第4話 ナンパ

 

 咲夜の提案で早速近場のゲームセンターへと僕らは訪れた。

 中に入ると煌びやかな光と大きな音が僕らを出迎える。


「へー、ここがゲームセンターなのね。初めて来たわ」

「冬乃先輩はうるさいとは思わないんですか?」

「獣耳のことなら大丈夫よ。そっちを意識せずに元からある耳で聞くよう意識すればそれほどでもないわ。まあ大きな音が鳴ってるから、それでもうるさく感じるけど」


 乃亜に言われてようやく獣人化している冬乃にとっては辛い場所だったかもしれないと思ったけど、思ったより平気そうにしているので良かった。

 そうじゃなかったらすぐに引き返す羽目になってたよ。


「色々あって面白そうだ、ね。初めて来たけど、ホントに色々な大きなマシンがあって見てるだけでもワクワクする」

「あれ? 咲夜も初めてなの?」


 ゲームが好きだと言っていたから、てっきりこういった場所には何度も訪れているんじゃないかと思ってた。


「うん。1人では来辛い場所だと思ってたから、今まで来た事なかった」

「あー確かにそうですね。わたしもお姉ちゃん達が連れていってくれなければ、1人で来ようとは思いませんでした」

「じゃあ乃亜は何度かゲームセンターで遊んだことはあるんだ」

「はい。先輩はないんですか?」

「1度だけ大樹達と遊びに来たね。お金の消費が激しいから、それ以降来た事なかったけど」


 たとえ100円でもガチャ代に注ぎたい、そういう思考だからこういった場はほとんど避けてたよ。


「ゲームセンターってお金の消費が激しいって聞いてたけど、やっぱりそうなのね。そんな事にお金を使う余裕なんてなかったから、今まで来た事なかったわ。今は余裕が出来たから少し遊ぶくらいなら問題ないけど」


