第13話 一パーティーにつき一本までとさせて頂きます

 

 木で作られた簡素な看板。

 どこにでもあると言えば語弊があるが、少なくともふとした拍子に見かける程度の物だろう。


 そんな物に対して大抵の人間は思い入れはないんだろうけど僕にはある。


「ああ、あの時に[画面の向こう側]が使えていればなぁ……」

『どうしたのですご主人さま?』


 アヤメが生まれるきっかきになったエバノラの試練、あの看板と似たようなものがあったので思わず思い出さずにはいられなかった。

 しかし今はそんな場合ではない。


 はてさて、この看板にはなんて書いてあるのだろうか?


 ――――――――――――――――――


 〖聖剣あり〼〗

 ※一パーティーにつき一本までとさせて頂きます


 ――――――――――――――――――


「いやなにこれ?」


 書いてある事の意味が分からない。

 いや、意味は分かるのだけど頭がついていかないというか、まるでバーゲンセールか何かの様に聖剣があるような看板の記載には疑問しか浮かばないよ。


「そう思うわよね。えーっと……」

「あ、鹿島蒼汰です」


 パトリシアさんが僕の方を見て言葉に詰まった様子を見て察した僕は、すぐに自分の名前を告げた。


「ん、ソウタね。ほら見てよあれ」


 パトリシアさんが指さす先には巨大な岩。そして――


聖剣よ」


 まるで黒ひ〇危機一発のごとく大量に突き刺さっている剣があった。


「エクスカリバーフェスティバル!?」

「イギリスで聖剣と言えばそれなんだが、その言い方は止めてくれないか鹿島先輩」


 オリヴィアさんが眉をひそめてそう言うけど、これだけの聖剣を前にしたら思わず出てしまったのだから勘弁して欲しい。


「この状況からして十中八九カリバーン、まあ物語によってはエクスカリバーでいいんでしょうけど、そうなると【魔女が紡ぐ物語クレイジーテラー】はアーサー王なのかしら? 厄介ね」

「アーサー王のような知名度の高い存在だと強力な敵だという話だしな。困ったものだ」


 エクスカリバー=アーサー王は当然の図式であり、日本でもっとも有名なものだとF〇O――ではなくアーサー王伝説……やっぱりF〇Oか?

 ともかく【織田信長】の時のように武将達がTSして登場してくるのは十分あり得る。


 ……ん? そう言えば【織田信長】の時、挑戦する側が明智光秀になってたか。

 この状況、なんだかその時と似た感じな気がするなぁ。


「もしかしてあの時と同じか?」

「鹿島先輩何か知っているのか?」


 僕のつぶやきに反応したオリヴィアがスクリーンに映る僕の方を向いて尋ねてきた。


「あ、いや、別に確証があるわけじゃないんだけど、前に“怠惰”の魔女であるローリーの試練を受けた時と状況が少し似ていて」


 僕は挑戦者が明智光秀の立場になって【織田信長】を倒した時のことを説明すると、オリヴィアさん達は揃って頷いていた。


「なるほどな。たしかに聖剣を抜くのはアーサー王であることを考えると、敵がアーサー王ではない可能性の方が高いか」

「それじゃあうちらがアーサー王の立場だとすると、敵はモードレッド?

 カムランの戦いでモードレッドとの一騎討ちで瀕死の重傷を負って死んだという話があるし、有り得なくはないかしら」

「だが決めつけるのは早計だろう。アーサー王に関わる存在はそれこそ無数にいるのだから」


 アーサー王に関わるならギルガメッシュとかが出て来る可能性も否定はできないよね? 

 乖〇剣使ってこられたら100%死ぬから、それだけは止めて欲しいけど。


「ま、今考えても情報が足りな過ぎるし無駄でしょ。それより剣を抜いてさっさと次に行きましょ」

「たしかにそうだな。一パーティーにつき1本だけのようだし、私が持っていくぞ」

『お願いするのです。ワタシやママじゃ持ち運べませんし、ご主人さまはあの中ですから』


 アヤメの言う通り、僕らのパーティーに剣を持ち運べるのはオリヴィアさんしかいない。

 元々オリヴィアさんのメイン武器が剣だし、この先の試練で使うことになることを考えるとオリヴィアさんが持っていくのが都合がいい。


「うちらはあんたが使いなさい。リヴィと同じで普段から剣を扱ってるし丁度いいわ」

「はっ」


 パトリシアさんのパーティーの方では屈強な男達の中でも細身な男性が剣を引き抜き、抜いた剣をよく観察していた。

 オリヴィアさんもその男の人に続いて剣を抜き、抜いた剣を見たが首を傾げていた。


「どうしたのオリヴィアさん?」

「いや、何と言うか聖剣という割にはただの剣のようだと思ってな」

「そうなの?」


 パトリシアさんがオリヴィアさんの発言に眉をひそめながら剣を抜いた細身の男の人に目を向けると、男の人は頷いて口を開く。


「はい。私が見る限り、この剣に特別な力があるようには思えません」

「そう。それじゃあそれはただの聖剣のパチモンってこと? 持ってく意味あるのかしら?」


 たしかに必要かどうか分からないものを持ち運ぶのは嫌なのは分かるけど、試練に必要になる可能性は大いにある以上、ここで持って行かないと魔女を倒せないしこの先危険が増すかもしれない。

 そう思い思わず口出ししていた。


「試練には何かしら意味があるし、不要だと判断して持って行かないのはマズイと思うよ。

 僕が挑んだ【魔女が紡ぐ物語クレイジーテラー】の中に【ミノタウロス】がいたけど、それを倒すのに道中で集めた短剣がないとかなり苦戦を強いられたのは間違いないし」


 僕がそう口にすると、パトリシアさんが目を丸くしてこちらを見てきた。


「【織田信長】の話をしていたのに【ミノタウロス】まで……。あんた、一体どれだけ【魔女が紡ぐ物語クレイジーテラー】に関わってるのよ」

「え? う~んと8、いや9体くらい?」


 エバノラの試練も含めるとそのくらいだろうか?


「え、なに? あんた死に急いでるの?」

「別に好きで遭遇してるわけじゃないんですけど!?」


 今回みたいに仕方ない状況じゃなきゃ挑んだりするわけないよ!


「まあでも経験豊富な人間がいるのはいいわね。あんた、リヴィじゃなくてうちに付きなさいよ。相応の報酬は払うわよ?」


 唐突にそんな事を言ってきたパトリシアさんに対し、僕は即座に首を横に振る。


「悪いけど断るよ。そういうのは間に合ってるし、僕はオリヴィアさんのパーティーメンバーだから」

「鹿島先輩……」


 そもそもいきなり知らない人間と組むとかできるはずないし連携も取れないよ。


「ふ~ん生意気。あんたうちの下僕にしてやりたいわね」

「なんで!?」


 何が琴線に触れたのか知らないけど、まるで獲物を見る様な目で僕を見るのは勘弁してくれませんかね……。

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