の方に視線を向け、若干後ずさりながら待っていると曲がり角からはアンが現れただけだった。
「「アンッ」」
2体も。
「増えてるじゃん!?」
道理で都合よくアンと遭遇できた訳だよ。
こんな広い迷路で1体だけで僕らを追いかけてくるとか、そんなぬるい試練な訳がなかったか。
「とりあえずここは逃げよう!」
「確かに作戦を実行している余裕はなさそうね」
1体だけならともかく2体同時では、回収に動いた咲夜も花粉の餌食になる可能性が高いし。
急いで僕らはこの場から立ち去ろうとしたのだけど、アンが思いもよらない行動に出た。
「アンッ」
「アアンッ!」
なんと1体のアンがもう1体のアンを蹴り、まるでサッカーボールのようにこちらに飛ばしてきたのだ。
「嘘でしょ!?」
トットットと先ほど近づいて来ていたのを見ていたので、せいぜい小走りすれば逃げられる速さでしかアンは移動しないと思っていたのに、思いもよらぬ方法で高速で移動してきた事に驚き、僕らは対応が遅れてしまった。
――ブファッ
「うわっ!?」
「「「きゃあ!?」」」
くっ、体が熱い……。
また体が火照ってしまう感覚と、体の奥底からムラムラしてきてしまう感覚が襲ってきた。
や、やばい。
全員で密着している状態で花粉を受けてしまった!
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