幕間 赤ちゃん編(6)
朝は他のクラスメイト男子達に睨まれていたが、それも咲夜が抱っこしている間だけで、ホームルームの時間が迫って来て乃亜達が自分達の教室に戻ったことで、それも収まった。
「あ~おはよう」
「「「おはようございます」」」
担任の大林先生が教卓の前に立って、ホームルームを始めた。
「そこに赤ん坊が座っていることに疑問を持ってるやつもいるかもしれないが、色々あったらしく鹿島が赤ん坊になってしまったようだ」
教室内がざわつく。
遅くに来た人とか乃亜達のやり取りを聞いていなかった人は知らなかったから、当然の反応なのかもしれない。
「何かあったら周囲がサポートしてやってくれ。普通の赤ん坊と違ってそんなに手間もかからないだろうから、……まあーあとは任せたわ」
丸投げしやがった。
いや、僕だって別に必要以上に世話なんていらないけど。
大林先生は言いたいことを言ったらそのまま教室を後にしたので、1時間目が始まるまで少しの間時間が出来た。
そのせいか、僕は今女子に囲まれていた。何故に?
「え、この子ホントに鹿島なの?」
「ばぶ(うん)」
「うわっ、赤ちゃんが頷いてる!?」
「鹿島だって分かってても、赤ちゃんってやっぱり可愛いと思うわね」
「あ、ほら、ほっぺたプニプニで気持ちいいいよ!」
「きゃー、手とかも小さくてお人形みたい~」
人の了承も得ずにおもちゃにしないでくれない?
「あの野郎……。学校の中でも上位に位置する美少女だけに飽き足らず、クラス中の女子も毒牙にかける気かよ……!」
「あざといまねしやがって!」
「オレがお前だったら! オレがお前だったら……!」
大樹もサラッと他のクラスメイト男子に混ざって、僕に怨嗟の声をぶつけてこないでよ。
というか、前にも同じこと言ってなかった?
「ちょっと男子。鹿島は赤ちゃんなんだから、そんな目でみたら可哀想でしょ!」
「いや同い年だから! 赤ん坊扱いするとか意味わからねえから!」
「何言ってるのよ。完全に赤ちゃんじゃない。私達が世話してあげなきゃ大変でしょうが!」
「女子達が鹿島の面倒なんてみなくても、俺達男子が補助してやればいいだろうが!」
「駄目よ! 鹿島は私達が育てるの!」
いや、すでに精神は君らと同じくらい成長しきった後なんだけど?
育てられるいわれはないんだけど?
「おめえらうるせえぞ。騒いでねえで席着けー」
おおっ、いいタイミングで水瀬先生が授業をしにやって来てくれた。
男子も女子もさすがに先生の指示には従わないとと思ったのか、すぐに席についてくれたので騒動が一旦収まった。
早く元の姿に戻れれば、こんなにも騒がしくならないだろうけど、いつになったら戻れるのやら……。
◆
――キーンコーンカーンコーン
「先輩、お昼にしましょ」
「ばぶ(待て)」
今4時間目の授業が終わってチャイムが鳴ったばかりなのに、いくら何でも来るの早すぎない?
「先輩、指輪着けてくれないと、何が言いたいか分かりませんよ」
『そうだった』
さすがに授業中にまで着けていると、うっかり会話しかねないので外していたんだった。
『それはそうと、来るの早くない?』
「窓を経由すれば近道出来ますよ」
『廊下から来なよ』
なんで通行ルートに自然と窓が加わっているんだよ。普通そんなとこ通らないよ?
「ですが先輩。ほら、咲夜先輩も」
「来た」
まるで映画のワンシーンのごとく、咲夜が華麗に窓から入ってきていた。
『窓から来てはいけません』
「一刻も早く先輩の所に来たかっただけなのですが……」
『危ないでしょうが』
「レベルが上がって身体能力が上がってるから、この程度なら余裕だ、よ?」
1年生は4階、2年生は3階、3年生は2階を使用しているから、一々廊下を通って階段を上り下りするよりも、ダイレクトに窓から移動した方が早いのは分かるけどね……。
『2人とも、ダンジョンの時と違って、今はスカートなんだから自重しようよ』
「安心してください、先輩。最近はどんな場所に立っても、何故かスカートの中身が見えなくなってるみたいです」
「蒼汰君にしか見せないから」
『誰もそんな事は聞いていない』
というか、乃亜のスキルがなんかおかしな方向に進化してない?
どんな超常現象が働いたら、そんな不思議な現象が起こるんだよ。
「あなた達、来るの早すぎない?」
「あ、冬乃先輩」
少し遅れてやってきた冬乃は呆れた表情をしていた。
「まあいいわ。蒼汰、ミネラルウォーター出して」
『ん? 分かった』
唐突に水を要求されたけど、喉でも渇いていたんだろうか?
冬乃は僕が[フレンドガチャ]から取り出した水を受け取ると、カバンから空の水筒と哺乳瓶に粉ミルクを、って待って。
水筒に水を注いで、かなり極小の[狐火]で温めてるけど、教室で僕の昼ご飯の準備をしなくて良くない?
このままの流れはホントにマズイ気がするんだけど。
「冬乃先輩は昨日先輩にご飯を上げてたでしょうから、今度は私にやらせてください」
「ええ、分かったわ」
移動する気配を微塵にも出さないこの空気。
マジか……。
「はい、準備出来たわ」
哺乳瓶に粉ミルクとお湯を注いで作ったミルクが入っており、どうやら僕は教室で授乳をさせられてしまうようだ。
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