第31話 慣れてるだけです
【四天王】の2人は僕の顔をジッと見て、不思議そうに首を傾げていた。
『我らを倒すために密かに近づいた、という訳ではなさそうだな』
『そうだの。がっちり拘束されておるし、先ほどの魔法の効果によりここに呼ばれたと言ってよかろう』
『だがあの魔法、縁のある者にしか効果は及ばないはず……』
シンディが僕から視線を外して、不思議そうな表情をしながら虎人の男に視線を向ける。
『クライヴ、貴様と縁のある者ではないのか?』
シンディがそう聞くと、クライヴと呼ばれた虎人の男が再度首を傾げた。
『そんなはずは……。スンスン。うむ、会った事のない匂いだ。シンディこそどうなのだ?』
『いや、妾はこのような者会った事はおろか見た覚えも……。おや? その隣にいる小さき者は先ほど妾達に話しかけてきた者ではないか?』
僕が何者なのか分からず困っている様子の2人は、そこでようやくアヤメの存在に気が付いた。
僕らと一緒に呼び出された老人たちが前にいたから、そりゃあ2頭身のアヤメはその影に完全に隠れてしまっていて見えなかっただろうね。
アヤメに気付いた2人はさらに額にしわを寄せて悩み始めた。
『先ほど少し話しかけられた程度で呼び出される魔法だったか?』
『そんな訳あるか。あれは妾達と因縁深い相手をたとえ結界内にいようとも強制的に呼び寄せ拘束するものだ。
いくら注ぎ込んだエネルギーが莫大で、異なる世界にいても強制的に呼び出せるほどの効果はあっても、少し話しかけられた程度の縁で呼び寄せるものか』
なるほど。
だから異空間にいた僕も、〔
魔物が倒されたことによって得たリソースと、本来であれば【典正装備】になるはずのリソースを使って呼び寄せたのなら、【典正装備】である〔
『パパ、ママ、話を聞いて欲しいのです!』
『我をパパと呼ぶな。我に子供などいない』
『そうだの。当然妾も子を成した覚えなどない。ましてや貴様のような小さき者はなおさらの』
まあそれはそうだろう。
なにせアヤメは僕のスキル[放置農業]の中にいるクロとシロの2人から生まれたのだから。
「落ち着いてアヤメ。そもそもこの2人にパパ、ママなんて言っても事情を知らなければ分かるはずもないよ」
『ですがご主人さま……』
僕がそう言ってアヤメをなだめようとしたら、クライヴとシンディはキョトンとした表情になった。
『おぬし落ち着きすぎではないか?』
『いきなりこんな所に呼ばれて拘束までされておるというのに、肝が据わっておるの』
生憎と拘束されたり抵抗できない状態にされるのは初めてじゃないからね!
くっ、自慢にならないな。
『まあよい。それで貴様はここに呼ばれた理由は見当がついておるのか?』
『その小さき者が我らをパパママなどと呼んだことが関わっているのかの?』
クライヴとシンディにそう言われたけど、思いつくことなど1つだけだった。
「クロとシロの事だろうな。このスマホに――あれ? スキルが使えない」
クロとシロの事を説明しようとしてスキルのスマホを出そうとしたけど、いつものように出てこなかった。
『その鎖は相手を地に縛るだけでなく、相手の持つ力も封じるからスキルなどは使えぬよ』
「そうなんだ。それじゃあ口頭だけになるけど信じてくれるかな?」
『おぬしは本当に信じられんくらい落ち着いておるの』
僕はそう前置きして、クロとシロの事について説明した。
とあるダンジョンでミミックからドロップした石。
それがスキルに取り込まれ、自身の名前も分からない2つの意思がスキルに宿った事。
そしてその2つの意思であり石から生まれたのがアヤメだという事。
それらを簡潔に語ったら、クライヴとシンディの2人は納得したように頷いた。
『なるほどな。そういう事ならある意味このクソ共よりも縁は深いかもしれん』
『であるな。しかし妾達の子供とは……。ぬしとそのような関係になったというのは何とも言えぬ気分になるの』
『それは我もだ。だがまあ何も残せなんだはずの我に子供が出来ていたというのは嬉しい限りだがな』
『そうだの……。妾達はいささか強すぎたゆえ、孤立しておったからの』
2人は感慨深そうに縛られているアヤメを見下ろしていた。
先ほどまで近くにいる老人たちに対して放っていた剣吞とした雰囲気とは打って変わって落ち着いた様子を見せている2人。
今ならまともに話ができるかもしれないな。
誰かに助けてもらえるように少しでも時間を稼いでおきたいところだし。
「2人はどうしてこんな事を?」
『うむ。無関係、というわけではないが巻き込んでしまったのだからおぬしには聞く権利があろう』
『妾達とそこの忌々しき者共との因縁をの』
そう言って2人が語ってくれた話は、以前エバノラから聞いた話を補足するような話だった。
具体的には〝何故ダンジョンというものが生まれたのか〟、その根幹に関わる話だった。
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