第27話 残骸
『いやー! こっちに向かって来ないでー!』
『先輩、そんな乙女みたいな悲鳴を上げながら逃げないでくださいよ!?』
ミノタウロスの出した魔法陣が僕の近くにも出現した結果、そこから現れた全身茶色のぼろ布を着た1人の小柄な少女に僕は現在追われていた。
『冗談はともかくマジでヤバい! 適当に[フレンドガチャ]で出た要らない物を投げつけながら逃げてるけど、引き離せないどころかドンドン近づかれてる!』
不川さんの[女王の号令]で身体能力を強化されていなかったら、とっくに追いつかれていたんじゃないだろうか?
『蒼汰君、すぐに助けに――』
『いや、それはいい。みんなはミノタウロスに集中して。ヤバいけど、なんとかするから!』
まな板、包丁、フライパン、鶏肉、醤油、酒、みりん、砂糖、皿などなど、空中に放り投げて少しでも敵の動きを妨害していく。
料理でも作るのかと言わんばかりのラインナップばかり投げてた気がするけど、そんな事を気にしている場合じゃないし、気にしてくれる敵でもない。
あのミノタウロスが召喚した敵ならワンチャン食い物に釣られてくれないかとも思ったけど、全く気にせずに2本の短剣を操り、降ってくるものを弾き逸らしてしまう。
『■■!』
「うわっ!?」
何を言っているのか分からない声と共に短剣を投げつけられたので、慌てて横に避けようと動いたけど、足がもつれてこけてしまった。
『■■■』
「危なっ!」
追いついてきた少女が短剣で刺してこようとしてきたので、[フレンドガチャ]から小さい机を取り出して盾代わりにして防ぐ。
だけど一撃目は防げても次の二撃目を防ぐには体勢が悪く、適当な物を取り出したところで次もそれで防げるかはかなり怪しい。
「おらっ!」
『■■!?』
ここにいるのが僕だけなら。
「助かりました、穂玖斗さん」
「気にすんな」
穂玖斗さんが大剣を振り回して攻撃をしかけたのを、少女は牛の被り物を弾き飛ばされながらもバックステップで回避したので、僕から離れて攻撃出来なくなったため助かった。
なんとか穂玖斗さん達のいるところの近くまで戻れたため、こちらの様子に気付いた穂玖斗さんが助太刀に来てくれた。
しかし意外だった。
大樹が駆けつけてくれるだろうと期待してこちらの方に戻ってきたのに、まさか穂玖斗さんが来るなん――
そんな事を考えている余裕は、ミノタウロスが召喚した少女を見たら吹き飛んでしまった。
「えっ……?」
「嘘だろ!?」
こちらを生気のない虚ろな瞳で見てくる少女は、死んだと思われた鈴さんだった。
『………』
「ちっ! おい、鈴何しやがる!?」
鈴さんは無言のまま今度は穂玖斗さんへと攻撃をし始める。
まるで自分の意思など無いと言わんばかりに、穂玖斗さんの急所をまるで機械の様に淡々と狙ってきた。
そしてそれは鈴さんだけでなく、召喚された30人近い人間全員が近くにいる人間に対して攻撃しており、その人物達は全員死んだと思われた人達だった。
「くっ、おい、お前ら。意識はあるのか!?」
『『『■■』』』
大樹が他の人達と協力しながら戦っている人は性癖三銃士の3人であったし、周囲を見渡すと
「あのミノタウロスの力か? ちっ、鈴相手だとちっさいから戦いにくいぜ」
小柄で俊敏に動く鈴さん相手に大剣で戦っているからか、かなり戦い辛そうだ。
いや、知人、友人相手なら戦い辛いのは当たり前だろう。
「食った人間を使役し呼び出す能力ってところか。だが呼び出された人間は、あのミノタウロスと遭遇する前ほどの力はなさそうだな」
しかし穂玖斗さんはそんなやりづらい状況でありながらも、鈴さんと戦いながら冷静に分析してるのは普通に凄いと思う。
「悪いな、鈴。無傷で止めるのは無理だ」
戦ってる時に何度も声をかけたり、気絶させようと腹を強打したりしていたけれど、一向に止まる事のない鈴さんにどうしようもないと判断したんだろう。
穂玖斗さんがその手に持つ大剣で鈴さんを切ろうとした。
「待って!」
「あぶね!? 何しやがるこのみ!」
なっ、穂玖斗さんが鈴さんを切ろうとした時、このみさんが[火魔法]で穂玖斗さんの妨害をしてきた!?
「お願い止めて! 鈴を傷つけようとしないで!」
「馬鹿な事言ってんじゃねえぞ! こいつがまだ生きてんのかもう死んでるのかも分からねえが、放置しておけばこっちが殺されかねないのに、そんな事言ってる場合か!?」
「ダメ……。ダメよ。鈴を傷つけようだなんて、そんなの許せない……」
マズイ。鈴さんが殺されて精神的に不安定だったけど、ミノタウロスという復讐相手がいたことでそちらに殺意のベクトルが向いていたから問題なかった。
なのに今ここにきて鈴さんが現れた事により、鈴さんを守る方向にシフトしてしまった。
敵の対処だけでも厄介なのに、ここに来て味方が邪魔をするだなんて……。
「このみ、落ち着きなさい」
和泉さんがこのみさんの肩を押さえて、今にも穂玖斗さんに攻撃しかねないこのみさんを止めていた。
「黙ってケイ! 鈴を傷つけるなら誰であっても――」
「落ち着きなさい!!」
「っ!?」
和泉さんの一喝が効いたようで、ビクリと体を震わせた後体の力が少し抜けたように見えた。
和泉さんも同じように感じたのか、話を聞ける状態になったと判断した和泉さんが諭すような口調で、このみさんに話しかけ始めた。
「あれは鈴じゃないわ。[鑑定]持ちの子が教えてくれたの。“食われし残骸”だそうよ」
「そんな……」
「もう、死んでるわ」
和泉さんは涙をポロポロと流し始めたこのみさんを抱き寄せ、このみさんを落ち着かせるためか背中をさすりながらこちらに視線を向けて来た。
「あの子はあたし達に任せて頂戴。同じパーティーメンバーとしてけりをつけるわ。だからあなたは早く自分のパーティーメンバーの助けになってあげなさい」
「は、はい!」
「俺も行くぜ。この状況じゃ前線にも人手がいるだろ」
「お願いします穂玖斗さん」
僕は穂玖斗さんと共に乃亜達のいるところへと向かった。
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