3章
プロローグ
《蒼汰SIDE》
「おはようございます」
「ああ、処する」
「おはようございます」
「処する」
「……おはようございます」
「処する処する!」
………。
「おう蒼汰。いつも校門前で挨拶するとかよくやるな」
「おはよう大樹」
「処する!」
………。
「……ねえ大樹?」
「どうした蒼汰?」
「なんで男子全員、僕が挨拶すると処するって返してくるの!?」
朝から校門前で挨拶していたら、女生徒は普通に挨拶し返してくるけど、何故か男子達は
あの時いたクラスメイト男子達だけじゃないの!!?
「ああ、そんな事か」
「いやそんな事って……。挨拶するたびに刑でも執行するかのような返事が返ってくるの嫌なんだけど」
「あはは」
「笑いごとじゃないんだけど彰人!」
いつの間にかやってきた彰人が笑っていたけど、僕にとっては笑いごとじゃ済まないんだけど。
「しょうがないんじゃない? だって
「えっ……? あれ、テレビに流れたの?」
年に一度京都市で迷宮から出てこないはずの魔物たちが出てくる現象、
いつものパーティーメンバー、1年生で小柄な体型の高宮乃亜と同級生で狐娘の白波冬乃、そして新たに加わった、3年生で変則的なポニーテールの髪型の四月一日咲夜と一緒に3日間魔物と戦い続けることになった。
その初日にテレビ関係の人に取材を受けたけど、まさか僕らの映像が流れているだなんて思わなかったよ。
しかもその時の発言まで使われているだなんて……。
「知らなかったのか? って、ああ。蒼汰の家、テレビないもんな」
「売り飛ばしてガチャ代にしたよ」
あのテレビで回したガチャでようやく欲しいキャラが出たんだ。
何かを得るには何かを失わなければいけないということだよ。
「でもいい加減買ってもいいんじゃない?
「考えとく」
サラリーマンの平均年収くらいは稼いだけど、特に不便に感じてなかったから買ってないんだよね。
まあ大樹達が家来てゲームとかするならいるだろうから、買っといてもいいかな。
課金が出来ていた時にはそんな思考をする日が来ることになるなんて思いもしなかった……。
テレビなんかよりガチャでしょ!
「そんな事より、なんでテレビで流れたからって、処するが僕に対する挨拶の返事になるのさ? 誰が広めたんだよ」
「もちろんクラスメイト男子全員だ」
「昨日の今日で何してんの!?」
昨日「処する」って言って囲んできたばかりなのにもう全学年に広めてるとか、嫉妬心に駆られると人はこんなにも行動力溢れる生き物になるのかと、逆に感心するよ、って……ん?
「いやちょっと待って。男子全員って、彰人もなの!?」
「ごめんね♪ 面白そうだったからつい」
「酷い……」
挨拶するたびに処するって言われる身にもなって……。
「あ、先輩おはようございます」
「あ、うん、おはよう」
若干落ち込んでたら、乃亜が登校してきて僕に駆け寄って来た。
「どうしたんですか先輩? そんな暗い表情をして」
「挨拶するたびに男子達から処するって言われ続けるのは嫌だなって思って」
僕が一体何をしたって言うんだ!
「先輩が実害を被るのであれば実力行使で排除しますが、その程度であれば有名税ということで諦めるしかないのでは?」
今サラッととんでもないこと言ったな。
「それに男子全員に言われるということは、全生徒にわたし達の関係が広まったということなのでむしろ良いことでは?」
「いや、良くは無いよ。というか割と元々広まってなかった?」
校門前で挨拶してたら、ああこいつかって目で見られること結構あったよ。
「全校生徒が先輩を見てすぐに気づくほどの知名度ではなかったかと」
「まだその程度だったらマシだったかもしれない」
殺意のこもった視線は辛いです。
まだ全員が殺意のこもった目でなく、むしろ悪ふざけで言っている人の方が多いだけマシかと思っていたら、背後から突然ギュッと何かに抱き着かれた。
「わっ」
「おはよう」
「ああ、咲夜か。おはよう」
「うん、えへへ」
咲夜は挨拶をすると、僕に抱き着いたまま嬉しそうに笑う。
それを見た周囲の男子から、さっきまで殺意の欠片もなかった人からも鋭い視線が……ヒェッ!
「あ、ズルいです咲夜先輩。わたしも、きゃっ!」
正面から近づいてきた乃亜が、何もないところでつまずき僕の方へと倒れてくる。
支えてあげようとしたかったけど、咲夜に抱き着かれて動くことが出来なかった僕は、ある考えが頭をよぎり手を伸ばして支えるべきか一瞬迷った。
いつものパターンだとここで胸を揉むことになる。
校門前でそれはマズイと思い手を動かすのが遅れた結果、下からすくい上げる様に動かした手を丁度乃亜がそれにしがみつくようにしたせいで、手がスカートごしに乃亜の股に挟まってしまい、胸を揉むよりもマズイ光景が出来上がってしまった。
「あうっ」
「ちょっ、乃亜離れて!?」
これはヤバすぎると急いで乃亜に離れるよう言ったけど、時すでに遅かった。
「処する?」
「当たり前処する」
「処するしかない」
「何で処するかいまいち理解できてなかったけど今分かった。処そう」
「処する処する処する処する処する処する処する処する処する処する!!!」
最後の大樹じゃないか!?
恨みがましい目で見られても事故なんだって!
「朝から元気よね、あんた達」
「あ、冬乃」
周囲の男子達の謎のボルテージが異常なまでに上昇している中、呆れた表情で冬乃がやってきた。
「ま、蒼汰がこいつらに袋叩きにされるのはいいとして」
「いや、全くよくないよ。あくまで事故だから」
そんな僕の心からの叫びは周囲には全く響かず、包囲網がジリジリと僕を中心に迫ってきているのを感じる。
「蒼汰は少なくとも手だけは守りなさいよね」
「スキルだけ使えればいいと!?」
「動けなくても誰かが背負って行けばいいじゃない」
「僕が動けないほど重傷でもダンジョンに連れまわされるの!?」
「じゃあ怪我しないように必死に逃げ回りなさいよ。今日の放課後もダンジョンに行っていっぱい稼ぐんだからね!」
「はぁ。分かったよ」
僕は殺気立ってる男子達からどう逃げようかと悩みながら、僕もレベルを上げたいのでそれに素直に頷いた。
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