第37話 骸骨シリーズ

 

『……はぁ。あの姿がフィルムに残ってると考えるだけでも正直嫌だわ』

『今更なんですから諦めましょう』

『デジタルだったらお願いして消してもらえただろうけど、フィルムじゃさすがに今すぐ冬乃のだけ消してもらうのは出来ないからね』


 4度目の休憩後、僕らは再度戦闘を行っているわけだけど、雑談しながら余裕で対処出来ていた。

 ちなみに冬乃が他の冒険者が来る前に持ち場を離れた件については次は気を付けてね、と軽い注意だけにとどめた。だって滅茶苦茶落ち込んでる冬乃に強く注意は出来なかったから……。

 落ち込む冬乃だけど戦っていたら気が紛れたのか、だんだん調子を取り戻していた。

 だから5度目の休憩まで余裕で対処できる――はずだった。


『なに、あれ?』

『〔籠の中に囚われし焔ブレイズバスケット〕を耐えられた……?』


 他の骸骨に比べて一回り大きく、他と違い鎧だけでなく兜まで身に着けたスケルトンと、その傍には陰陽師みたいな恰好をしたスケルトンが他のスケルトンは吹き飛ぶ中、その2体だけがその場に残っていた。


 大きなスケルトンはその手に持つ巨大な戦斧を構え、陰陽師の方は紙を複数枚、扇のように広げて持った。


 ――カタカタカタ


 今までのスケルトン達と違い、2体は歯を激しく鳴らし、戦斧を持つ方は凄まじい勢いで向かって来て、陰陽師はこちらに向かって紙を数枚投げてきた。


 誰が見ても分かる。

 あの2体は他のスケルトンとは違うと。


『乃亜、戦斧の方を止めて! 冬乃は投げつけられたのを[狐火]で迎撃!』

『『了解!』』

『咲夜は乃亜が足止めした戦斧の方を、隙を見て倒して』

『分かった』


 今なら〔籠の中に囚われし焔ブレイズバスケット〕で他のスケルトンがほとんど吹き飛んだから、3人であの2体に専念できる。

 そう判断した僕は、バリケード入口近くで普通のスケルトンが入らないよう時間を稼ごうと、乃亜達の様子を見ながら移動した。


 ――カタカタ


 骨だけの体のどこにそんな力があるのか謎だけど、両手で持った戦斧を凄まじい勢いで乃亜に向かって叩きつけてきた。


『〈解放パージ〉』


 僕だったら大ダメージ間違いなしだったけど相手が悪かった。

 乃亜の持つ〔報復は汝の後難と共にカウンターリベンジ〕でその衝撃は吸収され、瞬時に倍の威力で返ってきた衝撃に耐えられなかったのか、戦斧は明後日の方へと飛んでいき、スケルトンは仰向けになって引っくり返ってしまった。


「はっ!」


 その隙を逃すことなく、咲夜はスケルトンの腹部にかかと落としを決めて鎧ごと砕き、あっさり戦斧の方のスケルトンを倒してしまった。


 残りは陰陽師の方だけど、先ほどからボンッ、っと爆発音が断続的に周囲へと響いている。


『あいつが投げる紙切れが爆弾みたいな効果を発揮するのか、[狐火]とぶつかると爆発するわ』

『冬乃が爆発させてるんじゃなくて?』

『違うわ。ただ燃やそうとしてるのに爆発するのよ』

『紙そのものが爆弾って、なんか変な敵ですね』


 乃亜の言う通りだ。

 紙じゃなくてもっと投げやすいのを投げればいいと思う。


『まあ見た目陰陽師っぽいから、そういう魔法、というか陰陽術なんだろうけどね』


 あの紙が陰陽術を発動させる媒体となってるんだろうし、紙を投げているとは思えない速度で飛ばしているから、なんの問題もないんだろうけど。


『戦斧の方は倒したから、あっちも倒しに行けばいい?』

『いや、咲夜は乃亜と一緒に周囲のスケルトンを狩ってて』

『ん、分かった』

『分かりました』


 チラホラ来ていたスケルトンを僕は[フレンドガチャ]から出た物を投げつけたり、シャベルを振るって時間を稼いでいたけど、残念ながら僕ではスケルトンの鎧に守られていない箇所を狙って攻撃しないと倒せず時間がかかるので、周囲に集まってきているスケルトンを間引いてもらわないと困るのだ。


 そんな訳で、あの陰陽師のスケルトンは僕と冬乃で片づける必要がある。

 恰好的に結界とか張りそうだし準備しとくか。


『〈解放パージ〉』

『蒼汰は何をする気なの?』


 僕がスリングショットの弾に〔忌まわしき穢れはブラック逃れられぬ定めイロウシェン〕をコーティングしたのを見て、冬乃が困惑気に尋ねてきた。

 確かに誰も結界なんて張ってないから、使う意味なんてないかもしれない。

 だけど相手が明らかにゴブリンメイジと同じで陰陽術という名の魔法を放つタイプなので、準備していてもいいと思う。


『相手が明らかに魔法使いっぽくて、冬乃が攻撃してきたら結界とか張って防御するだろうから、結界を張った直後に無力化してやろうと思って』

『へぇ、いい考えじゃない。じゃあ私もいくわよ!』


 冬乃はそう言って自身も【典正てんせい装備】を構えて陰陽師に向けて構えた。


『それじゃあ僕が先に撃つから、その直後にお願い』

『タイミングをミスっても何度もやり直せばいいわよ』

『それもそうだね。じゃあ、3、2、1、0』

『〈解放パージ〉』


 僕がカウントダウン後に弾を放った少し後に、冬乃も〔籠の中に囚われし焔ブレイズバスケット〕で炎を射出した。

 それを見た陰陽師が予想通りすぐさま結界を張るけれど、僕が先に放った弾が結界へと着弾した。


 よし、タイミングバッチリ!


 そう思った次の瞬間に炎が着弾した時だった。


 ――ドゴォン!!!


『『『『なっ!?』』』』


 今までにない威力で陰陽師を中心に周囲一帯を吹き飛ばしていた。

 というか僕らの服もちょっと破けたんだけど、余波がこっちにまで来てるじゃん!


『ちょっ、冬乃。力込めすぎでしょ……』

『いや、私はさっきまで撃ってた炎の威力を変えてないわよ。そもそも蒼汰に出してもらったものをそのまま撃ってるんだから、変わってる訳ないじゃない』

『だとしたら冬乃先輩が今回撃ったのだけ、なんであんなにも威力が強かったんでしょう?』

『……陰陽師だったから、陰陽五行?』

『なにそれ咲夜?』

『五行相生と五行相剋って聞いたことない?』


 あ、そう言われたら分かる。

 相生と相剋という、それぞれの要素同士がお互いに影響を与え合って、相手に強く影響を及ぼしたり、逆に影響を弱めたりするやつだ。


 そう考えるとさっきの陰陽師、冬乃の「火」に対して、「水」の結界を張ってたかもしれないけど、僕の〔忌まわしき穢れはブラック逃れられぬ定めイロウシェン〕は効果を反転させるものだから、逆に冬乃の「火」が強くなってしまったのか。


『なんと言うか、効果を反転させるのも考えものだね』

『先輩の【典正てんせい装備】は結界を単純に無力化する訳ではないから、余計にですね』


 僕らは陰陽師がいた地点を中心に、周囲にいたスケルトン達があらかた吹き飛んでしまったため、次のスケルトンが来るまで暇を持て余すことになってしまった。

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