第28話 シリアス……ん?
≪和泉SIDE≫
穂玖斗ちゃんと蒼汰ちゃんがミノタウロスと戦ってる子達の援護に向かって行く。
『■■■!』
「ダメよ、させないわん」
そんな彼らに対して鈴が攻撃を仕掛けようとしたから、あたしがすぐさまその間に入ってその攻撃を止めたわ。
そのあたしを敵と認定したのか、短剣を使って首や心臓を狙って攻撃を仕掛けてきたわねん。
『■■■■』
何を言っているのか分からないけど、もう鈴じゃないことだけが攻撃を通じて嫌でも伝わってくるわ。
「仲間に対してこんなにも容赦のない攻撃をする子じゃないもの。現れた時は生きているのなら助けたいと思っただけに、残念だわ……」
あたしは鈴の攻撃を[フィジカルプロテクト]で受けきる。
オーラのようなものが体を覆い、全身鎧を着ているかのような防御力を得る事が出来る。
1部分だけに集中して覆うことで、その箇所だけ防御力を格段に跳ね上げる事も出来る便利なスキルで、前衛は出来るだけ持っていた方が良いスキルねん。
もっとも今の鈴相手にわざわざ1箇所だけ集中して守る必要はないのだけど。
鈴がよく使う、高速で移動することのできる[瞬動]のスキルはおろか、[斬撃強化]や[バックアタック]なんかの攻撃系スキルも使わないんですもの。
身体能力は上がってるけど、おそらく[身体強化]なんかのスキルじゃなくて、ミノタウロスによって強化された肉体なんでしょうねん。
スキルを使えない鈴相手なら、それほど苦戦することはないわ。
もしかしたら使ってくる可能性もなくもないけど、スキルを使って来ない内にこのみにキチンと聞いておかないといけないわねん。
「このみ、あたしが鈴を止めていいのね?」
「……私にどうしろって言うの?」
投げやりな口調でただ立ち尽くす姿は痛々しいわねん。
「あなたが誰よりも辛いのは分かってる。けど、鈴をこのままミノタウロスのいいように操らせて、人を殺させようとする人形にする方がもっと残酷なのよ」
「分かってる。そんな事は分かってる! でも鈴なの! そこにいるのは紛れもなく鈴なの! 私に、鈴を傷つける事なんて……」
「そう……。それならそれで構わないわ。でもせめて、最後のお別れぐらいはした方がいいと思うわ」
このみはようやく伏せていた顔を上げると、ぐしゃぐしゃな顔で鈴を見ていた。
「ごめん……、ごめんね鈴。お姉ちゃんなのに、守ってあげられなくてごめんね」
このみはそれ以上は何も言わず、じっと鈴を見つめ続けた。
鈴の近くにいるあたしが聞こえているのだもの。鈴が聞こえていないはずがないわ。
お姉ちゃんの想いは十分に伝わった事でしょう。
なら、あたしが出来る最大の方法で弔ってあげる。
「目をつぶっていなさい、このみ。あたしが出来るのは物理攻撃だけだもの。きっと酷いものを見る事になるわ」
あたしは拳を強く握り、[身体強化][腕力強化]の強化系スキルを使い構える。
「……ん? え、あ、ちょっと待ってケイ!」
「どうしたの? あまり別れを惜しむと辛くなるわよん」
「違う、そうじゃないわケイ。どうやって鈴を止める気?」
「どうやってって、そんなのあたしが出来ることなんて全力の[ラブ・インパクト]で跡形もなく吹き飛ばすぐらいねん」
「待って、本当に待って! 私がやるから、お願いだからケイは手を出さないで!」
「無理、しなくていいのよ?」
「妹が木端微塵にされるくらいなら、私がやった方が数倍マシよ!!」
気遣ったつもりだったのに逆に怒られちゃったわねん。何故かしら?
「ならあたしが引き付けてあげるから、このみが弔ってあげなさい。[挑発]」
「言われなくても分かってるわ。[精神強化][思考加速]」
念のため[挑発]を使って鈴をこちらに引き付けておき、このみの準備が出来るのを待つ。
もしかしたら躊躇って準備が出来ず、中々撃てないかもしれないと思ったけれど杞憂だったわねん。
数秒としない内に準備が整ったようで目で合図が送られたから、鈴を出来るだけ優しく掌底で引き離す。
「じゃあね、鈴。〝プロミネンス〟」
このみが放てる最大の[火魔法]が鈴の全身を覆いつくしていく。
白に近い色の高熱な炎が鈴のいる範囲だけを燃やし、フッと炎が消えた時には鈴の姿はどこにもなくなっていたわ。
「………」
何もなくなってしまった場所をただ見つめ続けるこのみに、あたしはそっとその肩に手を添える。
「このみ、辛いようなら恵のステージの傍にいなさい。あたしは他の操られている子を止めに行くわ」
「……大丈夫、私も行くわ。ケイに任せたら酷い事になるでしょうから」
袖で涙をぬぐって顔を上げるこのみの表情はどこか吹っ切れているように見えたし、これなら本人の言う通り大丈夫そうねん。
「さっさと片付けて、こんな胸糞悪い事した牛をぶっ殺すわよ」
「お口が悪いわねん。でも、ミノタウロスをとっとと倒すのは賛成だわん」
あたしとこのみは“食われし残骸”に対して躊躇して攻撃出来ないでいる子達の元へと駆ける事にした。
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