第2話 口ほどに物を言うのは……
「先輩になんて酷いことをしようとするんですか、まったく」
一応大樹達も先輩なんだけど、容赦なく一か所に山積みにされており、諸悪の根源である大樹は一番下で下敷きになっていた。
「南無」
「こ、殺すな……」
さすが腐っても冒険者。
体を鍛えているからか上に7人ほど乗ってるのに喋る余裕があるなんて。
「それじゃあ先輩行きましょうか」
「そうだね」
乃亜に促されその場を放置して僕は教室を出た。
同情? するわけがない。
「あんた達は騒がしくしないと教室を出れないの?」
「生憎自分から騒がしくした覚えはないなー」
教室を出てすぐ、狐耳と尻尾を生やした同級生、白波さんが声をかけてきたのでそちらに振り向く。
「あんたに覚えはなくてもあんたが原因なんでしょ?」
「微妙に否定しづらい」
乃亜の[ゲームシステム・エロゲ]のデメリットに巻き込まれているのが僕というだけの話なのだけど、否定すると乃亜だけが悪いと言っているようなものなので否定できない。
「まあいいわ。それよりも今日は明日の準備のためにアドベンチャー用品店に行くんでしょ?」
明日はいつも行ってる〔ゴブリンのダンジョン〕の最終階層である10階層のボス部屋へと行くので、先日の【
今日は金曜日のため、明日は一日中ダンジョンに潜ることが出来るからその準備もあるけど。
まあ[フレンドガチャ]のお陰で食料の類に心配はないから、ほとんど準備する必要はないんだけど……。
「少なくともポーションは買う必要があるからね」
あれの排出率が渋すぎて全然出ないんだよ、ちくしょう。
まるで白波さんがパーティーメンバーのような会話だけど間違ってない。
【
「白波先輩。もしも良かったら今後も一緒にダンジョンに行きませんか?」
「えっと、……いいの? 私、高宮さんに酷い事言ったのに」
「それについては真摯に謝っていただきましたからもう気にしていません。むしろ白波先輩はいいんですか? わたし達デメリットスキル持ちですよ?」
「それこそ気にしてないわ。あなた達がデメリットスキル持ちって言われてもまるでピンと来ないし、むしろどちらかと言えば頼りになる人達だと思ってるもの。実際に【
「そうですか。でしたら今後もよろしくお願いします」
「ええ、よろしくね」
そんな感じで僕がろくに口出しすることなく仲間となった。
まあ一番複雑な感情を持っていた同士が、仲間になることに納得できた方がパーティーとして上手くやっていけると思うので、下手に口出ししなくて良かったと言えるけど。
僕らは学校を出て雑談しながら、近くにあるアドベンチャー用品店へと着いた。
冒険者がよく利用する店で、ダンジョンで入手できるアイテムやダンジョン探索時に便利な道具などを販売する店だ。
「やっぱりこう言うお店って色々な物が置いてあって面白いですね」
「別に絶対必要じゃないけどつい買いたくなるよね」
冒険者組合が冒険者から買い取ったアイテムや資材などがこう言った店に卸され販売されている。
「ポーションの類はダンジョンの外でも作られてるから安いけど、僕が持つ〔毒蛇の短剣〕のような魔道具は万単位、一番高いものだと3000万する魔剣があるけど誰が買うんだろ?」
ポーションはダンジョンで得た素材を元に大量生産出来ているので、千円くらいで買えるから結構良心的だ。
さすがにエリクサーみたいなどんな傷でも速効で治すのは何十万とするけど、軽い切り傷程度なら千円くらいので十分治せる。
「そんな買う予定のない物見てもしょうがないじゃない。そんなことよりポーションとあんたの武器を見るんでしょ?」
そう。実は今日の買い物はポーションの補充だけではなく、僕が戦う上でどんな装備がパーティーに貢献できるのかを見に来たのだ。
この3人でパーティーを組む際に困るのが僕の立ち位置で、現在シャベル、短剣、日用品が僕の武器であるけど、それらは残念ながら役に立っていないため実質ポーターみたいな感じだ。
「それで費用はいくらまで出せるの?」
「〔マジックポーチ〕に300万使っちゃったから、残りは33万かな?」
「【
「でも〔マジックポーチ〕は便利だったでしょ?」
「それはそうだけど、あなたにばかりお金を使わせていることに罪悪感があるというか……」
「それは気にしないでいいよ。それに白波さん的には誰かが〔マジックポーチ〕を持っている方がありがたいよね?」
白波さんがダンジョンに潜る目的の9割はお金だ。
なんでも白波さんのうちは父親が蒸発してしまったため金銭的に余裕がないらしい。
だから3人でパーティーを組んで深い階層に潜れる方がお金が稼げるのでありがたいと言っていた。
「魔石を回収するのにリュックを背負うのと〔マジックポーチ〕を使うのでは、〔マジックポーチ〕の方が重さを感じなくて楽だしリュックよりも沢山入るから効率もいいしね。
自分の装備なんだし自分のためだから気にしなくていいよ」
「……そう」
素っ気なく白波さんは言うけれど、その白い尻尾が左右にゆっくりと揺れていて、おそらく内心では感謝しているであろうことが分かる。
獣人になると感情を隠すのが難しいのか、しばらく一緒にいただけなのに何を考えているのか尻尾や耳で分かるようになってきた。
大変だなと思う反面、見てて面白いとも思ってしまうのは仕方ないよね。
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