第13話 ぼ、僕は手なんて出していない!

  

「うっ……、ここは?」


 どうやら少女が目を覚ましたようで背後から声が聞こえてきたから、僕は背中を向けたまま声をかけることにした。


「大丈夫?」

「あ、あなたは?」

「えっと、君がゴブリンに運ばれているところを目撃したから助けたんだ。君は何があったか覚えているかな?」


 何がどうしてゴブリンに運ばれることになったのか気になるけれど、無理に聞くことはできない。

 ただ少なくとも、自分が何故そんな恰好でいるのかは思い出してくれないと、僕の両手が前で拘束されかねないのでそこだけはお願いします。


「あ、はい。今日1人で初めて3層へと来たのですが、1組のゴブリンと戦っている時に不運にも背後からもう1組のゴブリンに襲われまして……。なんとか3体倒したところまでは覚えているのですが、気が付いたらここにいました」

「あーなるほど。運が悪かったね」

「はい……」


 少女のトーンの落ちた声が聞こえてきたので、おそらく少女は落ち込んだ表情でもしているのだろうけど、あいにく僕が今そちらに視線を向けるわけにはいかない。


「あ、あのさ」

「はい、なんでしょうか?」

「誤解しないで欲しいんだけど、僕が君を助けた時にはその姿だったから」

「はい? その姿………っ!」


 少女の息をのむ音が聞こえてきた。

 そりゃ起きていきなり異性の前で自分の姿が半裸だったら恥ずかしいよね。


「ゴブリンが破ったのか知らないけど助けた時にはすでにそんな恰好で、えっと、その……」


 なんか疑惑が高まりそうな言い方をしている気がしないでもないけど、こんな時どう言えばいいんだ!


「い、いえ大丈夫です分かっています! と言いますかこれはどちらかと言えばわたしの方の問題なので気にしないで下さい!」

「そ、そう」


 よかった、性犯罪者扱いされなくて……。


「このマントはあなたのですよね? 申し訳ありませんがダンジョンを出るまでは貸していただきたいです」


 その状態の君からマントをはぎ取るとか鬼畜の所業だよ。


「いや別にそれはあげるよ。と言うか、他にもあげるからそれも着て」


 僕は[フレンドガチャ]を起動させると適当にシャツやズボン、下着などの衣類を取り出す。

 小柄だけど胸が大きい彼女の服のサイズなんて分からないけど、[フレンドガチャ]で取り出す衣類系のアイテムはその時の用途に応じて、ある程度サイズが勝手に変わってくれるので結構便利だ。


 誰にその服を着せたいかを念じながら取り出すだけでピッタリのサイズが出るのって、地味に凄いよ。


「わっ、何ですかそれ?! スキル、ですよね?」

「まあうん。あんまり詳しいことは言えないけど、物を限定的にだけど取り出せるんだよ」


 できれば別のスキルが良かったと何度思ったか分からないけど。おのれ神。


「ありがとうございます」


 少女がお礼を言うとガサゴソと衣擦れ音が聞こえてきたので、早速服を着始めたみたいだ。


「あの、こちらを向いていただいて大丈夫ですよ」


 しばらく待っていると声をかけられたので、僕は少女の方へと振り向いた。

 渡した服は地味な物だけど、少女の整った顔立ちが服を映えさせているのか普通に似合っていた。

 腰まである長い髪を首の根元で2本に分けて変則的なツインテールにしていて、僕の胸ほどの身長しかないのも相まって幼げな彼女の雰囲気にピッタリだけど、ダンジョンに入っていい年齢には見えないね。


「あの、服がピッタリなのはスキルのお陰、ですよね? 下着までサイズがピッタリなんですけど、失礼ですがもしかして……」

「安心して欲しい。これは取り出すとき誰に使用するか事前に決めておくと勝手にジャストフィットで出て来る仕様だから」


 だから君の身体をまさぐってサイズを知ったわけではないと、強く主張した。

 寝ている女の子に好き勝手やるとか最低なことしないからね!


 そう言うと、少女はホッとした表情をして頭を下げた。


「助けていただいてありがとうございます。わたしは高宮乃亜といいま……もしかして鹿島先輩ですよね?」


 少女、高宮さんは頭を上げて僕の顔を見るなりほぼ確信を持っている口調で問いかけてきた。

 どうやら僕のことを知っているようだけど、僕は彼女を全く知らない。

 果たしてどこかで会ったことがあっただろうか?


「あっ、すいません先輩。わたしが先輩を一方的知っているだけです。

 先輩はおそらく覚えていないでしょうが、毎朝校門前で挨拶をされているので学校で有名になっていましたから」


 どうやら高宮さんは僕が通う学校の生徒であり、先輩と僕を呼ぶので1年生のようだ。


「ありがとうございます先輩。もしも先輩に助けていただけなかったら今頃ゴブリンたちに食べられていたかもしれません」


 高宮さんは自分が食べられることを想像して若干顔が青くなっている。

 ただあれは明らかに別の意味で食べようとしていたと思うのだけど、それは言わない方がいいよね。


「あの、先輩。助けていただいてさらには服まで頂いておいて申し訳ないのですが、もしもよかったらダンジョンから出るまで一緒に同行してもいいですか? 武器とかが無くなってしまったので、このまま1人では外に出れそうにもなくて……」


 申し訳なさそうに上目遣いで尋ねてくる高宮さんを見ると、その幼さもあって庇護欲が湧いてくる。

 まあ別に高宮さんでなくても、助けておいて武器もないのに、はいさようならする気はないけれど。


「分かったよ。それじゃあ一緒に外に出ようか」

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