第23話 敗北者

 

 僕らは台座のあった場所に戻ると、早速[フレンドガチャ]で取り出した縄でできる限りの石像を縛っていった。


 残念ながらパトリシアさんのように下半身が岩に完全に埋没しているものに対しては、上半身に縛った縄を他の人に繋げて少しでも行動を阻害するしかできなかったけど。


『〔緊縛こそノーボンデージ我が人生ノーライフ〕は結んでおかないのです?』

「それは長さ的に1人か2人にしか縛れないし、それで縛るとそれ以外のモノでは拘束無効になるから他の像みたいに大量の縄で雁字搦めにできないよ。

 あと個人的な気持ちとしては、敵とは言い切れない人にはあまり使いたくないかな」


 石像になっているのは拘束ではなく石化だから、〔緊縛こそノーボンデージ我が人生ノーライフ〕を結んだら解放されることもないので、発情させる以外では本当に縛る意味がないんだ。


『そんなぬるい事言ってないで、発情させれば確実に1人か2人は追って来れなくなるのですから、ヤバそうなやつに縛り付けておくのです』

「鬼かな?」


 アヤメが外道なこと言い始めたんだけど、さすがにそれはないんじゃない?

 というか、最近アヤメの言動が別の意味で酷いんだけど、いったい誰の影響を受けているというんだか。


『娘の言う通りじゃぞ。ゴールまでが遠い以上、追ってくる敵はできる限り少ないにかぎる』


 親の影響だったか。


「発情しているから興奮してオリヴィアさんを求めた結果、逆にアドレナリン全開で襲ってくる可能性もあるんだけど?」

「うっ……、それは勘弁して欲しいな」

『でも男に巻き付けた場合でも、遠くにいるオリヴィアさんよりも近くの女性に襲いかかる可能性の方が高くないのです?』

『敗者がどんな目に遭おうとも命があるだけマシというものよ。こやつらは第一の試練に失敗しておるのだから構わんじゃろ』


 他人だからって容赦なさすぎやしませんかね?


 僕は少し考えた末に、ため息をつきながら近くの女性の像へと近づいていく。


「まあいいや。せめて女性に巻き付けておくか……。僕は[画面の向こう側]で退避しているから襲われることはないだろうし」


 僕はそれを巻き付けた結果どうなるかということに目を逸らして、下半身が大理石に埋まっていて足を縛ることができない女性に括り付けた。


 パトリシアさんも同じ状態だけど、オリヴィアさんの友達に対して流石にそれはないと思う。

 年下の女の子だし、レベルも相応だと考えるとレベルの高そうな大人に対して使用した方がいいよね?


 そうして僕らは縛れる人、特に足が大理石から出ている人は足を重点的に縛って、石像の状態から解放されても追って来れないようにし、準備は万全だ。


「よし。では鞘を置くぞ」

『いつでもいいのです!』


 シロは既に僕のスマホの中に、僕は[画面の向こう側]で退避していて、〔曖昧な羽織ホロー コート〕で自分の身を守ることができるアヤメは、ギリギリまでオリヴィアさんをサポートするためにその傍で待機していた。


 だからあとはただ逃げるだけ。


 言葉にすれば簡単だけど、問題は追ってくる人間達の数だ。

 パッと見た限りでも100体以上の石像が置いてあるのだから、そんな大勢を相手に果たして逃げ切れるかどうか。


 僕が出来る最大のサポートでオリヴィアさんを強化し、アヤメが時折〔迫る刻限、逸る血潮アクセラレーション〕でさらに加速させる、オリヴィアさん自身の〔仮初のシンボル 兎の紋章オブ ザ ラビット〕でさらに強化。


 これだけ強化されていると分かっているのにやはりこれだけの数を相手に逃げるというのは、たとえ逃げるのが自分でなくても緊張感が半端ない。


 そんな緊張感漂う中、ついにオリヴィアさんの手により聖剣の鞘が台に置かれた。


 すると鞘と台座が輝きだしたけど、オリヴィアさんとアヤメはその結果を見ることなく出口らしき扉の方へと一目散に移動していた。

 もっとも進むことが出来たのはたったの50メートルほどだった。


「なんだこれは!? 光の壁が邪魔して先に進めないぞ!?」


 光り輝く鞘と台座は徐々にその光を強めたと思ったら、ドーム形状に一気に光の範囲を広げてオリヴィアさん達を追い越し、台座を中心に50メートルほどの地点でその先へと進ませない光の壁となっていた。


『まさかこのまま閉じ込められて、石像になった人間達と戦うことになるのです?!』


 噓でしょ!?

 もしもアヤメの言う通り捕まった人間と戦う羽目になるのだとしたら、さすがにいくら何でも多勢に無勢すぎる!?


 逃げるだけだと思っていたせいで予想外の事態に僕らの焦りがピークに達し、どうすればいいのかと焦るばかりでろくなアイディアが浮かばない時だった。


『フヒッ、自ら困難な道を選ぶだなんてやるじゃない』


 大理石の像の中のどこに紛れていたのか、肌の表面が部分的に石になって少しずつ元に戻っているサラが石像と石像の間からひょっこりと姿を現した。


 いや、なんでサラまで石になってるんだよ。


「お、俺達は一体……? 確か成す術もなくやられたはずじゃ?」

「え、なんで私達縛られてるの?」

「なにこの紐。うっ、ハァハァ……」


 サラだけでなく、パトリシアさんを含む他の石像になっていた人も次々に解放されていっている。

 なにやら興奮している人もいて今にも隣の人を襲いかねない人もいるけど、そちらは見ないようにする。 


 台座には鞘を置いたら僕らを襲ってくるみたいなこと書いてあったけど、今のところそんな気配はなさそうかな。


 光の壁で囲われている状態でいきなり解放された人達に襲われないようなのはいいけど、依然ピンチには変わらない。

 解放された人達は少し呆然としていたり、自分の体に巻き付いている縄を四苦八苦して外そうとしているので、襲われないためにも先手必勝で倒すなら今ではある。

 ただ今が攻撃のチャンスだからといって、[助っ人召喚]で咲夜を呼んで一気に薙ぎ払ってしまうのはせっかく解放した意味がなくなってしまう。

 ヤバい。本当にどうすればいいんだ……!


『フヒッ、そんな心配することはないわ。その光の壁はスタートの合図と同時に消えるから、この壁に囲われたまま襲われることはないわ』


 焦りつつもどう動けばいいのか分からずにいた僕らの様子を見て察したのか、サラが光の壁を指さしながらそう言ってきた。


 それなら安心だけどスタートの合図ってどういうこと?


『台座にも書いてあった通り、あなた達にはここから扉までこの敗北者どもと鬼ごっこをしてもらうわ』

「「「は、はは敗北者……!?」」」


 石像になっていた人たちは縄を外そうと動かしていた手を止めるほどショックだったのか、すごい表情でサラを見るけど、サラは興味がないのか完全に無視していた。


『敗北者はこの先の扉はくぐれないから、全力で逃げることね。それじゃあスタートよ』


 僕らにも敗北者達にも一切準備する時間を与えないまま、命がけの鬼ごっこが始まってしまった。

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