第5話 将来の展望

 

 僕らは馬渕校長の招待を受けた次の週の月曜日に、早速冒険者学校を訪れ校門前に立っていた。


 いささか急ではあるけれど、1日でも多く占有ダンジョンに潜るのであれば早めに冒険者学校を訪れた方がいいからね。


 馬渕校長が言うにはダンジョン遠征までに多くの生徒を勧誘しているそうなので、それまでに冒険者学校に来てくれればいいとは言っていた。

 留学するのが早い分には構わないとも言っていたので、お言葉に甘えて僕らはすぐに行動したわけだ。


「秋斗と夏希が遅くまで2人だけで過ごさせる事になるのが唯一の懸念点だったけど、乃亜さんのご家族が助けてくれると言ってくれた時は本当に助かったわ」


 そう言って安堵の表情を浮かべているのは冬乃だ。

 確かに冬乃の母、千春さんは仕事で帰ってくるのが遅いし、朝も早くに仕事に出かけてしまう。

 そこに冬乃がいなければ、必然的に小学4年生の秋斗君と3年生の夏希ちゃんだけが残される事になるからね。


 ご飯だけを考えたとしても、今までは幼い2人に火を扱わせられないと冬乃が調理していたらしいから、いきなりやれと言われても難しいだろう。

 そうなると千春さんが前もって作るか店屋物で済ますしかないけど、仕事で忙しそうな千春さんに無理をさせると体を壊しかねないだろう。


「いえいえ。さすがにまだ小学生の子達だけでお留守番させるのも問題ですし、母達も子供の面倒を見るのは好きですから気にしないでください」


 赤ん坊になっていた時に冬乃家の家庭事情を僕は知ったから、そうした問題に気が付いた僕は乃亜へとコッソリ相談してみたところ、「確かにそれは問題ですね」と今乃亜が冬乃に言ったような感じで言うと、すぐに親御さんへと連絡してくれた。

 その連絡を受けて、即答で預かっていいと返事を返してくれた乃亜の母達、亜美さん達には感謝しかないよ。


「2週間も2人を預かってもらうのだし、今度お礼に行かないとね」

「母達はむしろ喜んでいるので、お礼とか気にしなくていいですよ?」

「駄目よ。親しき中にも礼儀ありって言うのに、乃亜さんの家族とは迷宮氾濫デスパレードで顔を合わせた程度なのだし、そこはキチンとしておきたいわ」


 まあさすがに2週間も世話をしてもらっているのに、お礼も何もしないのは心苦しいよね。

 冬乃の圧に負けたのか、少したじたじになりながら乃亜が頷いてるけど、もしも僕が冬乃の立場でも同じように何が何でもお礼をしなければと思うだろう。


「ところで咲夜はここに一緒に来て良かったの?」

「ん、問題ない」

「……3年で受験生なのに?」


 もう7月であり、受験の準備をするのであれば、ギリギリのリミットではないだろうか?

 大学によってはそれほど頑張らなくても入れるだろうけど、そんな所にいったところで大学生活を楽しむために行くようなものになってしまうだけだと思う。


「大学には行かないから大丈夫。それに大学に行ってまで特に学びたいことはないし、冒険者として活動することに決めたから問題ない」

「冒険者一本でいくとか大胆だね」

「みんなは大学行くの?」


 そう咲夜に問いかけられて返答に困ってしまう。

 正直特に何かなりたいものがあった訳でもなく、日々をなあなあで過ごしてガチャ回してただけだから、[無課金]が身に着くまでは、存分に課金が出来るようにある程度いい大学に入って給料のいい会社に就職したいな、って漠然と思ってただけなんだよね。


 しかしそんなフワッとした人生設計も[無課金]にぶち壊されてしまった訳だけど。


 課金は出来ないと困るけど、それは一先ず置いて将来を考えると、冒険者をやっている方がお金を稼げるのは間違いない。

 ただ僕の場合だとみんなありきで稼げてるからな~。


 僕個人ではF、いやレベルを考えるとEランクのダンジョンに行ける程度だろうし、ダンジョンで稼ぐには毎日のようにダンジョンに潜り続けないと、生活していけないんじゃないだろうか?


 そんな風に悩んでいると、乃亜が僕の腕を取ってくっついてきた。


「わたしは先輩次第ですね。先輩が大学へ行くのであればわたしも着いて行こうと思いますし、冒険者として活動するのであればわたしも一緒に活動していきたいと思います」


 それを聞いて少し嬉しくなったけれど、それはそれで乃亜の事が心配になるな。なんせ――


「そんな人任せで将来決めていいの?」


 さすがに将来をそんな風に決めるのはどうなんだろ。


「まああくまで今の希望ですし。でも割と本気です」


 その目には強い意志が込められており、まるで曲げる気がないかのよう、ってこの場面でそんな確固たる意志を見せられても!?


「私も咲夜さんみたいに冒険者として活動するでしょうね。大学に行くにはお金もかかるし、普通に就職するよりこのメンバーでならかなり稼げるわよ!」


 冬乃の大学に行かない理由には得心が行ったけど、それよりも冬乃はこのメンバーで卒業後も活動したいと思ってくれているのが嬉しい。


「僕はまだキチンと決めてないけど、出来れば今後もこのメンバーでダンジョンに潜れたらいいとは思ってるよ」

「ふふ。学生の内に組んだパーティーメンバーとは、卒業してもそのままずっと組み続ける場合が多いから、おそらくその希望は叶うだろうね」


 校門に背を向けていた僕は、声のした方へ慌てて振り向くと――


「ごめんね立ち聞きなんかしちゃって。君達が今日新たに短期留学で来てくれた人でいいのかな?」


 黒髪を姫カットにしている僕より少し小柄でスレンダーな女子高生がそこにいた。


「初めまして。自分はこの学校で生徒会長をやってる、矢沢やざわめぐみって言うんだ。よろしくね」

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