第27話 心構え

 

 暴走していた宗司さんを柊さんが殴って止めてくれたことでようやく落ち着いたので、校門前から移動し、極力人気の少ないところの休憩所でお互いの自己紹介を行った。

 乃亜と冬乃のご両親たちは互いに面識があるので、実質咲夜のご両親たちへの紹介みたいな感じだったけれど。


「本日は私どものためにわざわざありがとうございます」

「気にしないでください彰さん。お互い大事な娘を持つ親同士、できれば硬くならず敬語もなしで腹を割って話し合いませんか」

「そうですね。ありがとうござ――いや、ありがとう宗司さん」


 お互いの紹介が終わった後は親同士の会話を数分ばかり行っていたけれど、咲夜がクラスの店番を2時間する事を考えるとまだまだ時間はあるので問題ない。

 しばらく待ったのち、ようやく本日の本題である咲夜との関係改善のための話し合いが行われる。


 もっとも全員で話し合うわけではなく、夏希ちゃんと秋斗君も一緒に来ているので、2人には文化祭を楽しんでもらうために最初に軽い挨拶をした後は、亜美さんと穂香さんが付き添って遊びに連れて行ってしまったけど。

 穂香さんは「わ、私はこういうの上手くアドバイス出来そうにないから、この子達の面倒を見るわ」と言い、亜美さんは「こっちは任せてくれればいいわ」ということでこの場にはいない。


 冒険者学校に行っていた時、乃亜の家に夏希ちゃんと秋斗君が預けられていた事があったので、2人は抵抗なく亜美さんと穂香さんに付いて行ったよ。

 まあ確かに小さい子に聞かせる話でもないから、2人がそうしてくれるのはありがたい。


「それじゃあ早速話し合いをしたいと思いますが、月夜ちゃんの話では彰さんと千夜さんは咲夜と上手く接する事ができないのを改善したい、ということでよろしかったですか?」


 僕がそう問いかけると、彰さんはコクリと頷いた。


「ああ、そうなんだ。この場にいる人で知っている方もいるだろうが、あの子は<魔素親和症候群>だ。

 幼い頃、あの子がそれに発症してしまい施設に預けられる事になったんだが、色々あってまともに会話する事ができなくなっていってね。

 あの子が施設から出れた時、私達はあの子の力に少し警戒していたのと何を考えているのか分からないその態度に、もしかしたら私達の事を恨んでいるんじゃないかと勝手に疑心暗鬼になってしまったよ」


 彰さんは過去を思い出し後悔しているのか、顔を歪め悔しそうな表情を見せていた。


「そのため家に戻ってきた最初の時によそよそしい態度をとり続けてしまった結果、まともに会話もできなくなってしまったんだ。

 だけどやっぱりあの子は、咲夜は私達の大切な娘なんだ。だからやり直せるなら、また一からキチンと家族になりたいんだ……!」

「っ……」


 彰さんのまるで懺悔のような想いの言葉に、奥さんの千夜さんは声を押し殺して泣いていた。

 何とかしたいという想いはあるけれど、今の今までどうすればいいのか分からずなあなあで過ごしていた自分達への怒りと後悔の感情が溢れているかのようだった。


「なるほどな。彰さん達の言いたいことは分かったぜ。

 ただ一言言わせてもらえばさすがにそれは都合が良すぎるだろ」

「なっ!?」


 彰さんが目を見開いて宗司さんを見るけど、そりゃそんな反応になるよ。とんでもない事言い始めたけど大丈夫か?!

 止めた方がいいかと心配になったけれど、横に座っていた柊さんが僕の肩に手を置いて「あいつに任せておけ」と言うので、しばらく様子を見る事にした。


「彰さん、千夜さん。あんた達は覚悟はあるのかい?」

「か、覚悟?」

「ああ。自分達がどれだけ傷つこうとも、彼女に接し続ける覚悟が」


 宗司さんが何を言っているのか困惑している2人に淡々と事実を突きつけていく。


「だってそうだろ。こっちが一方的に距離を取っていたのに、今更仲良くなりたいだなんて虫のいい話だとは思わないか?」

「それは……」

「しかも今はタイミングが悪い。彼女は大金を稼いだ直後だからお金目的なんじゃないかと思ったりするんじゃないか?」

「私達はそんなつもりじゃ……!」

「ああ。それは目を見れば分かるさ。

 俺が大金を稼いだ直後は金を無心してくる奴らが結構いたが、そんな奴らと彰さん達の目は違うからな。

 だが彼女がそれを分かってくれると思うのは楽観的すぎるだろ。

 それこそ疑心暗鬼になって話しかけてもまともに返事をしてもらえないくらいの事はあるかもな。

 それが何日も何十日も続いたとして、あんたらはそれを耐えられるのかい?」


 宗司さんが彰さんと千夜さんにそう問いかけると、2人は俯いて黙ってしまった。

 咲夜に素っ気ない態度をとられ続けることを想像して落ち込んでいるのだろう。


「宗司さんが言うことはもっともかもしれないけど、それほど心配する必要はないんじゃないかしら?」


 そんな2人を黙って見ていられなかったのか、千春さんが2人に声をかけていた。


「何度か咲夜さんと会った事があるけれど、あの子は心の優しいいい子だと思うわ。

 そんな子が仲良くなりたいというあなた達の想いを無下にするとは考えられないもの」

「まあ咲夜さんなら確かに母さんの言う通りになるでしょうね」


 千春さんの発言に冬乃が頷いているけど、僕も同意見だ。

 咲夜の性格上、素っ気ない態度をとることはないだろう。


 固い表情をしていた彰さんと千夜さんが千春さんの言葉で少し表情が和らいだタイミングで、柊さんが宗司さんの頭を軽く叩きながら2人に笑みを向けていた。


「彰さんと千夜さん、うちの旦那が脅すような事を言ったが、こいつは最悪を想定して言っただけさ。

 少なくともそのくらいの心構えを持てば、何があっても諦めずにいられるだろ?

 あたしが見る限りじゃ、少し仲がこじれてるくらいだから根気強く接していけば、2人の望む結果に辿り着けると思うぜ」

「すまない2人とも。言い過ぎたかもしれないが柊の言う通りだ。

 俺が結局言いたいのは諦めずに接し続けることが大切だということだからな」

「そう……だね。ありがとう宗司さん。お陰でこれからどうしていけばいいか分かった気がするよ」

「気にしないでくれ。娘を持つ親同士じゃないか。困ったことがあったらまた相談に乗るからいつでも連絡してくれ」


 いい感じに話はまとまり、彰さんと千夜さんは胸にストンと落ちたかのような、どこか吹っ切れた表情をしていた。


 ……ところで僕ってこの場に必要なかったんじゃないかな?

 前日ストレス抱えながらこの場をセッティングしただけで、有用な意見なんて何も言えなかったよ……。

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