幕間(2) 数時間前のこちら側

 

≪土御門課長SIDE≫


 ※蒼汰達が多数のミミック達と戦闘を行う数時間前に遡る。


「今日から本格的になるというのに、厄介な話が来てしまったものだ……」


 私はなんとか徹夜で発見器の精度を改良し、異界の住人がどの位置にいるのかが分かるようにした。


「……ふぅ。さすがに疲労が酷くて頭が回らないな」


 何か問題があるような気がしなくもないが、眠気もあるし、下手にこれ以上いじればおかしな事になってしまうだろう。

 なによりこれ以上の改良は時間的に無理だ。


「何故よりにもよって、冒険者学校が遠征を行うこのタイミングで見つけてしまうんだ……!」


 リソースの回収を怠れば【魔女が紡ぐ物語クレイジーテラー】の出現率が高まる。

 そうならないようにするために、あの校長とはキチンと話し合って毎年いつ遠征を行うのか決めているというのに、延期や中止も出来ないタイミングで異界の住人を見つけてしまうのは悪夢でしかない。


「だが、長年姿を見せてこなかった異界の住人を逃がす訳にはいかない」


 たとえ間が悪かろうと、ここで取り逃がしてしまえば次はいつ接触できるか分かったものじゃない。

 もしかしたら遠征が終わるまで学校に潜伏し続ける可能性も十分あるが、その可能性にかけるにはあまりに長い年月探し続けていた我々としては、そんな悠長に考える余裕はない。


「無理を押し通してでもやるしかないな」


 例年通りであれば3人、いや余裕を持って2人までなら白石君の援護に回せる。

 想定外の事態さえなければ乗り切れるはずだ。


「よし、ならば白石君が来たら早速――」

「呼んださ?」

「……いつ来たのだね?」

「「今日から本格的になるというのに厄介な話が来てしまったものだ……」って独り言を呟いていた時からさね」

「声をかけたまえ……」


 ただでさえ疲れているのだから、振り回して余計に疲れさせないで欲しいものだ。


「それで発見器はどこにあるさ? 今朝取りに来るよう言われたから、学校に行く前に寄ったんだけど」

「はぁ、これだ」


 私が前と一見変わらないペンダントを白石君に渡すと、白石君は少し顔をしかめた。


「デザインは変わらず微妙さね」

「そんな事に煩っている余裕はなかったものでな。時間が無くて位置が分かる程度の改良までしか出来なかったが、それで何とか対象に接触、出来れば捕獲をして欲しい」

「うへぇ。それは無理やりにでもってことさ?」

「そういう事だ。話し合いで素直に来てくれるのであれば問題ないが、逃げるようなら2人助っ人に回すから、何とか捕らえて欲しい」

「たった2人は少なくないかな?」

「分かっているが、リソース回収の手を出来る限り減らしたくはない」

「あー了解さ」


 ん? 白石君ならここでさらに絡んでくるはずなのに、随分あっさりと引いたな。

 あまり人手を回せないが、異界の住人の捕獲は重要事項だ。

 白石君に問題があるならマズイな。


「いつもならもっと粘るだろうにどうした? 体調不良か?」

「人が素直に引いたらその反応は失礼すぎるさ」

「悪いが重要な事だ。心身に何か問題があるのなら言いたまえ。見る限りリソース回収程度なら問題なさそうだから、最悪そちらに回ってもらっても構わないぞ」


 多少不調であっても、捕り物よりはリソース回収作業の方が魔力の消費も少ないため、そこまで負担ではないはず。


「女にそういう事言うとガチでセクハラ扱いされかねないさ。ちなみに私は生理とかで体調を崩している訳ではないね」

「ガッ、ゴホッゴホ! す、すまない。そんなつもりで聞いたのではなくてな……」


 し、しまった。ただ体調について聞いたつもりだったのに、男とか女とか意識してなかった。


「冗談さ~」

「頼むからそういう冗談だけは止めてくれ」


 一瞬本当に焦ったのだから。

 女子高生相手にセクハラとか、シャレにならなすぎて冷や汗ものだぞ。


「ふぅ。それで何も問題はないんだな?」

「問題ないさ。だからリソースの回収だけはしっかりやって欲しいさね」

「珍しいな。君がそこまで言うなんて」

「今、友達がダンジョン遠征に参加しているから、そんな時に【魔女が紡ぐ物語クレイジーテラー】が出て欲しくないだけさ」


 なるほどな。

 そういう理由であれば納得だ。

 彼女は以前に友人が殺されそうになったからという理由で、生け捕りに出来る相手を殺そうとしたしな。


 ……頭のねじが飛んでると言わざるを得ないが、少なくとも滅多矢鱈に人殺しする訳ではなく、理由もなくそういう行動に出る訳ではないから良しとしよう。


「では異界の住人については君に任せる。無関係な人間より前々からそこに在籍している君なら、怪しまれることもないし適任だ」

「分かったさ。ところで助っ人2人は誰を?」

「私が行きたいところだがそうもいかないからな。助っ人の2人についてだが、実力など特性次第で時と状況によって変わるだろうから、君が連携をとれると思う相手を2名選びたまえ」

「……誰が私と連携とれるのさ?」

「……少しは協調性を学びたまえよ」


 本当に白石君に任せていいのか凄い不安になりながら、私は白石君の特性に合いそうな2名を選抜した。

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