第4話 【典正装備】

 

「[幻惑]」

「はっ!」


 アドベンチャー用品店で買い物をした翌日、僕らは〔ゴブリンのダンジョン〕の最下層のボス部屋へとやって来ていた。


 今日が土曜日であり、僕が〔マジックポーチ〕を持っていることも相まって、他の階層で出会ったゴブリンを片っ端から狩りながら最下層の10階層まで来た。


「【魔女が紡ぐ物語クレイジーテラー】を相手にしたから、ゴブリンキングとゴブリンナイト10体だけなら余裕ね」


 【魔女が紡ぐ物語クレイジーテラー】を倒す前なら余裕でいられないかもしれないけど、あの一件よりも大したことはない敵に加え、レベルも一気に上がったことで余裕で相手どることが出来ている。


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 鹿島 蒼汰

 レベル:18

 HP(体力) :54/54

 SV(技能値):29


 スキルスロット(1)

 ・[ソシャゲ・無課金]

 →派生スキルⅠ:[フレンドガチャ]

 →派生スキルⅡ:[チーム編成]

 →派生スキルⅢ:[放置菜園]

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 高宮 乃亜

 レベル:19

 HP(体力) :61/61

 SV(技能値):30


 スキルスロット(1)

 ・[ゲームシステム・エロゲ]

 →派生スキルⅠ:[損傷衣転]

 →派生スキルⅡ:[重量装備]

 →派生スキルⅢ:[強性増幅]

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 白波 冬乃

 レベル:25

 HP(体力) :70/70

 SV(技能値):44


 スキルスロット(1)

 ・[獣人化(狐)]

 →派生スキルⅠ:[狐火]

 →派生スキルⅡ:[幻惑]

 →派生スキルⅢ:[獣化]

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 ステータスには表示されないけれど身体能力も向上したため、レベルアップ前ですでにゴブリンキングの攻撃を受け止めれてた乃亜は楽に感じるだろうし、白波さんもスキルが強化されたためか[幻惑]の効果範囲も広くなってるように思う。


「前までだったら苦戦したんでしょうけど、今は【典正てんせい装備】もありますから、ねっ!」

「これがなくても勝てるでしょうけど、やっぱりあるのとないのじゃ大違いだわ」


 会話しながらでも白波さんはゴブリンナイトに[幻惑]を放って出来るだけ一か所に固まるように誘導した後、【典正てんせい装備】である剣の先端を向ける。


「食らいなさい〈解放パージ〉」


 白波さんの文言と共に、剣の先端から[狐火]の様な赤い炎が射出される。

 しかしその射出された速度は[狐火]を放った時のスピードと比べ倍近く速くなっており、瞬く間に先頭のゴブリンナイトへと直撃し――


 ――ゴオンッ!!


 轟音を立てて、全てのナイト達が吹き飛んだ。


 〔籠の中に囚われし焔ブレイズバスケット


 白波さんが得た【典正てんせい装備】であり、その効果は柄頭に埋め込まれている水晶に炎を蓄積させ、倍の威力で剣の先端から射出できるというもの。

 ただし蓄積できる炎は[狐火]5発分で、1度使用すると5分間射出することが出来なくなる。


「ガアアアアアアアア!!」


 部下がやられて怒ったのか、目の前にいる乃亜にゴブリンキングがその手に持つ剣を叩きつけるも、乃亜がその手に持つ大楯で防がれてしまう。


「倍返しです。〈解放パージ〉!」

「ガッ!?」


 乃亜の文言で大楯が淡く発光した瞬間、ゴブリンキングの巨体が大楯から放たれた衝撃波で吹き飛ばされ、大楯に接触していた剣は容易く砕けてしまった。


 〔報復は汝の後難と共にカウンターリベンジ


 乃亜が得た【典正てんせい装備】は敵の攻撃を受け止めた時、その衝撃を吸収し倍の威力で敵に返すことができる。

 これは遠距離攻撃にも有効で、ファイヤーボールを受け止めた場合、大楯から受け止めたファイヤーボールが倍の威力で放たれることになる。

 ただし1度使用すると10分間その効果を使用できなくなる代物だ。


 強くなったね、2人とも……。

 スリングショットを使う間もなくボス部屋がクリア出来てしまうくらいに。


 僕だって何もせずにボーっとしてる訳ではなく、2人が効果を使用した【典正てんせい装備】のインターバルを無くすため、派生スキルの[チーム編成]でスマホをタップして【典正てんせい装備】のコピーを呼び出す。


 一瞬2人の手元から【典正てんせい装備】が無くなるけど、再度その手元に現れる。

 本来であれば、効果を使用すれば次に効果を発動するまでのインターバルが存在するのだけど、[チーム編成]で武具として登録しておけば、手元にあるのはあくまでコピーなのでそれを消して再召喚することで、再び効果が使用できる【典正てんせい装備】が現れるのだ。


「先輩のスキルと【典正てんせい装備】の相性が凄くいいですね。インターバルが無くなるとか反則じゃないですか」

「自分では使えないけどね」


 くっそー、なんで自分のスキルなのに自分に恩恵がないんだよ!


「でも仮に使えたとしても鹿島の【典正てんせい装備】じゃ、インターバル関係ないじゃない」

「いや、確かにそうなんだけど……何と言うか2人の装備が凄く羨ましくてつい」

「先輩の【典正てんせい装備】、攻撃力0ですからね」

「あの泉の女神、僕に何の恨みがあると言うんだ……!」

「飲み物大量に流されて、止めに墨汁で倒されたら普通に恨むんじゃない?」


 ぐうの音も出ないよ。


「ガアアアア!」


 ボス部屋であることを忘れそうなくらい和やかに会話をしていたけど、まだゴブリンキングを倒し切っていなかった。

 ゴブリンキングは乃亜の〔報復は汝の後難と共にカウンターリベンジ〕で受けたダメージのせいか、片腕が力なく垂れ下がっていた。

 それでもまだ戦う気があるようで無傷な方の手を握りしめ、こちらに向かって駆けだしてくる。


「片腕潰されても元気ね。でもこれでお終いよ〈解放パージ〉」


 部下も武器も失ったキングに、白波さんは容赦なく〔籠の中に囚われし焔ブレイズバスケット〕で止めの一撃を放った。


 ――ドオンッ!!


 それはゴブリンキングのお腹に着弾し、胴体を木端微塵に吹き飛ばして、辛うじて頭と四肢だけが形を保って転がっていた。


「うわっ、オーバーキルじゃん」

「しょうがないじゃない。吸収した分、全部一回で吐き出す仕様なんだもの」

「強いけど使い時を間違えると仲間にも被害がいきそうだね」

「その辺は注意するわ。少なくとも遠くの相手ぐらいにしか使わないわよ」


 近距離では味方諸共吹き飛ばす威力じゃ、遠距離の相手にしか使えないね。

 威力が強すぎて近距離じゃ使えないとか贅沢な悩みだと思うけど。


 僕は消えていくゴブリンキングを見ながら、2人の【典正てんせい装備】と自分の【典正てんせい装備】を比較して心の中で残念に思った。

 少なくとも〔ゴブリンのダンジョン〕では活躍する場はなさそうだなー。

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