幕間 赤ちゃん編(7)


「さあ先輩。ご飯ですよ~」


 乃亜が赤ん坊に話しかける様な口調で僕に語り掛けながら、僕を抱っこする。

 僕が抵抗する間もなく乃亜に両腕で抱きかかえられてしまうけど、別に飲ませてもらわなくても自分で飲めるよ?


『いや、哺乳瓶を渡してくれれば自分で飲むから』

「ダメですよ先輩。それでうっかり落としたら、教室を汚してしまいますよ?」

『一見正論のようだけど、本音は?』

「赤ちゃんになった先輩可愛い。もっと甘やかして上げたい。ミルクを手ずから飲ましてよしよししたい。ご飯だけじゃなく何から何までお世話したい」

『ちょっとヤバい母性を垣間見せないで欲しいな~』


 これでも君の1つ年上なのに、赤ちゃんプレイに悦楽を見出さないで欲しい。

 今後の関係が不安になるよ。


「無駄な抵抗は止めたら? はい、乃亜さん。ミルク」

「ありがとうございます、冬乃先輩」


 流れる様なパス。

 飲まされるのは確定なの?


「乃亜ちゃん。咲夜もやりたい」

「う~、先輩を独り占めしたいところですが、他ならぬ咲夜先輩のお願いですし、半分ずつでいきましょう」

「分かった。ありがとう乃亜ちゃん」

「いえいえ。あ、冬乃先輩は家で散々されてるでしょうから、ここは譲ってくださいね」

「別に構わないわよ」


 意見の通る気配が皆無だ。

 もう腹をくくって飲むしかないのか~。


「ご飯を食べないと大きくなれませんから、いっぱい飲んでくださいね~」


 飲まなくても時間経過で元に戻れるはずなんだよなー。

 まあ飲まないと飢えるから飲むけど。


 僕は口元に近づけられた哺乳瓶の乳首へと仕方なく吸い付く。

 ゴキュゴキュ。うん、ぬるい。

 赤ちゃんには人肌のミルクでないといけないとはいえ、7月で暑い今の時期は冷たい飲み物が飲みたいよ。


「ああ。そんなに懸命に吸い付いて飲んでる姿、とっても可愛いです先輩……」

『そんな目を輝かせて見られても……』


 僕は普通に飲んでるだけだよ。


「鹿島だって分かってても、あんなに一生懸命に飲んでる姿はくるものがあるわ」

「だよね。私の母性がキュンっと来ちゃう!」

「いいな~。私にもやらせて欲しい~」


 クラスメイトにも飲まされるとか、元に戻った時の羞恥心がマッハで死ぬから止めて。


「女子が鹿島に飲ませるくらいだったら、俺がこの自慢の筋肉で抱き上げて飲ませてくれるわ」

「おい角力かどりき。お前の力士みたいな乳にミルク垂らして飲ませてやろうぜ」

「Eカップはあるはずでごわす!」


 おい馬鹿。こっちも止めろ。

 力士みたいな体型のお前の乳に垂らされたものなんて飲みたくないよ。


 周囲が人の授乳プレイシーンを見て好き勝手言ってるけど、全て無視してひたすらにミルクを飲む。

 こうなったらとっとと飲んでしまうにかぎるよ。


「乃亜ちゃん、そろそろ」

「おや? もう半分飲み切ってしまいましたか。残念ですが仕方ありませんね」


 乃亜はそう言って僕が吸い付いていた哺乳瓶を取り上げると、その哺乳瓶を近くの机に置いて咲夜の元へと近づいていく。


「それでは交代ですね、咲夜せんぱっ――!」

「乃亜ちゃん!?」


 乃亜がまた何もないところで唐突に転びそうになり、目の前にいた咲夜が慌てて僕と乃亜を受け止めようと動いた。が――


「おっぱいハンバーガー!?」


 言ってる場合か!?

 むぐぐっ、い、息が出来ない!


 咲夜のおっぱいに上から、乃亜のおっぱいに下から挟まれるという、奇跡みたいな出来事に大樹が思わず叫んでいたよ。

 乃亜がこけそうになったため僕を怪我させないためか、胸の上でグッと僕を押さえている時に咲夜が前から乃亜を抱きとめてくれた。


 2人の身長差もあってサンドウィッチと言うより、ハンバーガーと言った方が正しいのは間違いないけど、今は苦しいだけで柔らかさを感じる余裕なんて1mmもないけどね!

 手をガムシャラに動かして、息が出来ない事を必死にアピールしないと。


「きゃっ。せ、先輩。こんな所でおっぱいを揉むなんて大胆です……」

「触りたいならいくらでもいい、よ?」


 違う。そうじゃない。


「おっぱいの海に溺れるだと……!」

「裏山けしから妬ましい!!」

「前世でどんな徳を積めばあの天国にたどり着けるんだ!」


 助ける気0かよ。


「うわっ、男子サイテー」

「ひくわ~」

「あんたらじゃ一生かかっても不可能よ」


 男子を白い目で見てないで、こっちをもっと気にして!


 だ、誰か助けてくれ……!


「何やってんのよあんた達」


 ぷはっ! 

 おっぱいに挟まれて息が出来なかった僕を、そこから引っ張り出して救出してくれたのは冬乃だった。

 た、助かった……。


「蒼汰が息できなくて苦しんでたわよ」

「あ、そうでしたか。すいません先輩」

「ごめん蒼汰君」

『次から気を付けてくれればいいよ』


 赤ん坊だから、下手に扱われると大怪我するから、ホント気を付けてね。


「それじゃあ咲夜さん。蒼汰をよろしく」

「うん、ありがとう。それじゃあ蒼汰君。いっぱい飲んでね」


 2度目のせいか抵抗感が薄れたため、僕は躊躇う事無く哺乳瓶の乳首へと吸い付く。

 ゴキュゴキュ。やっぱり、ぬるい。

 元に戻ったら冷えたコーラが飲みたいね。


「あはっ。いっぱい飲んでる。おいしい?」

『赤ん坊用のミルクはこの年じゃ、おいしいとは思えないなー』

「赤ちゃんなのに?」

『見た目だけだから』

「そっか。じゃあ大きくなったら一緒に美味しい物食べに行こっか」

『マ〇クでお願いします』

「…………また挟む?」

『なんで!?』


 コーラとセットでハンバーガーが食べたかっただけなのに、さっき大樹がおっぱいハンバーガーとか言ってたせいで要らぬ誤解を生んでしまった。


 決してまた挟まりたい訳じゃないから、乳を揺らさないの!

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