第1話 昨日の出来事

 

「ああ、課金してぇーー!!!」


 ――ピロン 『スキルが一時的に変質し、派生スキルの一部がアップデートされました』


 っ!? あまりの課金のしたさに我を忘れていたよ。

 頭に直接メッセージ音が響いてこなかったら、いつまでもダンジョン内で叫び続けていたんじゃないだろうか?


「って、うわ、何これ?」


 まるで黒いわたあめが僕の体の所々に絡みついていて、この黒いのは振っても離れそうになかった。


「いつもの〔忌まわしき穢れはブラック逃れられぬ定めイロウシェン〕の形態とは違うようだし、成功って思っていいのかな?」


 いつもなら粘質性の墨みたいなのが弾とかに絡みつくから、〔典外回状〕が発動したと思っていいはず――って、それなら僕のスキルは一体どうなったんだ?!


 僕はすぐさまスキルを確認する為、ドキドキと鼓動を早めながらステータスボードを開き、いつものスキルが記載してある箇所に目を通す。


 [ソシャゲ・無理のない課金]


「なんだこの微妙に抵抗している感は」


 はっ!? ま、まさか……!!?


 僕は慌ててステータスボードのスキルのところをタップし、すぐさま詳細を確認する。


 [ソシャゲ・無理のない課金]:ひと月に課金できる限度額が5000円までになる。


 か、課金制限……!


「何でだよ!? もう課金でいいじゃん! 課金させてくれよーーーー!!!」


 とめどなく涙が溢れてくるよ……。


「しかも5000円とか、小学生でももっと課金するぞ、おいーーーーー!!!」


 自分のスキルに何を叫んでいるんだと思われるかもしれないけど、そう叫ばずにはいられなかった。

 僕が小学生の頃は2万、3万当たり前だった事を考えると、むしろ小学生以下なのではないだろうか?


「酷い……酷すぎる。こんなぬか喜びさせるだなんてあんまりだ……」


 スキルが変質して、派生スキルがアップデートされた、って言われた後の僕のワクワクを返して……ん?


「アップデートされてるの?」


 [無理のない課金]になっただけじゃなくて、派生スキルの方も何か変化あるのか。

 メンタルに凄い響いたし、少しでも気を紛らわすためにそっちもついでに確認しておくか。


 ───────────────

 鹿島 蒼汰

 レベル:68

 HP(体力) :161/161

 SV(技能値):154


 スキルスロット(1)

 ・[ソシャゲ・無理のない課金]

 →派生スキルⅠ:[ガチャ]

 →派生スキルⅡ:[チーム編成]

 →派生スキルⅢ:[放置農業]

 →派生スキルⅣ:[カジノ]

 →派生スキルEX:[自動チャージ]

 ───────────────


 [放置菜園]が[放置農業]に変わっているのは、“平穏の翼”に襲われた時に冬乃がラミアを倒して、経験値を得てレベルアップした時に変化したものだから、これは問題ない。


 そんな事よりも、とんでもない派生スキルが増えている方が重要だ。

 派生スキルEX:[自動チャージ]って何?


 ……いや、分からないフリは止めよう。

 こいつ、さては課金させる気ないな?


 僕は震える手で[自動チャージ]のボタンをタップし、詳細を確認した。


 [自動チャージ]:スキル所有者が所持する金銭から、自動的に月の限度額までスキルに入金する


「Noooooooooo!!!!!!」


 つまり僕がアプリゲーで課金しようとして〔典外回状〕発動させても、勝手に限度額まで持ってかれるせいで結局課金出来ないってことじゃん!?


「嘘でしょ!? 限度額があるのすら酷いのに、勝手に人の金をむしっていくとかあんまりだ! うわああああああーーー!!!!」


 ◆


「そんな訳で、結局課金は出来ないままだったよ」

「つまり今までと変わらないって事ですか」

「まさか少しの課金も許されないとは思わなかったよ。しかも[ソシャゲ・無理のない課金]や[自動チャージ]は〔典外回状〕発動させてる間だけで、効果が切れたら[ソシャゲ・無課金]にもどったし」


 あれで完全に心が折れたせいで、ダンジョンから自分のマンションの部屋に帰ってくまでの記憶もなければ、今日学校に来るまでのことも覚えてないくらいだ。


「それにしても先輩。[自動チャージ]がスキルに入金するって説明文ですけど、入金されたお金はどうなってるんですか?」

「あっ」


 言われるまで持ってかれたお金の事とかすっかり忘れていた。


 僕は慌ててスキルの詳細を調べていくと、いくつかの変更点が見つかった。


 [ガチャ]に謎の[有償ガチャ]が出現しているのと、[放置農業]の有償による特殊なカスタマイズ、[カジノ]のメダルを購入できる3点だった。


「さて回すか」

「早速[有償ガチャ]だね」

「やっぱり分かる?」

「分からない訳がない」


 さすが彰人。僕をよく理解している。


「いえ先輩。先輩を少しでも知った人なら、すぐにでもガチャ回すんだろうなって分かりますよ」

「え、ホント?」

「蒼汰の事だから、それ以外ないでしょ」

「ガチャが好きだもん、ね」


 冬乃や咲夜にも同意されてしまった。

 いいじゃん。好きな物は好きなんだから。


 僕はそう思いながらスキルの[有償ガチャ]を発動させた。

 するとスキルのスマホにどこかで見たメッセージが流れだす。


『まさか課金させないスキルで課金されるとは思いませんでした。いい加減諦めればいいのに……』

「諦めるくらいだったらダンジョンに潜ってねえ」


 また人をおちょくるメッセージを寄こしてきやがった……!


『出来てしまったものは仕方がないので、早速ガチャの説明に移ります。と、言ってもそれほど難しいことはありません。3000円で1回ガチャを回せます。以上』

「説明する気がないなら、メッセージ寄こすな!」


 しかも5000円チャージしてるのに3000円で1回しか回せないとか、全額ガチャに使わせる気がないのがムカつく。


「せめて何が出るのかの説明くらいは欲しかった……」

「そう言いながらも、ガチャのところをタップしてるじゃん」


 回さない理由がないからね。

 さて、何が出るかな?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る