第10話 涙のSOS

 

『パパに一体何をしたのです?!』


 そう言いながらアヤメが僕のスキルのスマホから飛び出してきた。


『我が子の言う通りじゃ。お主、クロに一体何をした?

 返答次第ではその身、八つ裂きにされる程度で済むと思うでないぞ』


 シロはスマホの中からではあるもののその気迫は充分に伝わってきており、サラはビクリと体を震わせ……ん?


『フ、フヒッ。お、親子……。親子なのねあなた達……』


 なんだか様子が変なような?

 怒られて恐怖によって震えているのではなく、どこか興奮して震えているかのようなそんな感じに見える。


『ク、クロちゃんとは親子でその中の人とは夫婦なの……』

『『あ、マズいわ』』


 マリとイザベルが不穏な事をボソリと言いだした。


 え、何がマズイの?


『フヒッ、フヒヒヒヒッ! あなた達の所にクロちゃんが戻ってくることはないわ!』

『なんでなのです!?』

『なんじゃと……』


 サラの挑発するような言葉にアヤメは悲痛な叫びにも似た声を、シロは静かながらも怒気のこもった声を漏らしていた。


 というかさっきからサラがクロのことをちゃん付けで呼んでいるのは何故?


『だってクロちゃんは――』


 その答えはサラが出現させた僕の[画面の向こう側]と似たスクリーンを見たら一目瞭然だった。


『わたしの旦那様になるんだから!』


 白いタキシードに白いネクタイを着けた虎人のクロが椅子に縛り上げられ、拘束されている絵面を僕らはどんな気持ちで見ればいいのだろうか。


『『やっぱりまた監禁してるのね』』


 マリとイザベルは心当たり、というかさっき監禁云々言っていたし、今と似たような状況だったんだろうなぁ。


 ん? スクリーンに映るクロにもこっちが見えているのか目が合ったな。

 そう思ってみていたら、クロの口がパクパクと動き出したぞ。


 タ・ス・ケ・テ、タ・ス・ケ・テ、タ・ス・ケ・テ――


 ……クローーーー!!


 何度も繰り返されるSOSに涙を禁じ得ない。

 虚ろな目がより悲痛さを物語っており、それを見ていると早く助けねばという気持ちが湧き起こるよ。


『貴様、早くクロを解放せぬか! そやつは妾のものじゃ』

『そうです。早くワタシ達のパパを返すのです!』


 シロとアヤメがサラを鋭い目で睨むも、その視線を受けたサラは何故か恍惚な笑みを浮かべ自身の身体を抱きしめていた。


『わ、わたし、嫉妬されてる……!』


 あまりの表情に激昂していたシロとアヤメがドン引きし、威勢を削がれてしまっていた。


『この子、“嫉妬”なだけあって人を妬み羨ましがりやすいのだけど――』

『その性分なせいか、いつも自分が向けているはずの嫉妬が向けられる事に得も言われぬ興奮を覚えるようになっちゃったのよね』

『だから好きになる相手は基本的に恋人がいる相手で略奪愛が何より好きなの』

『でも理性がギリギリ働いているのか、既婚者にだけは手を出さないのよ。今回の場合は珍しく恋人云々関係なく好みの相手が既婚者だと知った今までにないパターンだけど……どうも知らなかったからしょうがないって感じなようね』


 もしかしてそんな理由もあってこんなふざけた結界を創ったわけじゃないよね?

 違うと言ってよ“嫉妬”の魔女……。


 恋人のいる人間でも通れる人間と通れない人間がいるからさすがに違うだろうけど、少しはその私情が結界に反映されている気はする。


『フヒッ、フヒヒヒヒッ。か、返して欲しかったら試練を乗り越えてわたしのいる場所までやって来ることね。

 そ、それではお姉さま達、久しぶりにこうして顔を合わせられて嬉しかったですよ』

『ええ。それじゃあせいぜい頑張りなさい』

『大変だと思うけど気を付けてね』

『なんでわたしの方が試練を受けるかのような心配をされないといけないんですか!?』

『『だって、ねえ……』』


 マリとイザベルはそう言いながら僕の方を見てきた。解せぬ。


『い、未だ誰一人わたしの所に辿り着けていない試練、クリアできると思わないことね』


 なんか僕に矛先向いたんだけど、僕何も言ってないよね?


 そんな僕の疑問をよそにサラは消えてしまい、マリとイザベルは満足したのかとっとと帰ってしまった。

 相変わらず自分勝手な2人である。


 まあ結界の事とか知れたいことは知れたので問題があるとすれば――


『こんなふざけた結界を創るやつ、とっとと倒してパパを取り返してやるのです!』

『うむ。妾も球体の状態であれば外に出れるから、妾も全力で試練とやらに挑んでやるそ!』


 無駄にやる気になってしまったこの2人だ。

 さすがに球体で試練を受けるのは無理じゃない?

 というか、この2人が挑むなら確定で僕も行かないとダメだよね。


 元からクロを助けるために来たけれど、さすがに戦力に不安が残るよ。

 なにせこの結界を通れたのは僕、オリヴィアさん、アヤメにシロだけなのだから。


 そう思いながらみんなとどうするか一旦相談することにした。

 どんな試練か分からないし戦力不足な状況。


 そんな行くのが躊躇われる状況で乃亜がとんでもない事を言い出した。


「分かりました。それじゃあ1週間待っても出て来られなかったら自害して[セーブ&ロード]使用しますね。今この時をセーブ地点にしますので安心してください」

「自害するとかとんでもない事言ってるね?!」

「ですがクロさんを助けに行きたいんですよね? それにどの道先輩が戻ってこなかったら[セーブ&ロード]を使いますよ?」


 そう言われてしまうと何も言えない。


「ありがとう乃亜。助かるよ」

『ありがとうなのです』

『感謝するぞ』

「いえ、むしろこの程度のことしか出来ないので申し訳ないです」


 いやいや十分だよ。

 これなら不安も最小限で挑めるというもの。


「それじゃあ命の保証は出来たけど、せめてパーティーの人数はフルで行きたいところだよね。

 シロじゃ僕の[チーム編成]の対象にならないから、オリヴィアさんとアヤメ以外にもう1人一緒に行ける人がいればいいんだけど……」


 3人までなら[チーム編成]で強化できるし、最大人数で行きたい。

 問題は見ず知らずの人といきなりパーティーを組むのは不安だし、さっきいた秒速崩壊パーティーみたいな人と一緒にいくのは別の意味でも不安なことだ。


 これは諦めるしかないか?


「あら、リヴィじゃない。久しぶり」


 ん? 誰だ?

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