第3話 リアル○○○


「先輩、先輩! あっちに先輩に合いそうな武器ありましたよ」

「へ~どれどれ?」


 乃亜に引っ張られるようにして向かった先にあったのはスリングショットだった。


「なるほど。確かにこれなら中距離支援が出来ていいかもね」

「ですです。気に入っていただけましたか?」

「弾と合わせて5000円だし、値段も許容範囲で……うん、これにしよう」


 昔祭りの射的で似たようなおもちゃで遊んだ懐かしさもあり気に入った。

 僕は早速そのスリングショットを手にレジに向かったけれど、ふと足が止まってしまう。


 そう、とある存在に気が付いてしまったのだ。


 それは特徴的なツマミが付いた四角い筐体であり、お金を入れてツマミを回すとカプセルが出てくる自動販売機――ガチャである。


 そこには≪期間限定、魔道具ガチャ≫とあった。

 お値段1回10万円の高額ガチャだ。


 ……やるか。


「待ちましょう先輩。それはダメです」

「なんで!?」


 いいじゃん。電子世界でガチャれないならリアルガチャしてもいいじゃん!


「当たりは確かに100万以上の価値はある魔道具が出てきますけど、後はゴミみたいな性能で戦闘でロクに使えない代物ばかりって聞きますよ」

「で、でも今なら3回出来るし……」


 僕がそう言った時だった。

 ガシッと頭を掴まれ、無理やり首を横に捻られるとそこには凄い形相をした白波さんがいた。


「あんた、お金は大事に使いなさいよ……」

「……………はい」


 まるで子供を叱る親のような雰囲気の白波さんの圧力に負けた。

 まあ僕が好きなのはスマホアプリのガチャであって、リアルガチャにはそれほど回したい意欲はないのだけど。

 ただ、あまりにもここ数か月満足にガチャれていない衝動からつい代替品を求めてしまっただけで、つい回したくなったと心の中で言い訳させてもらおう。


「しょうがない。それじゃあこっちの『ランダムガチャ』1回1万円の方にするか」

「回すなって言ってんのが分からないの!」

「先輩、せめてこっちの千円ガチャにしません?」

「そんなしょぼいレベルのガチャやっても……」

「あんた、金銭感覚狂ってない?」


 失礼な。

 毎食モヤシ生活だった僕ほどお金を切り詰めた生活をした高校生なんてそうそういないと言うのに。


「せ、せめて3回……」

「まあ先輩のお金ですからこれ以上強くは止めれませんけど、本当にやるんですか?」

「だってこういう何が出てくるのか分からないものを回すのワクワクするし」

「はぁ~、もういいわ。好きにしなさいよ」


 よし、白波さんの許しも出たところで――


「今、私のことおかしな呼び方しなかった?」

「気のせいだよ」


 女性って無駄に鋭い。


 僕はウキウキと1万円をガチャに投入した。

 ……よし、これが課金判定くらうか微妙なとこだったけど投入出来たなら問題なし。

 僕は早速ツマミを回した。


 ――ガチャッ


「黒いカプセルか」


 こういうガチャって結局カプセルの色とか意味あるのかなって思う。

 どの色が1等とか書いてないから色だけで一喜一憂する意味がないし。

 つまり肝心なのは中身だ。

 さてどうだ!


「ポーションチケット×3」

「ハズレ枠ですかね?」

「言わんこっちゃない」


 ポーションの値段が1本千円であることを考えると、このガチャかなり渋いな!?


「じゃあ2枚目」

「今の結果でまだ回す気になるんですか!?」

「うっ、もったいない……!」


 いや、最初の1万は乱数調整用だから。

 ここで諦めたら次出るはずの当たりが出ないから。


 ――ガチャッ


「スリングショット引換券。買わなくて済んだね」

「倍の値段払ってますよ」

「もう、諦めましょ。当たりなんて出ないわよ」


 出るまで回さないと当たらないんだよ?


「ラスト、3枚目」

「ここまでお金をドブに捨ててる人初めて見るかもしれません」

「うえっ、見てて気持ち悪くなってきた」


 結果次第でまだ回したかったけど、さすがに吐き気を催してる人がいるのに次々投入する気にはなれない。

 つまりガチでラストだ。

 さあ来い!!


 ――ガチャッ


「魔道具〔絆の指輪〕引換券。キタッ!」


 魔道具なら当たりでしょ!?


「先輩、それ2万で売られてるやつですよね」

「3万使って、3000、5000、2万で合計2万8000円なら2000円マイナスじゃない」


 そう言われると少し負けた気分に……。

 チラリとついガチャの方を見てしまう。


「先輩、3回までって言いましたよね! これ以上はいくら先輩のお金だからって駄目ですよ!!」


 乃亜が跳びつき手で僕の目を覆って、僕の視界にガチャが映らないようにしてきた。


「ほらとっととそのチケット引き換えて帰るわよ」


 白波さんに促され、傍のレジでチケットを商品と引き換えたけど体が店の外に出ようとしなかった。

 くっ、急に足が重くなってその場から動けなく……。


「高宮さん、こいつ担ぐわよ!」

「分かりました白波先輩!」

「ちょっ、ま、2人とも!? 冗談、冗談だから!」


 店の中であるにも関わらず、2人は僕の制止を聞かずに容赦なく僕を持ち上げて店の出口へと向かいだす。


「2人ともホント止めて!? 恥ずかしいんだけど!」

「これ以上あんたをあそこに置いとくより数十倍マシよ!」

「先輩がああいうのが好きなのは分かってましたが限度を考えてください!」


 衆人環視の中、女の子2人に担がれて強制退去させられたせいでしばらくこの店に来れないことが確定した。

 ほんの冗談のつもりだったのに……。

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