幕間(3) 悪夢は2度見る
白石君は改良型のペンダントを持って学校に向かった後、私は少しだけ仮眠をとってから業務にあたる。
カタカタとキーボードを打ち鳴らして、眠気に耐えながらなんとかリソースの回収を進める。
「今回もいつも通りの討伐スピードだな。あと1人か2人、白石君に応援を行かせても良かったかもしれんな」
「土御門課長、まだ油断はできませんよ。前回だってあのデメリットスキル持ちのせいで大変だったじゃないですか」
「ああそうだな。はぁ、厄介な事だ」
[アイドル・女装]なんてスキルが身に着いた彼には同情するが、そのスキルで周囲の人間を鼓舞して戦闘力を上げるせいで魔物の討伐スピードが上がるから、こっちからしたら堪ったものではない。
去年、そのスキルを使われた時には焦ったものだ。
大勢の人間にバフがつくものだから討伐スピードが想定を上回って、急激にリソースの放出量が多くなって焦ったものだ。
「今回はまだ去年の事態を想定出来てるからマシですけどね。もしも今回いきなりあんなスキルを使われてたら、間違いなく【
「確かにな。去年の事があり、今後もああいった人物が現れないと限らないから、最悪の事態を想定してマニュアルを作る事になった訳だが、今回そのマニュアルが使われる事はないだろう。
少なくとも去年の瞬間最高放出量の倍までは回収が追い付くようにしたし、よほどの事が無い限り問題はないはずだ」
学生達が仮の拠点を撤去してダンジョンの進行を再開してから1時間経ったが、現れる魔物の数は多くなったものの、この程度であれば余裕でリソースの回収は追いつく。
時間を経るごとに現れる魔物が増え、討伐スピードも上がっているが、むしろ去年よりリソースの放出量は少なく思った以上に大したことはなかった。
もっとも、それは[アイドル・女装]のスキルを持つ彼が動いていないからだが。
まだまだ楽観視は出来ないが、今のところ順調なだけに、少しだけ精神的に楽だった。
この時までは。
「最初の難関に学生達が到達しましたね」
「ああ、
59階層は異常なまでに魔物の出現率が上がり、下手に魔物を倒せばその断末魔が次の魔物を呼ぶ状態となっているので、もはやその階層全体がモンスターハウスみたいなものだった。
そんな場所に大勢で侵入すれば火を見るよりも明らかだ。
リソースの放出量が今までとは段違いで増える。
「だが去年はここでかなり苦しめられたが、対策は十分。少し心配があるとすれば、リソースの回収をする人間が予定した人数より少ない事だが……」
「今のところは問題なさそうですね。先ほどよりも放出量が上がっていますが、全然許容範囲内です。[アイドル・女装]の彼が動かないのもあって、討伐スピードはむしろ去年よりも緩やかです」
「彼は生徒会長になったらしいからな。それを考えれば率先して動くよりも、他の生徒が成長できるよう見守るのは当然なのかもな」
少し安堵しながら彼らの戦闘を見る事1時間。
ついに彼が動き出した。
『みんな! 今からみんなを強化するから心構えしておいて!』
モニターから聞こえてきた音声が、私達にとっての正念場が来た事を意味する合図となった。
「来るぞ。総員、全力でリソースの回収にあたれ」
「「「了解しました」」」
モニターにはアイドル衣装に身を包み、その手にはマイク、足元にはスピーカーが設置され、去年の悪夢を彷彿させる映像が映し出されていた。
彼にとってもこの映像を無関係の我々に見られている事を知ったら悪夢だと嘆くのだろうが、これも仕事だ。
それに去年の出来事から彼の情報は集めているのだから今更だしな。
「去年はバフの範囲は
驚異的な人数だが、あの場にいる全ての人間にバフがかかる事を想定して対策している。十分回収は追いつくはずだ」
この時の私は完全に見過ごしていた。
去年に起きた出来事も
今あの場には、学校行事で事あるごとにその歌を披露したために生まれてしまった、熱狂的なファンがいるという事実を。
私はそれに、全く気が付くことが出来なかった。
『『『恵ーーーーー!!!!』』』
「課長、リソースの放出量が急激に増大していってます!」
「ダンジョンにリソースをドンドン取られて行ってるっす!」
「リソースの回収が全く追いついていません! このままでは……」
ふざけるな! 何なんだあの連中は!?
異常なまでに高いテンションで魔物を次から次へと倒し続けている。
1人1人は許容できる範囲で魔物を倒す速さが上がっているが、それが何十、何百人ともなればシャレにならない。
このままではマズイ!
「即座にプランB敢行! ダンジョン上層にモンスターハウスを作りまくってリソースを消費させろ」
「「「了解しました!」」」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます