第5話 ゲームセンター

 

 ナンパしてきた男の人達が立ち去った後、僕らはゲームセンター内にある様々なゲームを楽しんだ。


 ナンパは最初に絡まれて以降、誰も近づいてこなかったので気兼ねなく楽しむことが出来たので良かったよ。

 3人の様子からどうあがいても脈無しと判断したのかもしれないね。


 それにしても久々にゲームセンターに来たけれど、前に遊んだところとは場所が違うせいか、雰囲気は同じでも置かれているものとかがガラッと変わっていて、同じゲームセンターという括りでも結構違う感じがして見てるだけでも面白かった。


「先輩、先輩! これ見てください。可愛いと思いませんか?」

「ん、どれどれ?」


 乃亜がもっとも気に入っていたのはクレーンゲームで、その中でも一番欲しそうにしていたのがデフォルメされた大きなサメのぬいぐるみだった。


「見ててください先輩。絶対に取ってみせます!」


 乃亜はそう言って躊躇なく500円玉を投入。

 乃亜が遊ぶクレーンゲームはアームが3本の爪になっていて、パッと見握力が強そうで景品を簡単にゲット出来そうだった。


「あ、掴んだ」


 乃亜は前後左右にアームを動かしてサメに標準を合わせると、いとも簡単にサメを捕えてアームが持ち上げ――


「あっ」


 落とし口にたどり着く前に落としてしまった。


「やっぱり確率機だと取れるかどうかは運しだいになりますね」

「確率機?」

「簡単に言えば設定金額をいれるまでは、景品を掴んでも移動中にアームが弛む設定の機械のことです」

「詳しいんだ。お姉さんと一緒にゲームセンターに来たことがあるんだよね?」

「はい。その時にナンパのあしらい方を覚えました」

「ああ、だからあんなに手際良かったんだ」


 ナンパに声をかけられてもすぐに対処してたもんね。


「う~ん、中々取れません。買った方が安いのは分かっていても取れるまでやりたくなるから不思議です」

「その気持ちは分かる」


 ガチャと一緒で目的の物を手に入れるまで止められないよね。

 その後、乃亜は3000円かけてようやくぬいぐるみをゲットしていた。


「咲夜は格ゲー?」

「うん。これの家庭用は遊んだことあるけど、アーケードの方はやった事なかったから」


 そう言いながら咲夜は手を素早く動かして、えげつないコンボを決めてCPUをフルボッコにしていた。


「アーケードの方やった事ないのになんでこんなに上手いの? コントローラーが違うからスティックでの操作って慣れないと難しいと思うんだけど……」


 僕が大樹達と遊んだ時はスティックに慣れなくて、全然上手くキャラを操作出来なかったのに。


「アケコンで遊んでたから、家と同じ感覚で出来る、よ? 指が痛くならないからおススメ」

「指が痛くなるほどゲームしたことないなー」


 ガッツリ通り越してどっぷりゲームで遊んでいるようだ。


 “NEW CHALLENGER!”


「なに、これ?」

「あ、乱入来た」


 咲夜は分かってないのか首を傾げていた。


「CPUじゃなくて人と対戦する時になる画面だよ。勝てればさっきまでの続きが出来るけど、負ければここで終わりだから頑張ってね」

「うん、頑張る」


 対戦相手は素早くキャラクターを選択したので、すぐに対戦が始まった。

 しかし誰が乱入してきたんだろ?

 好奇心から少しだけ向こう側の筐体にいる人物を覗いてみた。


「ここでいいところ見せたら俺にだって彼女が……」


 見なかったことにしよう。

 血の涙を流しそうな表情で座ってるクラスメイトがいたけどスルーで。


「ぬあー! コンボがえぐすぎて全然ダメージが与えられねーー!!」

「人とやるのも楽しい」


 全く反撃も出来ずにクラスメイトはやられていたけど、咲夜が楽し気に遊べていたから、よし。

 尊い犠牲となった彼に黙祷。


「冬乃もクレーンゲームなんだ」

「ぬいぐるみは要らないけどね」


 冬乃が遊んでいたのは100円で3回遊べるクレーンゲームだけど、中に入っているのはお菓子だった。

 筐体には今だけ100円と書いてあり、通常よりもお安くゲームが出来るもののようだ。


「100円で2個取れれば元が取れるから集中しないと……」


 小さいクッキーやポテチが縦長に複数並べられて包装がされているお菓子が筐体の中に並べられている。

 確かあれ、1袋77円だったっけ?


 冬乃は尻尾をピンと立たせて、クレーンゲームに集中していた。


 客寄せ商品なのか、結構取りやすい配置になってて少し触れれば落とし口に落ちるようになってるから、そんなに真剣にやらなくても1個は取れると思う。

 まあ1個じゃ普通に買った方がお得だから、ここまで真剣なんだろうけど。


「よし、まず1つ……」

「味は何でもいいの?」

「二の次よ」


 言い切ったな。

 手に入れたの酢昆布味のポテチなんだけどいいんだろうか?

 というかよくこんな商品あったな……。


 様々な種類が筐体の中に入っていて、プレーンからチョコを挟んだものとバラエティーに富んでいるけど、取れれば何でもいいようだ。


「くっ、落ちない……」

「100円で3個落とされたら店側も泣くよ」


 2回目のチャレンジでは、後少しで落ちそうで落ちなかった景品を悲しげな眼で見る冬乃。

 心なしか獣耳がへたっていて、軽くへこんでいる。

 いくら客寄せでも、そこまで簡単に落ちはしないようだ。


「せめてあと1つ」


 かなり真剣な表情であり、下手に声をかけれそうになかったので、3回目のチャレンジを黙って横で見ることにする。


「あっ……」


 アームが上手いところに落ちたように見えたけど、残念ながら景品が絶妙なバランスで落とし口の端に引っかかってしまっていた。


「はぁ~。慣れない事はするものじゃないわね」


 そう言う冬乃は明らかに落ち込んでいて、尻尾と耳が分かりやすいくらいへたっていた。

 まあ100円かけて手に入れたのが酢昆布味のポテチ1つじゃ、普通にへこむよね。


 でも、酢昆布味ってショートケーキ味とかと違って普通に食べれそうで逆に気になるな。


「もうやらないの?」

「いいわ。私には向いてそうにないもの」

「それじゃあ僕がやっていい?」

「別にいいけど」


 と言われたのでやったら3本取れた。


「何でそんなに取れるのよ!?」

「冬乃が取りやすい状態で放置しててくれたからとしか言えないんだけど」


 1回目で落とし口に落ちる寸前のと近くにあるの、2本をまとめて取れたから、残り2回分で1本取れたし。


「酢昆布味くれるなら、この中から2本持ってっていいよ」

「えっ、ホントに!?」

「うん。酢昆布味が気になるし」

「じゃ、じゃあこれとこれ貰うけどホントにいいのね?」

「いいよ」


 そう言って冬乃が持っていったのはチョコチップのクッキーといちごのビスケットだった。

 取れれば何でもいいとは言ってたけど、やはり甘いものの方がいいようだ。


 そして僕の手元に残ったのは酢昆布味とエビせんべいだったけど、ツマミかな?

 甘いの食べたかったら、[フレンドガチャ]から何か適当に出せばいいだけだけど。


「蒼汰、その……ありがと」

「うん、気にしないで」


 若干俯きながら嬉しそうに尻尾を振ってお礼を言う冬乃が少し可愛いと思った。

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