第28話 近づく距離


 僕がこの場にいる必要があったかどうかはともかく、宗司さんや千春さん達に来てもらってよかったと思うよ。

 親と同じくらいの年齢の人に、宗司さんみたいに僕がズバズバとハッキリ言う事は出来なかっただろうし、同じ親からの意見は彰さん達も受け入れやすかっただろうからね。


「俺もうちの子達が反抗期になってあまり口を聞いてくれなくなった時は大変だった。なんせうちはハーレムだから余計に周囲が叩きやすかったのもあって、小さい頃は滅茶苦茶嫌われてたんだよ……」

「宗司さんも大変だったんだね」


 彰さんが同情しているけれど、宗司さんは一体何の話を始めるんだ?

 自分の体験談を話して、アドバイスでもするのかな?


「それでも時間が経てば理解してもらえるようになっていったんだが、一番下の子の乃亜がな~。

 反抗期はすぐに終わったんだが、今度は自分もハーレムを作るとか言い出して。

 親としてはやっぱりどこぞの男のハーレムの一員になるってのは考えさせられるものがあるんだよ」

「宗司さんもハーレムなのでは?」

「そうなんだよ。だから絶対に止めろとか強く言えなくてなぁ……。どうすればいいと思う?」


 なんであんたが相談する側に回っているんだよ。

 しかも当事者の目の前で。


「そうだね……」


 彰さんが僕の方をチラリと見ると、頷いて宗司さんの方に視線を向け直した。


「私は娘が選んだ人物によるけど、鹿島君だったら問題ないと思うよ」

「「なっ?!」」


 娘さんを僕に下さいと言う前に許可が下りてしまった!?


 僕と宗司さんは同時に驚き思わず2度見してしまうけれど、彰さんはそんな僕らを見て微笑んでいた。


「私はあまり父親らしいことはしてやれなかったけど、この数カ月咲夜が本当に嬉しそうにしているのは分かっていたから。

 それが鹿島君のお陰で、娘が幸せそうにしているのだから親として文句のつけようもないよ。

 こうして私達が宗司さん達に相談できたのも、鹿島君が咲夜のためにこの場をセッティングしてくれたお陰だし、わざわざ文化祭の最中にこの場を用意してくれたのも、この後文化祭中に咲夜と接する機会を作るためだろうからね」


 確かに咲夜と関わる機会が増えればと思ったのは間違いないけど、まさか咲夜とどう関係を改善するか悩んでる状態で、そこを察しているとは思わなかった。


「ここまで私達家族のために動き、慮ってくれた子が結婚相手に相応しくないだなんて言えないよ。

 だから、咲夜をよろしく頼むよ。鹿島君」


 あまりにも急な展開に僕はなんて返せばいいのか混乱していたら、さらに混乱する事態が舞い込んできた。


「ん、ありがとう、お父さん」

「「「えっ!!?」」」


 なんで咲夜がここにいるの!?

 というか、この周辺に遮蔽物なんてないのにどこから現れたんだ?


「あっ、まさか穂香か!」

「ご、ごめんなさい。バレない様に連れて行って話を聞かせてあげて欲しいって亜美に言われて……」


 まさかさっき亜美さんが任せてくれればいいとか言っていたのは、秋斗君達のことじゃなくてこっちのことだったのか!?

 穂香さんは[光魔法]のスキルを持ってるし、ダンジョンの外でもそのスキルが使える事は知ってるけど、光学迷彩のような感じで姿を隠すこともできたのか……。ん?


「姿を消すような使い方して大丈夫なんですか?」

「な、内緒でお願い……」


 やっぱりダメなんですね。

 そんな力をダンジョンの外でも使えば、犯罪も容易になるだろうし。

 まぁ冬乃だって前に哺乳瓶の水をお湯に変えるために[狐火]をコッソリ使用していたし、人や物を傷つけずバレないならコッソリ使う人は結構いる――うっ、ミルクを与えられた事を思い出して頭が……。


「お父さん達の気持ちはよく分かった」

「咲夜……」

「咲夜も正直に言えば怖かった」

「「「えっ?」」」


 彰さん、千夜さん、月夜ちゃんが意外なものを見るかのような目で咲夜を見つめ返していた。


「施設から出たばかりの頃、お父さん達との距離感が分からずまともに会話出来なくてどうすればいいのか分からなかった。

 特にお父さん達に近づいた時ビクリと怯えられたのを見たら、下手に近づいてこれ以上関係を悪化させたら本当に1人ボッチになってしまうと思って、不用意に近づくのは躊躇われた」

「お姉ちゃん……」

「付かず離れずを意識して気が付けばずっとこのままだった。……今までキチンと接する事が出来なくて、ゴメン」


 そう咲夜が謝ったら彰さんや千夜さん、月夜ちゃんがガタンッと音を立てて立ち上がり、咲夜へと駆け寄っていく。


「違う! 咲夜は謝る必要なんてないんだ。ただ私が父親として失格だっただけで、咲夜が悪い事なんて1つもない!」

「ええ、お父さんの言う通りよ。謝らなければいけないのは私達の方。今まで寂しい想いをさせてごめんなさい……」

「月夜、ずっとお姉ちゃんと仲良くしたかったよ! 今日からはもっともっとお話し、しよ」

「うん……うん……!」


 4人が瞳に涙を浮かべて抱き合っており、ようやくここからが咲夜達が家族としてスタートしていくのだとその光景を見て思うのだった。

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