第25話 [マンスリーミッション]って地味な能力だ

 

 矢沢さんのスキル[アイドル・女装]が再使用可能になった日、再び僕らはダンジョンの奥地へと向かう事になった。

 もっとも今回の目的は以前とは違うのだけど。


 それにしても信玄に殺された人もいるというのに、以前と変わらないメンバーが【魔女が紡ぐ物語クレイジーテラー】の討伐に参加している事を心強く感じるなぁ。


『歩かなくていいって良い……』


 ……僕の背中にプラスワンがいる事以外はメンバーは変わらない。

 信長ローリーを運べるのが僕しかいないとはいえ、地味に辛いんだけど。


 もっとも人一人背負って歩くのは地味にキツイけれど問題は無い。

 僕には[マンスリーミッション]で手に入れた専用アイテム、タンクトップがある。

 このタンクトップはスタミナ自然回復機能がついているため、着ている間はある程度なら疲労しにくくなる便利アイテムなのだ。


 ……ショボくない?

 地味っていうか、乃亜達が着るコスプレの劣化版っていうか。

 しかもこれ1カ月で消失するから、もしもまた欲しかったら[マンスリーミッション]をクリアしないといけない面倒くさい仕様だし。


 これ手に入れるためのミッション、合計10kgの野菜の摂取だったんだけど、なんで自分のスキルにキチンと野菜も食えと言わんばかりのミッションを押し付けられないといけないの?

 効果は地味に有用だから、次の[マンスリーミッション]もクリアするつもりだけどさ。


 月に3つあるミッションの内、他の2つの[マンスリーミッション]も無駄に健康的な生活を意識しているかのようなお題ばかりなんだけど気のせいかな?


 ・合計30キロのジョギング:報酬〈速度強化のミサンガ〉

 ・10回部屋の掃除:報酬〈視力回復の目薬〉


 絶対気のせいじゃないよね?

 便利アイテムがタダで手に入るけど、なんで自分のスキルに健康を促されないといけないんだろうか?


 ただ、スマホの見過ぎで視力が若干落ちてたから、視力回復の目薬が微妙にありがたいのが何とも言えない……。


 微妙だけどありがたい[マンスリーミッション]の恩恵を感じながら、いつ武将達が襲ってくるのを警戒していたわけだけど――。


「今のところ、武将達は出て来ませんね」


 初日に1体、2日目で2体と順調だったのに、乃亜の言う通り武将達の姿は見当たらなかった。


「あと3体なのよね。長宗我部元親と浅井長政と――」

「謙信……」


 冬乃の言葉を遮り、咲夜が顔をしかめて上杉謙信の名前を呼んでいた。


 そりゃそうだよね。

 迷宮氾濫デスパレードで咲夜は謙信に嫌な目に遭わされたし。

 その分最後にフルボッコにしていたけど。


 残り3体の武将を倒して信長ローリーを連れて行くだけなのだけど、その3人の武将が一向に現れなかった。

 安全地帯を設置した場所まで戻って来たのに、現れるのはスケルトン達ばかりであった。


「まさかまた矢沢さん達の所に現れてたりしないよね?」

「でもその場合は連絡があるはずですが……」


 使い捨ての魔道具で、どこにいても連絡が出来る代わりに希少で高価なアイテムをいくつか亮さん達に渡されているので、もしも連絡がありこちらが呼び出されても問題ない状態であれば[役者はここに集うオールスター緞帳よ上がれカーテンコール]で呼び出されるはず。


 つまりあちらにも武将が現れていないわけだけど、こうも一向に現れないとヤキモキするなぁ。

 まあ、Sランクダンジョンなだけあってダンジョンが広大でまだまだ下の階層があるのだから、そこで待ち受けている可能性の方が高そうだけど。


 僕ら以外の冒険者の人達も、できれば武将達が1体ずつ現れてくれないかなと思いながらドンドンダンジョンの奥へと進んで行った。


 そうしてダンジョンの中を進んで3日経った。


 安全地帯の設置は昨日行っており、もうその設置を行えるほどのリソースは貯まっていないため、本来であればここで僕らは咲夜の〔紡がれた道しるべアリアドネ ロード〕でダンジョンから脱出しているのだけど、背中の信長ローリーの存在がそれを許さない。


「あとどのくらいで本能寺のある場所につくのか……。それに武将達も一体どこに?」


 この広大なダンジョンを3日で行ける距離なんてたかがしれている事を考えると、今回は一旦戻って作戦の組み直しになるんじゃないだろうか?


 今回は信長ローリーの存在により、武将が3日で復活することがない事を確認するのと、他の武将達を倒すのだけが主な目的だった。


 そもそも矢沢さんの蘇生スキルを当てにしてるけれど、人間がどれだけ頑張ってもまともに起きていられるのはせいぜい1週間前後。

 そんな短い期間でこの広いダンジョンにいる武将と目的場所本能寺をそもそも探しきれるわけがなかった。


 まあ最初は武将を信長含めて6人倒すだけだと思っていたから、大勢の人間がダンジョンに入っていけば襲いに来るだろうと目論んでいたのもあって、3日でいけるはずだと思われてたからね。

 おそらく次の作戦では矢沢さんも同行しながら、本能寺を探し回る事になるんじゃないかな~?


 そう思っていた時だった。


『本能寺? いいよ、行こっか』

「はっ?」


 僕のつぶやきを拾ったのか、信長ローリーが急にそんな事を言い出し始めた。


『もう疲れたから早く終わらそ』

「え、どうやって?」


 人の背中にずっと乗っかってただけのくせして疲れたとはどういう了見だ、と言うよりもどうするつもりなのかの疑問の方が大きくそれを聞いていた。


『ボクがどうやって君のいたところに来たと思っているの?』


 言われてみれば確かに。

 突然現れた事に驚いてしまったけど、その方法については何も聞いていなかった。


『“怠惰”の魔女は気力をなくすだけじゃない。過程を省略し結果だけを求める怠け者』

「まさか……!?」


 ――パチンッ


『ここが本能寺だよ』


 信長ローリーが指を鳴らした直後、いきなり僕らの目の前に寺が現れた、いや、僕らが寺の前に現れてしまった。

 どうやら転移の類でいきなり連れて来られてしまったようだ。


『ようやく来ましたか』


 目の前に上杉謙信がいるというオマケ付きで。

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