エピローグ1

 

≪矢沢SIDE≫


 自分は思いっきり伸びをしながら、ここ最近までの煩わしさから解放された反動からか、自然とため息が出ていた。


「はぁ~。ようやく最近になって落ち着いてきたよ」

「そうねぇん。学校の外で知らない人に声をかけられることはなくなったし、学校内でも節度を持って接してくるようにはなったわねん。

 でも、この短期間に何があったのかしら?」


 確かにケイの言う通り1週間ちょっとしか経ってないと思うけど、諦めるにしては早すぎるし、国が何かしらの対策をとってくれたんだろうか? まぁでも――


「平和なのはいい事だよ」

「これがいつまで続くかが問題よねん」


 不穏なこと言わないでよ。



≪桜SIDE≫


「あ~終わったー」

「サポートに回っていたこっちが驚くくらい早く終わらせたさね」

「当然だよ。文化祭までにはなんとか終わらせられないかなって頑張ったわけだし。さすがに間に合わなくて文化祭がほぼ終わってるけど」

「それに関しては悪いと思ってるさ」


 私も文化祭に参加できなかったし、そう思うと本当に間の悪いタイミングで外国からの刺客が大勢きたものさね。


「それにしてもいくら蒼汰が危険に晒される可能性を提示したとはいえ、この依頼を引き受けてくれるとは思わなかったさ」

「ふふっ、まあ確かにいつもならこんな依頼引き受けたりせずに無視していただろうね。せめて文化祭の後とかなら引き受けてたかも」

「それなら一体どういう風の吹き回しだい?」

「そうだね。強いて言うなら嫌な噂話を耳にしてね」

「嫌な噂話?」

「実は――」


 彰人から語られた噂話はとんでもない事であり、私はすぐさま彼の肩を掴んで揺さぶっていた。


「なんでそんな大事な事を言っておかないのさ!!」

「えっ、知らなかったの?」

「聞いたこともないし、それが本当ならこんな事やってる場合じゃなくないさ!?」

「ん~でも日本はほぼ関係ないよね。Sランクダンジョンの【魔女が紡ぐ物語クレイジーテラー】がいなくなったわけだし。

 それにどこが狙われるかなんて皆目見当もつかないから、できることなんて結局たかがしれてると思うよ」


 それを言われるとそうなんだけど、そうじゃないんだよ!

 万が一を考えて備えておく必要があるんだよ!


「でもその話が本当なら、なんで彰人は今回の依頼を引き受けてくれたのさね?

 嫌々だったけど割とすぐに引き受けてくれたじゃないさ」

「ん? だって今回の件って、外国の色々な人達が来てくれるよね。だったら利用しない手はないよね~」


 あくどい笑みを浮かべてるさ。

 下手な事して国際問題になるような事だけは止めて欲しいね。


「一体何をしたのさ? 後から問題になるような事だと困るんだけど」

「蒼汰達が海外に行くことになった時のために手を打っておきたかっただけだよ」

「……ああ、そういう事さね」

「分かったの?」

「分からない訳がないさ。インキュバスの力を使って逆にハニトラ仕返したんでしょ」


 ただ追い返しただけでなく、自らの手駒になるように堕としていたのか……。ん?


「追い払うだけならもっと早く終わったんじゃないさね?」

「それじゃあボクが何のために協力したのか分からないじゃないか。さすがに海外ともなると距離がありすぎて使い魔から情報を得る事ができないからね」


 はぁ。協力を要請した手前、それに文句をつけることは出来そうにないか。


「海外に冬っち達が行くことになると思うさ?」

「十中八九そうなるんじゃない?」

「だよね~」


 お金を山ほど稼いだのに、また危険な目に遭うことになりそうだなんて同情するしかないさ。



≪???SIDE≫


 “平穏の翼”。この組織を作り上げてからの悲願が達成できそうなことに喜び震えながら、私は目の前に置かれている物を大切に持ち上げる。


「準備は整った。前回の試運転では出力不足だったがほぼ望みの結果は出た。改良を重ねたなら十分効果を発揮するだろう」

「度重なる実験の末、ようやく完成しましたね」

「ああ。長い年月をかけてようやく完成した。危ないところだった。

 まさかSランクダンジョンの【魔女が紡ぐ物語クレイジーテラー】が討伐可能となるとはな」


 本来であれば後一度くらいは日本で実験を行いたかったのだがこうなっては仕方ない。

 ぶっつけ本番となるがやるしかないだろう。


「組織の者達には下手に動かないように命令していたせいで、フラストレーションが溜まっているようだし、時期的にも丁度いい。

 おそらくこの1回が我々に残されたチャンスだろう。これを作るのに莫大な金がかかっているし、二度とこんな機会はないのは間違いない」

「そうでしょうか? 矢沢恵を始末すれば他のSランクダンジョンの【魔女が紡ぐ物語クレイジーテラー】の討伐には少なくとも後数年かかることになると思いますが」

「それも考えたが、やはり後始末をしてくれる者は必要だろう。

 矢沢恵の周囲にはボディーガードが複数いるが問題なく殺せるとはいえ、我々だけで後始末をするのはハッキリ言って無理だと言わざるを得ないからな」

「ですが我々とは志の違う組織の者は間違いなく暴走しますから、どの道矢沢恵が殺されるのでは?」

「その時はその時だ。どちらにしろ我々の目的はこれを発動した段階で達せられる……はずだ」

「その完成品は試運転してませんから、実際どうなるか分かりませんものね」


 未完成品で【魔女が紡ぐ物語クレイジーテラー】の一部を地上に呼び出せたのだから、要らない心配だろうがな。


「さて、我々の悲願を果たす約束の地へと向かうことにしようか」

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