 冬乃はそう言いながら興味深げにキョロキョロと周囲を見渡して、尻尾を軽く振っていた。

 初めてくる場所に少し興奮しているんだろう。


 そんな周囲を見渡している冬乃は、いや冬乃達は周囲からの注目の的だった。


「おい、あの子見て見ろよ。獣人で結構可愛いぞ」

「おっ、ホントじゃねえか。オッサンの獣人とか似合ってない獣耳をつけてる奴見ると、誰得だよって今まで思ってたけど、あの子はめっちゃ似合ってんな!」

「一緒にいる女の子たちも中々可愛いな。特に一番背の小さい子」

「おまっ、ロリコンかよ! あの中だったら、ちょっとぼんやりしてそうな雰囲気の一番背の大きい子だろ。胸も大きいし」


 そして周囲は一緒に歩いてる僕の方へも視線が向く。


「男1人に女3人とか、どこの石油王だ」

「何故石油王限定? いや、気持ちは分かるが。女を侍らすとかとんだハーレム野郎だな!」

「許せねえ。ああいう奴がいるから俺達みたいにあぶれる男が出てくるんだ……!」


 なんか学校にいる時みたいな空気になってるぞ。

 3人はユーフォーキャッチャの景品が気になるのか、その中身を覗いてて周囲に気づいていないのがまだ幸いだけど。

 そうじゃなかったら、みんな気兼ねなく遊べないだろうし。


 出来れば何事もなくこのまま遊べたらいいなと思ったけど、ある男のつぶやきがそれを許さなかった。


「いや待て。男女のバランスが悪いから、声かければワンチャンあるだろ!」


 ないです。

 ないから止めて。

 普通に遊びたいだけだから。


 そんな僕の願いなど聞き届けられるはずもなく、あちらこちらで口々に騒いでいた人達の中でワンチャンあると言っていた男の人がもう1人連れてこちらに向かって歩いて来た。


「君たち可愛いね。一目ぼれしちゃったから声かけちゃったよ」

「良かったら俺達と一緒に遊ばないかな?」


 僕の事などまるで目に入っていないかのように、見た目が少しチャラそうな同い年くらいの男達2人が3人に声をかけてきた。

 こんな場面に今まで出くわしたことがないのでどうしたものかとも思うけど、せっかく遊びに来ているのに3人に嫌な気分にさせるのは面白くない。


 ナンパを撃退する方法なんて何も思いつかないけど、とりあえず僕はすぐさま間に入ろうと動こうとしたら、乃亜に突然手を引っ張られて腕に抱き着かれた。


「すいません、わたし達彼氏いるので他の方に声をかけてください」


 まだ彼氏じゃないんだけど……。

 まあそれを馬鹿正直に言う意味はないし、彼氏持ちだと言えばナンパもすぐに離れるだろうから乃亜のされるがままにされてるけど。


『冬乃先輩も咲夜先輩も先輩にくっついてください。ナンパをあしらうのはこれが一番手っ取り早いです』

『分かった』

『えっ、私も? まあ分かったわ』


 乃亜が密かに〔絆の指輪〕によるテレパシーを使って咲夜と冬乃に指示すると、咲夜はすぐに頷いて、冬乃は戸惑いながら頷いていた。

 咲夜はノリノリで乃亜が抱き着いてるのとは反対側の腕に抱き着いてきて、冬乃は僕の後ろで遠慮がちに服の裾を掴んできた。


「はっ? 嘘だろ。3人とも彼女だって言うのかよ……」

「そうですが何か?」


 さすが乃亜。堂々と言い切っちゃったよ。


 遠巻きに見てきていた男の人たちもそれを聞いてか、ガックリと肩を落としているのもいれば、僕を見て有り得ないと呟いていた。

 僕みたいな普通そうなのが美少女達に好かれているのを見たら、そう言いたくなるのも分かるけどね。

 ホント何でだ? っと自分でも言いたい。


「いやいや、そんな冴えないやつより俺と一緒に遊ぼうぜ。俺、冒険者やっててユニーク持ちだから、ダンジョンのこととか結構面白い話が出来ると思うんだけどな」


 しかし遠巻きに見てきていた男の人達と違ってナンパをしてきた男達の内、茶髪でくせ毛の強そうなショートパーマの男がしつこく迫ってきた。


「私の姿を見てそれを言うの? 見ての通り私だってユニーク持ちだし、ダンジョンもこの4人で冒険者として活動してるから」


 後ろから呆れた口調で冬乃の声が聞こえてきた。

 確かに冬乃の言う通り、ダンジョンの話って言われても、テスト期間とかを除けばほとんど毎日行ってるから、むしろそんな話されてもと思うよ。


「俺のユニークスキルは[剣舞]でEランクダンジョンも楽に攻略出来てるんだぜ」

「だったら何よ。【魔女が紡ぐ物語クレイジーテラー】でも倒したことあるのかしら? ちなみに私達はあるわよ」


 冬乃がそう言って左手を掲げると、手首に刻まれている入れ墨を見せつける。

魔女が紡ぐ物語クレイジーテラー】を討伐した証であり、【典正装備】が収納されている証だ。

 さすがにこれを見たからか、しつこく絡んできた男が一歩後退した。


「そ、そんなのただの入れ墨だろうが!」


 引っ込みがつかなかったんだろうけど、そのまま立ち去ればいいのに……。


「蒼汰。あんたの【典正装備】なら出しても問題ないから見せてあげなさいよ」

「あ、うん。分かった」


 先ほどから全く口を挟む余地がなくてただの壁役になってたけど、ここでようやく出番のようだ。


 スキルと同じで【典正装備】も冒険者組合により危険度判定があり、甲種で具現化禁止、乙種で具現化まで許可、丙種で能力使用許可になる。

 そして冬乃達の【典正装備】は武器のためか甲種判定だったけど、僕の【典正装備】は乙種判定を受けているので、ダンジョン外でも具現化できる。


 ……墨を具現化してどうしろと?

 習字なんてしませんよ?


 判定を受けた時の気持ちを思い出しながら、僕は左手首の入れ墨に触れて墨を具現化した。


「うっ……」

「どう? これでも疑うわけ?」


【典正装備】を見たせいか、目の前の男達の顔色が青くなっていく。

 これに攻撃力なんてないからそんな化け物を見る目で見なくてもいいんじゃない?


「お、おい。もう行こうぜ」

「あ、ああ……」


 しつこかった男も連れに促されてようやく僕らの前から立ち去り、ゲームセンターを出ていった。


「それじゃあ何から遊ぼうかしら?」


 冬乃は先ほどまであった事をまるで綺麗サッパリ忘れてしまったかのように、置かれている筐体へと視線を移していた。

 切り替え早いな~。

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